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土曜ワイド工場
 
フルコースを逆から食べると死ぬらしい


いつ、どこで聴いた話なのか忘れたが、ずっと忘れられない噂があった。
「フルコースを、逆から食べると死ぬらしい」。
すごいインパクトだ。小学生が考えた伝説みたいだが、「フルコースを食べる」という発想はコドモにはないだろうから、コドモが考えたものではないだろう。
どこの誰が考えたんだろう。妙に信憑性があるような、無いような…。
日本人が考えたネタじゃ、ないのかもしれない。

フルコース…。
正直言って、きちんとフレンチを食べたことなんて、身内の結婚式の時くらいしかないので、それが一体どういうものなのか、いまいち分かっていない。
もちろん「逆に食べる」っていうのがどういう事態なのかも、さっぱり想像つかない。

食前酒、オードブルからはじまって、デザートとコーヒーでしめる、というのは、一応知っている。
でも、それを逆にするとそんな…、天に召されちゃうほどの衝撃が…? 
なに? なんで? なにがどうして?
居酒屋だってさ、皆、バラバラに適当に、メニューを頼むじゃない? でも死なないじゃない…?

何がどうアレなのか、やってみるしかあるまい。

というわけで今回は……命を懸けてみた。

大塚 幸代



予算がなければ知恵を出すべし

しかし、フレンチのフルコースを、食べに行く予算がない。
それ以前に、ひとりでフランス料理店に行って、「逆に出してくださる?」と言う勇気なんかない。
頼んだら苦笑いして出してくれるような、馴染みで行きつけの料理店なんかも、あるわけがない。

仕方ないから、自分でカスタマイズすることにした。
まずはカフェ(といってもイタリアントマト)で、コーヒーを摂取。


そして、フルコースで言うところの『アントルメ(甘い菓子)』である、ケーキを食べる。

まあ、コーヒーの後にケーキ食べても、普通にうまい。

ここまでは全然平気だ。でも、甘物は案外腹がふくれる。

もうこれで夕食済ませちゃおうかな…、みたいな気分になったが、闘いはこれからだ。

たまーに行く、新宿の立ち飲みフレンチ屋さん(フレンチとしては超格安)の前で、友人と合流。
「アタシは好きなものを、好きな順で食べるからねー」と突き離したコメントをされながらも、入店。
突き出しがクスクスのサラダだったので、食べる。


「なんで普通にサラダ食べてるの? 最後のほうに食べるんじゃないの?」ときかれたが、これが、間違いじゃないのだ。

なんと、フルコースは、デザートの前にサラダが入るのだ。今回調べるまで、知らなかった。
皆さん知ってました? なんで野菜食べるんでしょうね。
肉肉野菜、って焼肉のようなノリなんだろうか。

次は『ロティー』だ。第二の肉料理というヤツで、主に焼いた鴨、キジ、鶏、七面鳥などを指すらしい。
黒板に書いてあるメニューを見て、「地鶏の白レバーの網焼き」をチョイスした。


……う、うまい。

大変にうまい。何をどういう技術で加工したらこうなるのか分からないが、やわらかでくさみのないレバーがいい。キンカン卵がまたうまい。口の中に入れると、ぷちっとはじけて、半熟の部分がとろっと舌に広がる。

この時は、赤ワインを飲んだ。


赤から白、そして最後にスパークリングワインにしようという、通常と逆に飲んでいく試みだ。

次は『ソルベ』、冷菓。でもこの立ち飲みフランス店には甘いものが置いてないかったので、あきれる友達を店に残し、いちばん近くのコンビニに走る。
ハーゲンダッツ・ソルベ・フランボワーズを、夜道で、もくもく食べる。


甘酸っぱい、高級なシャーベット。

絶対に美味しいアイスのはずなんだけど…、なんだか舌がおかしく感じた。
ちょっと甘酸っぱさが、舌にダイレクトに届かないような? なぜに?
ハーゲンダッツってこんな味だったっけ?

急いで戻って、『アントレ』、第一の肉料理 を選ぶ。
普通はステーキ系らしいのだが、子羊の焼いたやつが売り切れだったので、「塩豚のやわらか煮」をオーダー。


これは、この店に来る時に必ず頼むメニューで、絶品で、どの友人も「うまい!」と言ってくれる(あのグルメライター高瀬さんも絶賛)品なのだが…。

すっごい美味しいのに、ツライ…。
いつも「超とろける〜」と思いながら食べる脂身の部分が、とくに辛い。ねっとり、しつこく感じてしまう。
いつもなら、酒! 肉! 酒! 肉! と、ぱっくぱく食べるところなのに。箸がすすまない(この店は、フォーク&ナイフでなく、カジュアルに箸だ)。
いつもだったら大食いの友人も、つられて、あんまり食べない。
なんで食べられないんだろう、いつもなら平気な量なのに、と思いながら、少し残してしまった。ありえない…! 絶対にありえない!!

今度は『ポアソン』、魚料理 だ。この日は店員さんの釣ってきたというサワラを、料理してくれるということだった。
新鮮なサワラ、上にかかっているハーブ、添えられているシシトウ、みんな大変絶妙な味付けで、サッパリして美味しい。


しかし、箸はゆっくりとしか進まない…。

白身を、もさもさ、もさもさと食べる。口は美味しいと感じるのに、身体がなんだか拒否をしてる。
ここでワインを白に切り替えた。


しかしワインも、進まない…。

料理も酒も、総量はそんなのでもないのに、なんだか胃が重くなっていた。

次は『ポタージュ』だ。スープ全般のことを指すらしいのだが、これもお店には無かったので、コンビニまで走る。
あたたかいものを飲んだら胃が落ち着くかな、と思っていたら、お腹から、ぐるぐるぐるぐるギュー、と変な音が鳴り出した。
目もまわってきた。
景色もまわる、地面が回転する。

ま、まずい。
大変にまずい。

汗が、ひゅわーっと、背中と首ににじんだ。
手のひらもしめってきた。
その場にしゃがみこむ。

じっと足先を見る。自分は何やってるんだろう、と、涙が出て来そうになったが、いまはそんな、日々の生活の反省をしている場合ではない。
よろよろと立ち上がり、フレンチの店に戻る。
「あ、まずい、スープの写真撮影するの忘れた」と思ったが、それどころじゃなかった…。

「……顔、青いけど」
友人に言われた。
これから、前菜、『オードブル』とスパークリングワインを頼んだら、逆フルコースが完成するんだけど、と伝えたら、
「でも、食べきれないっぽくない?
  無理すると……ひょっとして、リバースしない?」
と言われた。
たぶん、と答えると、
「やめとけ」
と言われた。
もっともだ。

……というわけで、人に止められて、死なずに済みました。


「死ぬ」っていうのは要するに、悪酔いするよ、身体に悪いよ、という意味なんだと思う。
でも、それをキッカケに、何か身体の悪い部分が目覚めて、本当にショックで死んじゃう人も、いるかもしれない。

伝説は本当だった。甘くみていたのに、まさか本当だったとは…。
あぶない。危な過ぎる。

きっと、フルコースって、たっぷり気持ち良く料理を食べるためのプログラムとして、特別に優れているのだろう。
だから逆っていうのが、身体に衝撃を与えてしまうのだ。

ほんと、逆に食べちゃいけません、絶対に。やばいっす。


 
 

 

 
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