なけなしの1000円札
ついこないだ乗せた学生さんの話です。東中野から乗って来ましてね、どうやらこの4月に名古屋から東京に出て来たばかりらしく、まだまだ東京に慣れてないんですね。それで近い距離かもしれませんが場所が良く分からないのですいません、と言ってましたよ。目的地はワンメーターくらいの距離でした。
話を聞くと、名古屋から休みを利用して親友が遊びに来ているようで、その友人をご馳走するためにバイトをして1万1千円を用意したらしいんです。親友の為にバイトをしてお金を作るなんて感心な話だなぁと思って、その学生さんを褒めたんですよ。学生時代の友だちは一生物だから大事にしなさい、なんて説教じみた話を交えながら。そしたら学生さんも喜んでくれて、会計の時に1000円札を出してお釣りはいらないって言うんですよ。私は大切なお金だからお釣りをもらってくれ、って言ったんですけど、学生さんは良いから良いからとお釣りを受け取らずに降りて行ったんです。
仕方ないのでお釣りは渡さずにその1000円札をしまおうとしたら、驚きました。学生さん、1000円札と1万円札を間違えて置いていったんですよ。その1万円がどんなお金か知っていたので、私は慌てました。車を降りて、そこら辺にある居酒屋に片っ端から入っていって、さっきの学生さんを探しました。どのお店に入ったかまでは分からなかったから。4軒目だったかなぁ、いましたよ、その学生さん。友人と2人で向き合って座ってました。私は入口から学生さんを呼んで1万円札を渡したんです。学生さんは最初驚いて、その後は喜んでくれて、その友人も一緒になって何度も何度も頭を下げてました。本当に良い友だち関係なんでしょうね。
自分が学生時代だった時のことを思えば、あの1万円札の重みが分かりますからね。なんだか貧乏だったあの頃を思い出せて、すがすがしい夜でしたよ。まあ、今も変わらず貧乏ですけど。 |