小さい頃、ショッピングセンターの一番の楽しみはボールのプールだった。ボールのプールに行きたくて、母親の買い物に付いて行ったのを良く覚えている。
しかし、印象は強いのだけれど記憶はおぼろだ。もう一度、あの楽しかったボールのプールがどんな物だったのかを確認したくなった。
(斎藤 充博)
おしっこ漏らすほど楽しいらしい
「ボールのプール」と言っても、すぐにはピンと来ない方も多いかもしれない。ボールのプールとは、その名の通り、ゴムのボールで空間を満たしている遊具である。昔も今も、主に中規模以上のショッピングセンターに設置されていることが多い。
ボールと言ってもその抵抗感は本当のプールに決して引けを取らない。ボールをかき分けて歩く感触など、まるで日本海の荒波をかき分けて進んで行くようであった、と記憶している。いや、日本海に行ったことはないのだが、そういう印象だったのだ。
このボールのプールで遊んでみたい。そんな気持ちを周囲に漏らしてみたところ、「子どもは楽しすぎておしっこを漏らしてしまう」「だからボールのプールはくさい」という話が聴こえてきた。
楽しすぎてもらしてしまうらしい
ぼくは小さい頃そんな失敗をしたことはない。ボールのプールってそんなに理性のタガ(膀胱排尿筋)が外れるほど楽しいものだったのか?ぼくの記憶以上にボールのプールは実は楽しいのかもしれない。決めた、絶対にボールのプールで遊びたい。おお!なんだかワクワクしてきたぞ。
こういった衝動は早急に解決するに限る。そうしないと、夜寝ている時にボールのプールでもらしてしまう夢を見かねない。さっそく、近所のショッピングセンターに独りで行ってみた。
そう、行っはてみたのだが…
ショッピングセンターのイメージ画像 (写真と今回の取材は無関係です)
ショッピングセンターに来たものの、ボールプールまでの道のりは、険しかった。
そう、大人だけでの入場はなんとダメなのだそうである。
受付の料金表に「子ども」と「大人」の項目があったために、ふつうに大人も料金を払えば入れると思っていたのだが…
大人になって、大概の愉しみは子どもよりも贅沢にできるようなったと思っていたが、こんなショッピングセンターの片隅でひっそりと、子どもは優遇されている。受付のゲートのところから子どものはしゃぐ姿をこれでもかと言うほど見せつけられた(というか自分がじろじろ見てしまった)。嫉妬の炎が燃え上がる。ああ、いいなー。あいつら。
嫉妬の感情の一方で、自分の年齢(26歳)を考えてみると、ボールのプールで遊ばせるのに丁度いいくらいの年齢の子どもがいてもおかしくない、ということに今更ながら思い至ってしまった。この事実をたどって行くと、ぼく中の暗黒の水脈を掘り起こしてしまいそうなので、あまり深追いしないでおきたい。
さっきのショッピングセンターには断られてしまったが、ぼくの住んでいる埼玉県川口市はジャスコを始めとする大型ショッピングセンターのメッカである。 ぼくの部屋から自転車で行けてしまうショッピングセンターがたくさんあるのだ。
ここがダメでも他がある。ぼくの前職の金融業の時は、フットワークの軽い営業がウリだった。 さあ、他に行ってみようか。
断られ続けて、ついに遊べたのだ
しかし、基本的にはどこのもダメなようだ。更に2店舗に断られた。 どうも、断られ続けていると弱気になってしまう。ひょっとしたら、これはそもそも無理な話だったのだろうか。いや、しかし無理だと自分が感じてしまったら、もう実現の可能性はゼロになってしまう。可能性を信じることから結果は生まれるのだ。
そんな、日頃の自己啓発書の読み込みによるポジティブシンキングが功を奏したのか、4店舗目にして、ついに入れてもらうことができた。
4箇所を回ってわかったことがある。子どもを遊ばせるスペースの受付は、みんな若くてきれいなお姉さんだ(今、子ども視点で「お姉さん」って書いたけれども、みんなぼくよりも年下だと思う)。たまたまかもしれないが、4カ所も自転車で回った末での発見だ。言い切らせてもらえる権利はあるんじゃないかと思う。
そして、やっぱり、子どもというのは優遇されているなあ、とまたうらやましく感じてきた。彼らの無邪気さがだんだん鼻持ちならないものに思えてきたぞ。
さて、実際に子どもを遊ばせるスペースに入ってみたところ…
なんと、ここでは,ボールのプールは子どもに人気がさっぱりなかったのだ。ぼくがここまで追い求めてきたものが、まるっきり場末の扱いをされていたとは、一体どういうことだ。
しかし、子どもが他の遊具に心を奪われているのは好都合である。このスキに思いっきり遊んでやりたいところだ。
いや、上の二つの画像はぼくのイメージの中での願望だ。本当はこうしたかったのだが、 実際には、こんな様子だった。
受付から中に入った途端に、周囲からものすごい視線を感じる。幼年時代さながらに、ボールのプールに飛び込んだりしたら、多分間違いなく追い出されると思う。そうしたらここまで辿り着いた苦労が水の泡だ。
ここは、盆栽や枯山水の庭園を鑑賞するようにゆっくりとボールプールを楽しもう。いや、明らかに本来の楽しみとは違っているが、これはこれで楽しい。これが子どもにはない、大人のフトコロの深さだと思う。
足に触れるボールの感触が懐かしい。 そうか、ボールはゴムじゃなくてプラスチック製だったんだな。記憶の中よりもボールはずっと小さいし、軽い。全体的な質感はビンポン玉が一番近いんじゃないかと思う。 もっとも、この辺のボールの種類は、店によって違うかもしれない。
そしてやっぱり、たくさんのボールが作る重量感と抵抗感は楽しい。
ここまで勢いだけで突き進んできたが、ちょっとノスタルジックな感傷に浸ってしまった。
しかし、このままではさっぱりボールプールの魅力が読者の方に伝わらない。 次のページはなんとかその楽しさを伝えようとしたぼくなりの結果です。