本当の自分は、自分の心の中にこそいる
おいしいキャベツを食べて、どこまでも広がるキャベツ畑を見つめる。キャベツ太郎としてできること、それはこの平和で穏やかなキャベツ畑を守ることではないだろうか。
鳥獣類に荒らされることもあるであろうキャベツたち。キャベツを泥棒しようとする不心得者もいるかも知れない。キャベツ太郎として、そんなことを許すわけにはいかない。
ここで繰り出すのが得意技のキャベツチェンジだ。自らキャベツに擬態することで、キャベツ畑を荒らそうとする者たちの目を欺き、油断させておいてコラーとやるわけだ。
そのまましばらくしてトラックに乗ってやってきたのは、畑の持ち主と思われる農家の方。すばやく人間に戻ると、「キャベツになってたの?」と問いかけられる。
「はい、キャベツが好きで…」と答えると、「そうかあ、いっぱい食べてなー!」と、深く追求せずに笑いながらトラックを進めていった。どうやら悪の側の人間ではないということは伝わったみたいだ。
村内のキャベツ畑を見て回る。平和よし!
と言うより、そもそも人があんまりいない。ぽつぽつと見えるのは、作業中の農家の方たち。こちらをちらっと見て、再び作業に戻る。実に平和な光景だ。
やってきたはの村内にある「愛妻の丘」。嬬恋、ひらがなで書くと「つまごい」、それを「妻恋」とかけてあるのだろう、こういう名前の丘が比較的最近作られたらしい。
小高くなっていて、ここからならキャベツ畑もよく見えるだろう。畑の平和を守る者として、確認する必要がある。
階段をのぼっていくと、展望台のところに人影が。もしやと思って近づいていくと、あくまで平和なカップルだ。よし、それならいいだろう。向こうもこちらに気づかないふりをしてくれたようで、お互いに余計な緊張を生じないでいることができた。
ざっと見渡しても特に問題はなさそうだ。問題があるとすれば、自分自身なのかもしれない。
涼しい気候の嬬恋村とは言え、丘を上って少々汗をかいた。そんな時は胸に入れたキャベツの端切れをさっと取り出し、額をぬぐう。普通のハンカチよりもひんやりとしていて気持ちがいい。
キャベツ太郎として、大体仕事は果たしたと言っていいだろう。勢いだけで始めてしまったことの割には、満足できました。