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フェティッシュの火曜日
 
泣き相撲で生き生きする


泣いたら勝ちの赤ちゃん相撲

赤ちゃんが泣くのはそんなにおもしろいのだろうか?4月26日浅草で泣き相撲を見る機会があった。

個人的に赤ちゃんに対しては並々ならぬ思いがある。かわいいとか愛しいとかではなく、その異形に見て取れる生命の神秘、圧倒的全肯定な周囲のムード、それらにスケールのでかさを感じて笑い出してしまいそうになるのだ。

「赤ちゃん」と書いているが心の中では「ビッグバン」や「始皇帝暗殺」と同じ気持ちで読ませていただいている。

共感が得られなさそうな赤ちゃんレビューを書いている場合ではなかった。そんな偉大な赤ちゃんを泣かせるイベントとはどんなものなのだろうか。

大北 栄人



快晴の下、赤ちゃんが泣く

各地にある泣き相撲の起源

ああ、あるよねえ、とテレビなどで見た記憶のある泣き相撲だが、それはどこのことなのだろうか。

調べると、栃木、岩手、長崎、和歌山、静岡…東京だけでも八王子に浅草、と各地で行なわれていることを知った。

じゃあどこが大元なのかというとそれは各々が独自の起源を主張していて分からなかった。「無形民俗文化財に指定されている」というもっともらしいものだけでも3つ。神事としての相撲においてありがたみはどこもキープしておきたいところなのだろうか。でもみんな赤ちゃんを泣かせまくるんだけど。


浅草寺内で行なわれる

浅草は比較的最近のもの

ここ浅草の泣き相撲は19年前の銅像復元記念として始まった。昔は寺社の建立資金を集めるための勧進相撲というものがあったらしいが、参加費一万円の泣き相撲にも少なからずそういった側面があるのだろう。(他地域でもそれ以上とるところがある)

赤ちゃんを突きつけ合わせて泣いたら勝ちとルールもシンプル。「下野に泣き相撲というのがあってね…」と聞けば「一つ試しに…」と広まることも想像に容易いし、勧進相撲の巡業で広まったのかもしれない。いやそもそも今の「尻もぎり(※1)」のような有名な遊びなのかもしれない。

起源を探るだけ無駄だった。


強風にはためく幟。「今日は荒れるな…」と声に出して通ぶる。もちろん荒れた取組などなかった。

すでに泣く力士も。戦いはすでに始まっていた。

なまはげで鍛えられた秋田の赤ちゃんは強い、とか

「終わりが遅くなって赤ちゃんに風邪を引かせるわけにはいかない」と決められた41取組で総数82名の赤ちゃん力士たちが白熱した試合を繰り広げる。

一人につき一試合。勝ち抜きやトーナメントで「最強の」赤ちゃん力士を決めたりはしないようだ。岩手花巻では「全国泣き相撲大会」という大会をやっているようだが各県代表が集って日本一を決めたりはしないようで残念。「なにわのたこやきクライングや!」とかそんな赤ちゃんが集ってほしかった。


雷図くん夏望ちゃんなど今風の名も並ぶ取組表

月に行けるし泣き相撲も身近な未来予想図

参加者の大半は台東区の赤ちゃんだったが名古屋の赤ちゃんもいた。応募多数で抽選となったそうである。テレビも来てるしいい思い出になる。

よさこいは北海道の大会が盛り上がってYOSAKOIになったらしい。ここは岩手に日本一を決めてもらえば本当に草泣き相撲があちこちで見られるかもしれない。

七五三の記念写真代わりに泣き相撲。泣き相撲がYOSAKOI化すればそんな未来も遠くない。と思ったら寺社以外の団体が管理するイベントとしての泣き相撲があった。(参照サイト)1万2000円で120人。未来の近さを知ったが、私は本当は月旅行とかそんな未来のことを考えたい。


祭りの多い浅草ならではのカメラマン陣取り合戦は場外まで

「オー!ベイビークラーイ?」外国人観光客も流れてくる

おじいちゃんうっかりビートルズ

浅草寺の正面にある看板の影響か外国人観光客がどんどん流れ込んでくる。望遠レンズを携えたおじいちゃんたちが第一層を作り、参加親子の縁者が第二層、観光客がさらにその外、と分かれている。

何が始まるんですか?と観光客に聞かれて「クライ、ベイビー、クライ」とうっかりビートルズになってるおじいちゃんがいた。

アー、とか、オー、とか納得した声を出していたが、土俵を目の前にして「赤ちゃんが泣きます」と言われて本当に納得できたのだろうか。


力士たち隙あらば土俵に上がりウォーミングアップ。シャッター音ガシャガシャガシャ。

カメラファンの声が黄色い

「風に飛ばされちゃうよぉ、あの子…」「あの子何持ってるの?」「カメラだよ」「えー!カメラぁ!?」パッカーンと花咲いたようなキャー!の声が上がる。

もんのすごく長くて重いカメラを向けながらおじいちゃんたちが赤ちゃんたちに夢中になっているのが可笑しかった。

「暑いので赤ちゃんの具合が悪くなりましたら本部まで」とアナウンスが入る。暑いと具合が悪くなる繊細な力士たち。その力士たちを泣かす。うんと泣くだろう。

ドラマで犯人が過去のトラウマを辿る。「そうだあのとき僕は怖かったのだ…」泣き相撲である。


復元されたのはこの銅像。なんと子供という設定なんだそう。

市川團十郎丈が挨拶。「丈」?「歌舞伎俳優などの芸名につけて敬意を表す」辞書引いてやっとわかった程縁ない世界でした。

オーラのせいで身長3mくらいに見えた團十郎丈

事務局からの挨拶のあと、九代目市川團十郎の復元記念、という起源なので現團十郎さんが検査役として登場。「成田屋!」「成田屋!」と声があがる。市川さん!とか言ったら袋叩きにあうかもしれぬなと思い知らない世界に恐々とする。

市川さんは(もう何て呼んでいいのかわかりません!)今日いる赤ちゃん達は抽選を乗り越えてきた強運の持ち主、その泣き声で不況をぶっとばせ、と言っていた。

ああ月並みな感想で大変申し訳ないのですが、気品があってかっこいいな、と思ってしまいました。


平たく言うと赤ちゃんにスタンプを押します

指を滑らせる赤ちゃんの魔力

土俵入りと称していよいよ赤ちゃんたちがお母さんにだっこされて登場。おおなんだこれは。ただ説明してるだけなのにタイプしてて指の力が抜けてしまう一文だ。赤ちゃんマジック恐るべし。

赤ちゃん力士たちは住職さんにご法印をおでこに押してもらってもうごきげん。いや、ごきげんかどうかは知らないが指が滑る。この吸い寄せられるような力がただ泣くだけで相撲を成立させる源となっているのか。

泣くのが仕事と成り、相撲と成るのは團十郎丈と負けず劣らない気(メ部分が米の字)を赤ちゃんが纏っているからだろうか。


これが土俵入り!すでに泣いている力士もいたが、緩急のついた泣きでウォーミングアップだなと感じさせるものがあった。

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