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はっけんの水曜日
 
突撃しない隣の晩ごはん


(text by 大塚 幸代

なぜ、みな、ヨネスケさんが来るとドアを開けてしまうんだろう。
『隣の晩ごはん』。ご飯時に知らない人の家に行き、食事にあやかるという、無茶で素晴らしい番組。テレビだからという部分もあるんだろうけれど、やはり、ヨネスケさんの人柄と話術に「ドアを開けさせ、食事を出させる魔術」があるに違いない。他の人では絶対に成立しないと思う。
ああ、ヨネスケさんが羨ましい。夕刻、住宅街を歩いていて、あまりのいい匂いに「何作ってるんスか!?」と飛び込みたくなる事って……あるじゃないですか。

「というわけで! 一人で住宅街をウロウロしてると職務質問とかされそうなので、友人のKちゃんに来てもらいました。一緒に、ひたすら匂いを嗅ぎながら歩いてみようと思います。お忙しいところすいません」
「いえ、食べ物の匂い、大好きですんで! 嗅ぎますよ!」
「Kちゃんは嗅覚がすごいですもんね。『この店、ぜったい美味しいから!』ってテキトーに入って、当てますからね。店構えとか、まったく関係なくて、新しいとか古いとか、安いとか高いとかはバラバラなんだけど、どこも美味しい。…なんなんですか、あの能力は」
「まあねえ、そんぐらいしか特技がないですし」
「というわけで東京23区内でも人口密度みっしりのN区にやって来たわけですが…」
「ていうか、大塚さんちのそばじゃないですか」

 

夕闇せまる、うちの近所

 

「いやあ、えーと、土地勘ないと住宅街って歩きにくいですから……。このへんにいつも、さわらせてくれる半ノラのネコがいるんですけど、今日はいないなあ」
「それは残念だなー…」
「……お、くんくん」
「くんくんくん」
「さっそく来ましたね!」
「何だろう、いい匂い。何だろう」
「何ですかね…」
「……」
「……」
「……」
「……野菜と肉、を煮てますよね?」
「醤油が入ってる?」
「肉じゃが?」
「肉じゃがですかね?」


なにかいい匂いが…。

「もしくは醤油仕立ての豚汁、ですかね?」
「どっちでもいいから食べたいですね」
「ねえ」
「おなかすいてますからね、私たち」
「後で私がオゴりますから、ゆ、許して…。さ、また歩きますか」

「あ、また何か匂いがする」
「……」
「……」
「……食べものの匂いじゃないですよ」
「……あ、これ、衣料品の…防腐剤とか、虫よけとかですね」
「そうだそうだ」
「要するに『引っ越し臭』ですね」
「引っ越しシーズンですからねえ〜」
「しかし、真剣に嗅いでみると、道歩いててもこんな匂い、分かるもんですねえ」
「でも、匂いの発生源の特定は難しいですね」
「風とか吹いてますしね、人んちの家の構造も分からないし。とこからただよってくるのかが分かりにくい」
「思わず立ち止まって、特定しようと、頑張ってしまいますね」
「でも、分からない」
「ヨネスケさんも、匂い嗅いで、頑張って特定するんでしょうかね?」

「……あ、またキタ。これは…」
「……」
「……」
「何?」
「なんだろう……」
「デミグラス系」
「え、デミグラス?」
「あー、洋食ッスね。ソースは分かるけど、料理の種類は分からない」
「私、全然分からない。料理ってことは分かるけど、なんかよく分からない。さすがKちゃん」
「いやいや」
「しかしまあ、ここんち、立派な家ですもんね。やっぱお金もちには、デミグラスソースとか食べて欲しいですよね」
「もしくはホワイトソースとかね」


ホワイトソースは、煮てもあんまり匂わないだろうなあ

「あのー、さっきから言おうと思ってたんですけど」
「ハイ」
「食べ物の匂いよりも、今夜は違う匂いが、しません?」
「そうですね……これ、梅じゃないすか?」
「梅の花?」
「そうそう」
「あ、今日、あったかくて、いっぺんに咲いちゃった感じでしたもんね。梅かー」
「いい匂いですよね」
「夜のほうが、匂いって強くただようんですかね?」
「どうなんでしょうね?」
「あと、さくらモチっぽい匂いもするんですけど…」
「さくらはまだ咲いてないじゃないスか」
「……」
「……」
「さくらモチっぽい匂いの花が咲いてるんでしょうねえ、そのへんで」
「そうかなあ。ていうか、そんな花あるのか?」

「あ、ここんち炒め物してますね」
「ごま油ですね。すっごい美味しそうな匂い…」
「……」
「……」
「確かにウマげ…。何炒めてるのかなあ」
「……」
「……」
「匂いだけだと、甘辛くて、こう、チャプチェっぽい気がします」
「ああ、チャプチェっ韓国料理の。あれウマいですよね。この匂いなあ、チャプチェかもしれないけど……肉とキノコとか、チンゲン菜とか、炒めてるかもしれませんね。」
「こういう炒め物って、最後に焼肉のタレで味付けると、ラクですよ」
「ごま油で炒めて、最後にタレ?」
「そうそう」
「いいですね。そういう感じの匂いだな〜」
「肉本体の匂いじゃないけど、肉っぽい匂い…」
「肉っぽい匂い…!!」

「しかし、今日はあんまり、匂いのする家がないですね。留守が多いみたいですね」
「天気良い休日だったから、出かけてるのかもしれませんね……お、まって」
「お」
「おおっ」
「きましたね」
「これ、大本命ですね?」
「たぶん…」
「……」
「……」
「そうですね、これは…」
「野菜…」
「肉…」
「スパイス…」
「……」
「……」
「っていうかおもにスパイス…」
「つまり、カレーですね」


カレーのにおいがする!!!!!!!!!!!

「……カレー食いて〜!!!!!」
「あー、人んちのカレー、食べたいですねえ」
「そんな機会、ほとんどないもんなあ」
「ここんちのカレー、ぜったいにうまいですよ。私のアンテナが、びんびん立ってますもん。普通の家庭のカレーだけど、絶対にイケル…!!」
「え、ほんとに!? 思い切って、ピンポンしちゃいましょうか。『カレーひとくち食わせてください』って」
「……無視されるんじゃないですかねえ。もしくは、通報?」

 

「昔、マイケル・ムーアの映画で、『アメリカ人は、ドアの防犯がすごくて、見知らぬ訪問者に銃を向けるけど、カナダ人はドアが開けっ放しにする』っていうのをやってて」
「ほう」
「実際、マイケルが、突撃取材でカナダ行ってカナダ人ちの家のドアを開けまくるんですけどね」
「ふむ」
「これが、絶対、開くんですね。その上、『何か用〜?』みたいに気さくに出て来る」
「……何で?」
「習慣の違いというか、鍵をかけていると、閉じ込められた気分がしてイヤなんだって」
「泥棒とか入らないのかな」
「入るらしいですよ、でも鍵かけたくないんだって」
「すごいなー」
「だから、カナダでは、隣の晩ごはんは、やりやすいかもしれません」
「日本も、地方の、雰囲気のいい街は、鍵かけない家もあるし、気軽にゴハンふるまってくれるんじゃないですかねえ」
「ねえ。でも、東京はキビしいよなあ…。大塚さんは、ヨネスケ来たら、どうします?」
「ウチ、だいたいストックは、ポポロスパ5分とインスタントパスタソースしかないので、たらこスパくらいしか御馳走出来ないんですけど…、部屋が散らかってて恥ずかしいので、テイクアウトで持っていってもらえるんだったら、作りますよ」
「それは、隣の晩ごはんの主旨からはズレているのでは…」
「Kちゃんは?」
「ウチは共働きで結構忙しいので、家にやっぱり、ストックがナイですね、外食メインなんで…」
「じゃあ、どうします?」
「冷凍したゴハンをチンして、あとは納豆くらいなら常備してるので…」
「納豆ゴハンか…」
「……」
「……」
「ヨネスケさん、来てくれないですね」
「ですねえ…」
「しかしこう、いつか本当の突撃、やりたいですねえ」
「出来るかなあ」

 

 
 
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