「あのー、さっきから言おうと思ってたんですけど」
「ハイ」
「食べ物の匂いよりも、今夜は違う匂いが、しません?」
「そうですね……これ、梅じゃないすか?」
「梅の花?」
「そうそう」
「あ、今日、あったかくて、いっぺんに咲いちゃった感じでしたもんね。梅かー」
「いい匂いですよね」
「夜のほうが、匂いって強くただようんですかね?」
「どうなんでしょうね?」
「あと、さくらモチっぽい匂いもするんですけど…」
「さくらはまだ咲いてないじゃないスか」
「……」
「……」
「さくらモチっぽい匂いの花が咲いてるんでしょうねえ、そのへんで」
「そうかなあ。ていうか、そんな花あるのか?」
「あ、ここんち炒め物してますね」
「ごま油ですね。すっごい美味しそうな匂い…」
「……」
「……」
「確かにウマげ…。何炒めてるのかなあ」
「……」
「……」
「匂いだけだと、甘辛くて、こう、チャプチェっぽい気がします」
「ああ、チャプチェっ韓国料理の。あれウマいですよね。この匂いなあ、チャプチェかもしれないけど……肉とキノコとか、チンゲン菜とか、炒めてるかもしれませんね。」
「こういう炒め物って、最後に焼肉のタレで味付けると、ラクですよ」
「ごま油で炒めて、最後にタレ?」
「そうそう」
「いいですね。そういう感じの匂いだな〜」
「肉本体の匂いじゃないけど、肉っぽい匂い…」
「肉っぽい匂い…!!」
「しかし、今日はあんまり、匂いのする家がないですね。留守が多いみたいですね」
「天気良い休日だったから、出かけてるのかもしれませんね……お、まって」
「お」
「おおっ」
「きましたね」
「これ、大本命ですね?」
「たぶん…」
「……」
「……」
「そうですね、これは…」
「野菜…」
「肉…」
「スパイス…」
「……」
「……」
「っていうかおもにスパイス…」
「つまり、カレーですね」 |