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フェティッシュの火曜日
 
今年の“エアブーム”は『エア新書』か?

エア新書を実際に体験してみる

【エア新書を考えること5分】

梅『うーん……。いざ自分で考えてみると難しいですね』

石『まずは人からはいったほうがいいよ。自分の好きな芸能人から考えてみるとか』

梅『わかりました。じゃあ、自分はお笑いが好きなので、さまぁーずの三村マサカズさんで考えてみます』


著者の欄に「三村マサカズ」と入れてみる

【再び10分考える】

石『……』

梅『……もにょもにょ』

石『……。あまり思いつかない場合は人を変えたほうがいいかもよ。僕なんかも思いつかない場合はそうするし……』

梅『はい。(今、きっと気を遣われている…)』

今回の取材は僕が実際にエア新書を体験するという内容の記事なので、取材時間も長めにいただいているのだが、石黒さんは多忙を極める僕のずいぶん先輩に当たる編集者。あまり待たせてはいけない。そう思って急いで考えなきゃと思うのだが、なかなか思いつかない。

適当に作っているようにも見えるエア新書、実は難しい。気がついたらエア新書という新種の大喜利に参加させられている気分だ。時間が経てば経つほど、面白いものを出さなきゃいけない、というプレッシャーが増していく。

【再び15分考える】


この人はどうだろと、考えては消し…

石『……』

梅『……』

石『……。僕が居ると考えられないのであれば、ちょっと席をはずすからゆっくり考えてみなよ。時間はじゅうぶんにあるから』

梅『はい。(今、きっと気を遣われている…)』


誰もいない(僕しか居ない)応接室

僕はこういう大喜利というか、アドリブに弱いのだった。すっかり忘れていた。しかし、2009年の僕の目標は、“アドリブに強くなる”だ。ぱっとふられたときに面白い切り返しができるようになるんだ。なんとかこの場を切り抜けなくては。

以前当サイトで体験した俳句の時のような、同業者の先輩に力量を見極められるんじゃないか、という緊張感の中、再び考えた。


さらに20分後

梅『とりあえず2本できました』

石『お、できた? 発表してみて』

梅『まずは僕が大好きなお笑いから一人。元猿岩石の有吉さんを題材に…』

(梅田作)
タイトル:芸能界ヒッチハイク
サブタイトル:一発屋からの脱出

著者:有吉弘行

帯:もう白い雲のように消えていくなんていわせない!

梅『もう一つは時代の寵児といわれたホリエモンで…』

(梅田作)
タイトル:拘置所生活
サブタイトル:想定の範囲外でした

著者:堀江貴文

帯:元・IT社長がみた塀の中とは?

梅『どうですかね?』

石『うーん。あんまりよくないね〜。100点中5点ってとこかな。両方とも、実際にありそうな本なんだよ。だめな編集者が数あわせで持ってくるようなタイトルにみえちゃうなー』

梅『なるほど、いわれてみればそうっすねー(しょぼん)』

 

やってみたら分かるのだが、このエア新書を考えるという作業は実はすごく難しい。やる前には、これなら僕もまねできる、と思ったのだが、考えてみたらめちゃくちゃ難しかった。

こういうことをさらっとできてしまう人に、僕はなりたい。石黒さんに聞いた。

石『そもそも、新書というものをもう少し掘り下げないと面白いものは作れないのかもね』

梅『ぜひ、教えてください』

 

石黒さん制作の、新書の傾向と対策


石黒さんが、新書のタイトルを構造パターンごとに分けたもの。

石黒さんには、世の中の森羅万象をチャート(図解)で見せてしまう、という得意技がある。今回のエア新書にも、新書にまつわるチャートが出ている。それを見ながら、書店に並ぶ新書のタイトル付けについて学ぶことにした。

石『梅田君、新書のタイトルには、大きく分けて体言締めと用言締めがあるんだ』

梅『体言、用言…。』

石『体言締めは、さらに合体ワンワード系(○○学・○○脳、など)、合体ツーワード系(○○の壁・○○式○○法、など)、シンプル複合系(○○は○○が9割・○○大国ニッポンなど)、就職重ね系(頭がいい人、悪い人の○○方)など分かれるんだ』

石『一方の用言締めは説明系(○○ができる人は○○だ!)、命令形(○○されてもバイトは雇うな)、疑問系・直球(なぜ○○のか?)などに分かれるんだ』

すごいなーと思う反面、どうしてこんなばかばかしいことをここまで学術的にとらえようとしているのだろうか、と疑問に思えてくる。でも、こうやって物事を体系的にとらえていく訓練、発想していく訓練は、きっと日常生活でも役に立つと思うので、もう少し聞いてみようと思った。


1ページを20分で書いて、それを出版できるなんてすげーなはい、と思ったけど、実はそこにいたるまでにはいろんな脳を使っているのだ。
「エア新書」の中では自分で考案したエア新書のタイトルの傾向も探っている。上記のネタは「構造美」があり、「羊頭狗肉感」があるという評価だ

・なぜ新書は似たようなタイトルなのか?
・新書は似たタイトルが9割
・新書のタイトルがつけられる人は知っている!

こうやって振り返ってみると、確かに新書ってよく似たようなタイトルというか、似た表現の使い回しであることが多いと思う。一つの本がヒットすれば、必ずほかがそれに追随する感じだ。

・○○は○○が9割
・○○されても○○は○○な
・○○な男、○○な女

○の部分に新しいキーワードや、意外なワードを入れれば新書のできあがりだ。「エア新書」は、楽しい本だが、実は同時に現代の『新書』というジャンルに対する批評性を持っている気がする。そのあたりを聞いてみた

――石黒さんは新書とか読むんですか?

石「あんまり好き好んでは読まないね」

――どうして新書って、似たタイトルばかりになっちゃったんでしょうね。

石「きっかけになったのは、やっぱり.『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』じゃないかな。あれはすばらしい本だったけど、まねしやすいタイトルで、どんどん類書が増えたんだ。タイトル先行型のつまらない本が増えて、良書が減ったよね。編集者が、年間に本を○冊出さなきゃいけない、というルールの中で、ノルマみたいになっちゃってると思う」

――石黒さんの「エア新書」は、実はそんな状況に対するアンチ精神というか、批判したい気持ちが表れているんじゃないかと思うんですが

石「そうも読めるよね。一つが成功したら、他社もどんどん追従するような、乗っかっていくところが卑しいと思うし、恐ろしい」


実は巧妙な新書批判?(石黒さん作『エア新書』より

 

取材の後日談

後日、取材中に考えた新書がだめだったのが気になり、石黒さんが作った新書のタイトルパターンのチャートを見ながら、もう一度エア新書を考えて見ることにした。

考えてみたのは3つ。

(梅田作)
タイトル:素足で痩せる方法
サブタイトル:〜ダンディな人は、なぜ靴下を履かないか?〜

著者:石田純一

帯:今、明かされるトレンディであり続ける秘策とは?


(梅田作)
タイトル:「バカ」と呼ばれてもクイズに正解するな
サブタイトル:珍回答者発見

著者:野々村真

帯:おバカブームの先駆け


(梅田作)
タイトル:いつまでも不人気と思うなよ
サブタイトル:気持ち悪い=カワイイの方程式

著者:せんとくん

帯:せんと多難な幕開け


以上のネタを送ったら、後日、石黒さんが電話してくれた。

石「梅田くん、取材にきてくれたときよりぐっとよくなったよ」

梅「本当ですか! ありがとうございます」

石「一個づつ評価していこうか。まず、石田純一さんの本は55点かな。あんまりよくない。落とし込みが普通だね。人選に問題があったかも」

梅「辛い評価ですね」

石「でも、そのあとの2つはいいよ。まず野々村真さんの本、これは82点。一般受けしそうなタイトルだね。人選とタイトルの組み合わせに深みがあるよ。〜発見! がふしぎ発見のパロディなんだろうけど、もう少し練ってみるとさらによくなりそうだな。でも、じゅうぶんいいと思います」

石「最後のせんとくんは78点かな。あり。うまくだじゃれも駆使してるし、話題の人物を使ってるし、いいと思うよ」

梅「ありがとうございます!」

自分がほめられたからかも、しれないけど、エア新書面白い! 発想力が鍛えられるからずっとやっていれば柔らか頭になれるかもしれない。エア新書、続けていきたいですね。これからは石黒さんは心の中で師範代と呼ばせていただきます。

石黒さんのエア新書は1月13日発売!

新書の煽りには乗るな!

新書は常にあなたの価値観に警告する

石黒さんの書籍は『図解でユカイ』をはじめとして、チャートを使用した一見ばかばかしい内容が多い。でも、その裏には実は題材に対する緻密な分析が行われている。そこを僕は尊敬している。文字数には決して現れない考察があるところがすごい。すごいなーと思う反面、どうしてこんなばかばかしいことをここまで学術的にとらえようとしているのだろうか、と疑問に思えてくる。

と、思ったが、実はデイリーポータルZのライターも皆、一見ばかばかしいことに熱中している。ダム鑑賞も、団地鑑賞も、工作も、自分の顔を大きくすることだって、やりきれば読み物としての力を持つのだ。自分が関わっている媒体に対してこんなことをいうのもなんだが、石黒さんもデイリーポータルも徹底して無駄でいられるのがいいと思う。

閑話休題。
そんなわけで、石黒さんの書籍『エア新書』ぜひ爆発的なヒットを飛ばしてもらいたいです。
エアだけに、空発で終わるかもしれませんが。


 
 
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