以前「そうだ、肉を脂で煮ればいいんだ」という記事を書いたところ、読者の方から感想メールをたくさんいただいた。まったくもって嬉しく、ありがたい話である。
そしてなんと、その中の一通に油を専門に売ってらっしゃる方からのメールがあったもんだから、飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
相手は油のプロフェッショナルだ。世界中の油を取り扱っているプロ中のプロが、ズブの素人が書いた「油っておいしい!」という記事を読んで、わざわざ感想メールをくださったのだ。正直「あわわ」と背筋が伸びる。
油専門店か…。そう呟いただけで、体中の筋肉が弛緩してしまうほどの魅力的な響きにどうしても勝てず、お店にお邪魔させていただきました。
(高瀬 克子)
興奮しすぎ
向かった先は、東京・浅草橋にある「金田油店」という油の専門店である。お店の営業時間は午後6時までだが、この日は特別に閉店直後に取材をさせていただくことになっていた。
職場の定時が午後6時までの私を気遣って、店主の青木さんは「もっと時間が遅くなっても構いませんよ」と言ってくださったのだが、さすがにそれは申し訳ない。そんなことより、取材者本人がソワソワと落ち着かず、仕事が手に付かない有り様なのだ。
結局この日、私は会社を早退して店へと向かった。
店先に金色の文字で「世界の油」と書いてあるのを発見しただけで「おお!」と大きな声が出る。
今回の取材には当サイトのウェブマスター林さんが同行してくれたのだが、そんな私の興奮っぷりにさすがの林さんも少々引き気味の様子だったように思う。気のせいだろうか。
興味のある場所に行くたびに興奮度を示す針が振りきれる私も、今回ばかりは針が反応するのが早すぎる。店に入る前からこんな状態では、いったいどうなってしまうんだろう。
えー、結論から申しますと、ちょっと人間がおかしくなりました。
こういう記事を書くときは、お店の方の写真を撮らせていただき「こちらが店主の青木さんです」というキャプション入りでご紹介させていただくのが普通だと思う。それが正しいお店訪問記事であり、礼儀でもあろう。
しかし今回はそういう写真がない。見事に撮り忘れた。普通のことが普通に出来ないほどの興奮っぷりである。
本当に失礼な取材チームだと思うが、大きな写真をご覧いただければ分かるように、なんといいますか、大量の油を前にして、完全に常軌を失っておりました。
もう「うわあ」しか言葉が出ない。油の話を聞き出す役目の私がこれだ。なにごとも「好きすぎ」は冷静さを失わせる効果があるのだな、ということがよく分かる事例として、心に留めておきたい。
ここは天国か
油専門店だから、売っているのはスーパーでは見かけないような物ばかりだ。どれもこれもが珍しく、子どものようにいちいち「これはなんですか」と青木さんに聞いては「これはですね…」と説明してもらう。
青木さんによれば、どうやらこれらの油は食用というよりも手作り石鹸に使われる場合が多いらしく、高融点の表記も「これを使えば溶けにくい石鹸が出来る」ということのようだった。
そうかー、石鹸かー。
同じ油といえど、石鹸用と分かった途端にある程度冷静になるのが自分でも分かる。しょせん色気より食い気なのだ。そういう人生もあるのだ。
ここらで、だいぶ落ち着きを取り戻してきた。…と思ったのも束の間だった。
油を飲む
店内には食用の油の方がたくさんある。そして「サンプル」と書かれた商品はどれも試飲できると聞き、俄然色めき立つ取材者2名。
特に林さんは「シャングリラダイエット」という油を飲むダイエットを実践していただけあって、興味津々だ。
しかし、そのダイエット法は「味のない油」じゃないとダメらしい。その点、この店にあるのはどれも味がきちんとある、おいしい油ばかりである。(味のないの物ももちろんあります)
ここまで来ておいて、ダイエットうんぬんと抜かしてられるワケがない。
当然こちとら飲む気満々だ。 さあ、飲もう!