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ちしきの金曜日
 
東京の味とは?〜3分インタビュー〜

下町生まれの友達が多いせいか、子供のころ近所の駄菓子屋なんかでもんじゃ焼を食べた話をよく聞く。彼ら東京出身の人からするともんじゃ焼はひとつの「東京名物」であり「東京の味」だろう。

しかし、今や多くの人にとってもんじゃ焼は「東京名物」ではあっても「東京の味」ではない気がする。というより、これだけ店の数と人がいる街、「東京の味」を聞いてもさぞバラバラなはず。だがその中で共通するものや傾向はあるのだろうか?以前やった「3分でインタビュー」スタイルでいろんな人に「あなたにとって東京の味とは?」を聞いてみた。

大坪ケムタ



意外な東京にしかないスタイル、それは‥

今回話を聞いた人たちは年齢・男女はバラバラだけども、ひとつだけ縛りをつけることにした。それは「関東以外出身の人」。つまり上京して現在東京人となった人だ。最初から東京生まれの人、もしくは元々東京に近い人に聞いてしまうと比較対象がない分「東京ならでは」という部分がボケてしまいそうだからだ。だから正確には「東京以外から見た、東京の味」。

回答者にお願いした質問は「あなたにとっての『東京の味』とは何ですか? 具体的に言えば、もし地元に帰ることになっても地元で『あの味が食べたいなぁ』 と思えるような東京の店・料理を教えてください。」 というもの。いわば「記憶に残る東京の味」といいますか。

最初に聞いたのは、沖縄出身の島尻さん。本業は映像ディレクターで上京歴10年。そのおすすめは新宿のカレー屋「ニューながい」。新宿駅近くの老舗・紀伊國屋書店の地下にあるスタンド型のお店だ。


「最初はカメラマンさんと一緒で、その近所の別の店に連れていかれたんだけど『あそこのカレーって吐瀉物みたいでマズイですよね』って話になって、マズイのかよ!じゃあ他の店に行こうってんで『ながい』に行ったんですよ」

−−妥協案としての出会いですか。

「でも『ながい』もおいしいんだけど、むちゃくちゃ美味しいわけじゃないんだよね(笑)」

−−そんな微妙な評価なのに、なぜ?

「でも雰囲気がね。カウンターがあって、通路が面してるんですよ。ここに二時くらいにふらふらサンダルで来て、だいたい小説とか持って行くんですけど、ぼーっとしながら本読んでカレー来るの待ってると、横にサラリーマンが通ってるの見たりして。それで『あ〜、俺東京に住んでるんだなぁ』って」

−−そういうボーっとした瞬間に「そういえば東京にいるんだよなぁ」って思いますよね、地方出身だと。

「そうそう!まさか上京して昼時に新宿ぷらぷらしてカレー食ってるとはね。ぜんぜん自分が想像してなかった姿だから」

−−お互い私服で仕事して昼飯も自由な時間に、みたいなフリーっぽい仕事ですしね。分かるなぁ。

「なんとなく『あ、オレ永六輔みたいじゃねぇ?』みたいな(笑)」

−−そこでなぜ永六輔!

「永六輔って昼間から着流し着てぷらぷらしてるイメージあるじゃないですか。美味しいモン食ってちゃらっとやって、みたいな。柳に風っていうか、さらーっとして」

−−ちなみによく食べてたメニューは?

「カツカレーばっかりですね。なんかね、来るのは月一回くらいなんですよ。ただそれも自分がまいってる時とかで、ガツッと食ってリセットする感じなんですよね。体調悪い時には食えないですけど」


永六輔もまた東京のイメージ、な島尻さん。

ここが話に出た『ニューながい』。
カレーも食べてみた。この光景が東京!

ニューながい

新宿区新宿3-17-7紀伊国屋ビル B1F

こういう「東京の光景」込みで覚えた味が出てくるのは上京者オンリーという縛りならではかもしれない。それも別に特殊な光景ではないのだけど、自分にとって意味のある光景だったりして。

同じ新宿のお店が挙がったのが、以前「ジャッキー、もし歌舞伎町で闘わば」にも出ていただいた伊東かんふーさん。宮城県仙台市出身の39歳、上京して15年。こちらがチョイスしたのはとんかつ屋だ。


「自分は歌舞伎町一番街入り口のとんかつ屋『すずや』ですね。『とんかつ茶漬け』*1が有名な」

−−あー、僕も上京すぐに来て驚いた覚えあります。美味しいですよね。

「美味しいけど、どっちかっていうと珍味ですよね(笑)。食べ付けない、みたいな人もいるし」

−−文字どおり、ご飯の上にとんかつでお茶ですからね。ビチャビチャしたのがダメって人もいそう。

「もともととんかつは好きなんですけど、ここに来るとせっかくだから茶漬けで、って思っちゃうんですけどね。それとご飯とキャベツがお代わり出来るって言うのも貧乏性なんでありがたいんですけど(笑)」

−−ああ、それは大きい!

「ここ以外も『にいむら』とか『和幸』とかも行きますし‥でも、とんかつ屋って地方に比べると東京は多いですよね?」

−−そうですね。もともと東京発祥だからってのもあるんでしょうけど、とんかつ専門店って地方であんまり見ないですよねー。

「だから東京の食べ物って感じしますね、とんかつは。あと洋食系も。あとここと迷った店が洋食屋の『アカシア』なんですよ。ここは今風の洋食屋なオシャレな感じではないんですよね。東京のいい意味での雑多な感じがあるというか。新宿の雑多さなのかもしれないけど。消そうとして消せない、古いんだけどなじんでる感じというか」

*1 とんかつ茶漬け:同店の名物料理。注文するとご飯・お茶、そして味の濃いとんかつが出され、好みのバランスでお茶漬け状態にして食べる。


最近は兜町方面もオススメという伊東さん。

歌舞伎町への入り口にある『すずや』。
たぶん中井くんも絶賛してます。

新宿すずや

東京都新宿区歌舞伎町1-23-15
杉山ビル2F

自分も『すずや』『アカシア』共に好きだけれど、味だけでなく新宿というロケーションにあるというのはたしかに大きい。新宿の雑踏を眺めながら飯を食ってると、ふと気づけば「新宿で食ってるオレ」に酔ってる時もあったりする、上京して何年経っていても。それに気づいて自分に突っ込んでみたり‥。そんな時、ないですか?地方出身の皆さん!

伊東さんととんかつ繋がりになったのが、原口さん41歳。自分も連載させてもらってる映画秘宝モバイルの編集長だ。こちらは北海道出身で上京して20年。


「最初に入った編集プロダクションが飯田橋にあって、そのビルの下に『いもや』ってとんかつ屋があるんですよ」

−−飯田橋とか神保町あたりに、とんかつとか天ぷらとか揚げ物系チェーンである店ですね。

「会社の帰りとかに寄ってよく食べたんですよね〜。何店舗かあるんだけど、どこもカウンターだけのシンプルな店で、作ってるのがライブで見れるみたいなのが楽しくってね。肉厚のロースを切ったり揚げたり。メニューもシンプルで、とんかつ定食とひれかつ定食のふたつだけっていう潔さで」

−−ビジネスマン向けのパッと食ってパッと帰る、て店ですね。

「当時700円だったんだけど、いつもキャベツ大盛にしてもらってあとご飯とシジミのみそ汁がもう美味しくてですね‥」

−−別に北海道だととんかつが珍しいってわけじゃないでしょ?

「北海道にも有名なとんかつ屋のチェーンなんかがあるんだけど‥なんか、店構えのシンプルさが東京っぽい雰囲気を感じるんだよね」

−−ああ!たしかに。のれんくぐって入ってカウンターで食べるような店って地方だとあまりないですね。

「学生街なんかはあるんだろうけど。実際それが『東京ならでは』なのかはわかんないんだけどね」


取材場所はとんかつとは関係ない『アントニオ猪木酒場』。

とんかついもや飯田橋店

東京都千代田区飯田橋4-1-1

なるほどー。「カウンターのあるような定食屋」というのは確かに東京以外には見ないかもしれない。ちょっと昔のドラマとかに出てくるような定食屋。テレビで見たことのある風景。

地方、特に車社会な土地だと「お一人様用の飲食店」というのは極端に少なくなる。都市部ではカウンターしかないチェーン飲食店も、地方では駐車場はあるわファミリー用テーブルはあるわ、と全く違う姿を見せてたりすることは多い。お一人様向けの飲食店、特に定食屋。これは東京生まれの人が気づかない、意外な「東京の味」なのでは?味、というより風景だけども。


 

 
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