食べたいものがたくさんある

鹿児島へは２泊３日の旅である。さつま揚げ工場への取材を最終日に入れ、それまでは指宿、霧島と温泉のハシゴをしながら、のんびりと過ごすことにした。

──それまでは同行者たちとワイワイ、他の名物をたらふく食べたい。

そんな決断を改めてしなくても、空港へ着くなり、やたらと目についたのが「黒豚」の２文字だ。いや、私の目が豚という文字に敏感なだけだろうか。過去、クラブ活動で豚肉に執着した過去があるだけに、これはもうクセになっているのかもしれない。

…いかんいかん。黒豚もいいが、今回はさつま揚げだ。

ちなみに空港内の売店は、どこも黒豚よりさつま揚げの方が売り場面積が大きい。やはり本場というだけあって、おみやげに最適なのだろう。確かに、豚よりも万人に喜ばれるような気がする。

考えてみれば、さつま揚げのさつまは「薩摩」と書く。地名が入っている名産品で、これほどまでに有名な物が他にあるだろうか。一瞬「さつま？ ああ、薩摩か」と頭の中で変換作業をしてしまうくらい、食べ物と土地の名前が渾然一体としている。

しかも島津藩制の頃より食されていたというのだから歴史が古い。

空港内をぐるりと回っただけで、どうやら鹿児島の中でもさつま揚げの本場は串木野であることが分かった。

実は、私がお邪魔させていただくさつま揚げ工場も串木野にある。「おお、本場に向かうのだな」と思うと、やはり嬉しい。

いよいよ工場へ

前日に電話で連絡したところ、車で駅まで迎えに来てもらうことになった。というのも、工場は市街地から離れた広大な埋立地に建てられているというのだ。

「この辺りは僕が子どもの頃は海だったんですよ」と、車を運転しながら加治木さんが案内してくれる。そう、この加治木さんこそ、知人が紹介してくれた方である。

「あそこはラーメンの麺の工場」だの「あっちは焼酎の工場」と説明してもらっているうちに、目指す工場へとたどり着いた。

とにかく建物が大きく、とても全貌を一枚の写真に収めることなど不可能である。誰だ、規模がそれほどでもないなんて言ったのは。

ここは「株式会社 たからや蒲鉾」という、串木野でも指折りのさつま揚げ屋さんである。

ちなみに、工場見学といっても巨大な工場にあるような「見学コース」が設けられているわけではない。加治木さんが直々に、私ひとりを案内してくれるのだ。

これ以上贅沢な工場見学が、他にあるだろうか。

──いいんですか？ この写真をそのまま記事に載せちゃいますけど、会社的にいろいろ大丈夫なんですか？

一応、確認してみる。

「マズイですかね。じゃあもう一枚お願いします」と言って、違うポーズをとってくださった。

もう確認はしないことにした。

写真でお分かりいただけると思うのだが、こちらの加治木さん、とても明るいキャラクターの持ち主であり、さらに大変話術に長けていらっしゃる。さつま揚げ屋さんの営業職にしておくにはもったいないとさえ思えるほどだ。

おかげで会話がスムーズに成り立ってくれて、非常にありがたいことこの上ない。

はやる気持ちを抑え、工場見学の前に、まずは応接室でさつま揚げについての基本的な質問をしてみよう。