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はっけんの水曜日
 
注文をするための発声練習
もう一杯


居酒屋で注文をするのがものすごく苦手だ。

がやがやと盛り上がる店内で注文をしようとすると、たいていうまくいかない。声が向こうまで届かないのだ。

なのでいつもは近くの声の大きな人に注文を頼むことにしていて、たまーに挑戦してみようと思うと、店員さんには良くて「Pardon?」という顔をされ、悪いとスル―される。

おれの人生、これでいいのか?

(text by 藤原 浩一

弱い僕がきらいだ

 この間、飲み会があったときもそうだった。友人に「何飲む?」と訊ねられながらメニューを渡され、しばし考えやはり生ビールかな、と決める。それはいい。

 そこで友人に「じゃあ生ビール」と答えたら「え、何で俺に言うの?」って思われるかもしれない。かと言って「決まった」とだけ言うと、店員さんが注文を取りに来た時に伝えられるか自信がない。

 ジレンマである。


たとえ決めても

注文できない。


 この状況を克服していくためには、やはり練習しかないと思う。そう、注文の為の発声練習だ。

 

明日のために

 気持ちよく練習ができるように、荒川の河原までやってきた。いつもの流れだ。


いつ来ても河原は河原だ

まずは腹ごしらえ


 一般的な発声練習のフレーズと言えば「ア!エ!イ!ウ!エ!オ!ア!オ!」とかなのだろうが、今回は目的が居酒屋で注文をするときに失敗しないことだ。そのままのセリフで練習したようがいいだろう。いくつか考えてきた。

 さらに、色紙を二枚貼り付けただけの簡単な小道具だが、雰囲気を出すためにメニューも用意した。


気分を盛り上げるためである


 早速、練習をし始めようと川の方に向かったそのときだ。

 僕のすぐ近くを、練習の為にボートを担いで運ぶ人(マチョメン)たちが通った。段差を下るときに「降りまーす、イチ! ニ!」のような掛声をすごく大音量で叫んでいた。


力強い掛声

 彼らの声が大きいのはボートの上で統率を取ったり漕ぐ力を出しきるためだろうが、あれならきっとどんなに騒がしい飲み会でも注文が通るはずである。

 目指すところは彼らだ。密かに羨望のまなざしを送りながらようやく練習を始めることにした。


負けないぞ。

 

居酒屋頻出単語

 居酒屋などで最も頻出する単語とは何だろうと考えたときに思いついたのは「すみません!」だ。

 注文であれ会計であれ、店員さんを呼ぶときは必ず「すみません!」だ。まずはこの一言が店員さんに通じないとコミュニケーションが始まりすらしない。

 ぼくは河原に向かって「すみません!」と叫んだ。


すみません! とさけんだ。 しかし なにも おきない。


 連呼するわけではなくて、一回一回反省しながら発声練習をした。役者ではないのだから、声を張りすぎてもだめだろう。そのあたりの調整しながら、自然でありつつも大きな「すみません!」を目指した。

 そんなふうに頑張って練習している最中、ふと後ろを振り向くと若者がだるまさんが転んだをやっていたりする。


かなりの距離だ


 なんでそんな離れているのに声が届くんだよ。それはきっと風向きのせいさ。自問自答しながら「すみません!」の他にもいろいろな注文の練習をした。


生ひとつ!

牛肉とピーマンの細切り炒め!


しめさばー!。

練習風景

 

 こうして3時間くらい己の小さい声と恥ずかしさと寒さに耐えながら練習した成果が以下の動画だ。

 心してご覧になって頂きたい。


たのめた。

 いかがだろうか。

 きちんとビールを頼めなかった昨日までの僕にさようならだ。世界は美しい。

言語もいいけど非言語もね

 ちゃんと注文が通るのがうれしくて、その後もわざわざ小分に注文したりした。しかし、繰り返すごとに声はだんだん小さくなり、最後にはまたPardon顔をされた。

 練習というのものは積み重ねが大事だ。一朝一夕に行くものというものではない。

 それまではしばらくメニューを指差し「コレを」と言って注文することにしよう。かなり確実だ。


 
 
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