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ロマンの木曜日
 
文章で作曲する
この鉄琴で鳴らします

音楽の分野に、「自動作曲」というものがあるらしい。

何かの数列とか、音楽とはまったく関係がないものをなんとかして楽譜に変換して、それを演奏するという考え方みたいだ。

とても楽しそうなのだが、調べていくと「フラクタル」とか「総音列技法」とかなんだかむずかしい言葉が出てきてたいへんだ。もうちょっとお手軽に自動作曲をためす方法を考えてみた。

(text by 三土たつお



日本語の文章を楽譜だと思い込む

ここでのアイデアは、たとえば日本語の文章だって、その中にひらがなで「ら」とか「し」とか書いてあったら、それを音階の「ラ」と「シ」だと思いこむで、楽譜になるだろう、というもの。

さっきからなにをいっているのか、という感じだと思うので、実例をひとつつくってみた。以下は、夏目漱石の「我輩は猫である」の冒頭(テキストは青空文庫からお借りしました)。

まずはこの文章をふつうに読んでみてください。


 


恥ずかしながら「我輩は猫である」は冒頭の一文しか知らなかったのだけど、こうして読んでみるととても面白い。最後のくだりも絵が浮かんでかわいい。

まあそれはよくて、今度は文章の右下にある「演奏する」ボタンを押してみてください。オレンジのカーソルが文章の上をしばらく走っていって、階名に出会うと音がなるのが分かると思う。さっきまで文章だとおもっていたものが、いきなり楽譜になるようでちょっと面白い。

ただ、ちょっと間延びする感じもあるようだ。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」とか日本国憲法前文とかでもためしてみたけど、階名はぱらぱらとしか埋まっていない。そして「ラ」と「シ」ばっかりが多くなる。もうちょっと音楽らしくなるといいのだけど。

 

つぎは英語で

英語の場合、音階の名前はAからGまでがそれぞれラからソに対応している。同じことを英語でやってみたらどうだろう。アルファベットは26文字しかないから、そのうちの7文字、いい頻度で鳴るはずだ。


 


上の文章は、マザーグースの「ハンプティ・ダンプティ」から。タマゴのハンプティが割れちゃって元に戻らない、という子ども向けの詩みたいなもの。

一度内容を読んだら、おもむろに「演奏する」を押してみてください。なんだかさみしげなオルゴールみたいでなかなかいい雰囲気の音楽が聞こえてきませんか。

内容に立ち入ると、Dm(ディーマイナー)ではじまり、途中でC(シーメジャー)、最後はDmで終わる。おもわず何回も聞いてしまった。リズムカルな名曲だと思いますよ。

 

調子にのってもうひとつ

どうやら英語はいい感じみたいだ。もうひとつ、有名なキング牧師の「I have a dream」のスピーチの一節を鳴らしてみることにしよう。


 


内容はこうだ。「わたしの子どもたちが皮膚の色でなく人格で判断される日が来るのを夢見る」。彼のこのスピーチの映像を何度か見たことがあるけれど、なんどきいても彼の信念の強さに感動してしまう。

といったところで演奏させてみよう。

・・なんだか適当にたたいたガムランみたいになってしまった。いろんな音が秩序なく鳴るからだろう。マザーグースでとめておけばよかっかもしれない。

キング牧師には心の中で謝っておこう。

いいオモチャが作れました

英語ならなんでもいいわけではないということは分かった。勝手に鉱脈を見つけた気分になっていたので、ちょっと残念だ。

自動作曲は、もっとも簡単なばあい、さいころを振った目を音階に変えたりするらしい。ただしそれだと秩序がなさすぎるので、いろんな人がいろんな工夫をして秩序だった音楽をつくろうとしている。

文章にでてくる文字の順番や頻度には、それぞれの言語ごとの秩序がある。だから同じことをロシア語や韓国語でやってみると、また違うひびきになるのだと思う。とっても素敵に響く言語もあるかもしれない。が、あまり期待しすぎてもさっきのガムランみたいになるだけだろう。いいオモチャだとおもって遊ぶくらいにしておきます。


 
 
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