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はっけんの水曜日
 
ある写真家の苦悩(対高校生編)

講義が始まりました。

緊張の講義がスタート

授業形式で中川さんの写真講座がスタートした。まず「写真とは」と「人はなぜ写真を撮るのか」の二題から始まる。

以下中川さんの講義より。19世紀初頭、フランス人のニエプスさんが光を画像として残すことに成功した。これが写真のはじまりだといわれている。時代は流れて、ヨーロッパで技術的に成熟した写真機が日本に入ってきたのが江戸時代。当時の侍たちは写真を撮られるときに手を懐にしまっていたのだという。これは写真に手が写ると手が大きくなると信じられていたためらしい。中川さんは休日に図書館へ通い、当時の古写真を眺めては「おお、こいつも手を隠していやがる」などと楽しんでいるのだとか。独身写真家のモノクロな日常だ。

昨日切ったんじゃないかと思われる髪。
しかしなかなか板についている。
中川さん愛用のカメラ。マミヤプレス。

中川さんの講義は続く。人は感動するから写真を撮るのだ、と。写真の歴史もすべて感動するところから始まった。小手先の技術を身につけるよりもまず、目で見て感動しながらシャッターを切ることが大切なのだ。

彼の心の師、ブルース・リー先生はこういっている。「考えるな、感じろ」と。この話を高校生にした後、高校生から「ブルースリーの前にはブルーツー(2)もいたのか」との質問を受けていた。すこしかわいそうだった。

徐々に熱を帯びる講義。
外にも繰り出した。
最初は腰が引けていたのだが。
徐々に緊張が解けてくる。

 

すると生徒の目が輝きだす。

流れが変わった

正直、ブルース・リーあたりまでは中川さんの情熱が空回り気味だったように見えた。時折携帯で時間を確認しながらこまめに水を飲む姿には、タオルを投げ込もうかと思ったくらいだ。しかし実際にカメラに触れながらの実技講習に移ると、高校生の目が断然輝きだす。それを感じたのか中川さんにも余裕が出てきた。ここが攻め時だ。中川さんは高校生にカメラを触らせながら、露出(絞りとシャッター速度の関係)についてわかりやすいたとえ話を交えて熱演してくれた。

最後は身を乗り出してきた。

これを機に一気に流れがやってきた。高校生は夢中でカメラのファインダーをのぞき、講師はそれに丁寧な言葉で適切な指導を与えていく。やはり写真家はチョークよりもカメラを持ったときが一番輝くのだ。そして若者は同じ目線で真剣に語りかけてくれる大人には敏感に共鳴する。高校の頃描いた「憧れの大人像」に、いま中川さんは近づいているんじゃないか。それに伴い、横から見ていても徐々に中川さんの姿勢に余裕と自信が加わっていくのがわかった。これは同じ中年男性としてうれしかった。

役一時間半の講義の中で中川さんは完全に生徒たちを自分の世界へ引き込んでいた。これはすごいことだと思う。

お疲れ様でした

今回の中川さんの講義は、高校生に写真を教える、ということが目的だったものの、僕たちの中では「中年男性が若者にこちらを向かせられるか」という部分こそが最大の関心事だった。中川さんはそれを見事にやってのけたのだ。誠意を持って接すれば、たとえ難しい年代といわれる高校生とだって理解しあえるのだ。中年、すてたもんじゃない。中川さんは高校生にだけではなく、僕たちにも夢をくれました。ありがとうございました。

講義を終えた中川さんの良い笑顔。

写真家、中川さんの写真サイト

https://fotologue.jp/universal


 
 
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