東京都内の大通り、その両側にはひしめくようにして高いビルが連なっている。途切れることなく続くそれは、いかにも都会という景色のわかりやすい一つの例と言えるだろう。
しかし、そんな中にも時々あれっと思わされることがある。小さな建物がぽつんと混ざっていることがあるのだ。
意識しなければなんとなく通り過ぎてしまうそんな風景。しかし、よくよく目を凝らすと、ずいぶんとコントラストの高い状態に気づかされることがある。
今回はそんな景色を探して、いろいろと回ってみました。
(小野法師丸)
●ひっそりたたずむ姿が気になる
高いビルが居並ぶ東京の大通り。ずいぶんびっしり建てたもんだと感心させられるほど、隙間なく埋め尽くされている。都会の当たり前の状況だと言っていいだろう。
しかしそんな中、ビルに挟まれたちっこい建物を見かけることがある。たとえばこういう状態だ。
何の気なしに通り過ぎると気づかないのだが、いざ気がついて意識し始めると、妙に気になる。ビルの間も数十センチほどしかないくらい効率的に建物が建っている中、ストンと背の低い建物がある場合がある。
上の写真はそれぞれ飲食店のようだ。こうして見ると、逆に存在感があるようにも感じる。
今回はそんな風景を探しに、都内をいろいろと回ってみた。高いビルやみっしりと埋まった通りということで、まず思い出されたのは新宿だった。
そういうわけで新宿に行ってみたのだが、予想外に求めている光景を見つけることはできなかった。
超高層ビルはさすがに大きすぎて、隣にちっこい建物があるという状況ではない。繁華街も10階建てくらいのビルで完全に埋まっていて、小さな建物の付け入る隙がなかったのだ。
簡単に見つかるかと思っていたのに、意図的に探すと意外と見つからない。それでも繁華街から少し先に行ったところでなんとか見つけることができた。
いかにも近代的というビルに挟まれて、その建物はあった。「200円コインロッカー」とあるその建物は、ちっこいというだけでなく、全体的に時間の流れを感じさせるたたずまいだ。
そう、大きなビルに挟まれたちっこい建物は、こんな雰囲気を漂わせがちなのだ。
こういう景色を探すときは、やや離れて観察した方がいいようだ。その建物のすぐ前を通ると、落差に気づけない。離れて見ることで、高さの違いと、そこだけ止まったような時間があることに気がつけるのだ。
右の写真のちっこい建物はかつら店。あまり見かけない種類の店というあたりも、ドラマ性を強める気がする。
また、ドラマ性とは別なのだが、見ているうちにあるものを思い出させる光景もあった。
テトリスである。上手に作った隙間に細長い4連ブロックを入れる瞬間はあのゲームの醍醐味であろうが、そんなものを思い起こさせる景色でもあった。
ちなみに上の2例のように隙間の後ろ側が空間で抜けているというのは、今回調べた中では非常に稀な例だった。ほとんどの場合は後ろも建物で覆われていて、スカッと向こう側の空が見えるということはなかった。
そのあたりもテトリス感をかもし出すことにつながっているのだろう。じっと見ていると、じりじりしたあの感じもよみがえる。
続いては少し番外編。挟まれているというのではないが、角に建っているという例も見受けられた。
銀座を移動していて見つけたこの光景。確かに挟まれているものと比べてるとややインパクトは小さいが、それでもやはりコントラストは高い。
ちっこい建物がコンクリートのビルと色合いが違うのも、建てられた時間の差異を感じさせる。
同じく角物件なのだが、こちらは密着度がすごい。大きなビルの形が、ちっこい建物の形に合わせて建てられている。
挟まれてはいないながらも、インパクトは負けないくらいに高い。どういう経緯でこのような状態になったのかと、想像してしまうような光景でもある。
さて、最後の今回の取材で最も心に残った物件を紹介しよう。
浅草あたりで見かけた光景。
高いビルとの落差といい、ちっこい建物そのものの味わいといい、軽い奇跡のような雰囲気さえ感じられる。実はずいぶん前にこの様子を目にして、とても印象的だったことで今回の企画を思いついたのだ。
後ろがスカッと抜けているタイプではない。しかしここでは高いビルに覆われている感じが、時間の流れ方の違いを際立たせているように見える。
同様の風景を探していろいろ回ってみたものの、ここ以上に印象的なものは見つけられなかった。今回の記事中の、ベストコントラスト物件としたい。
近くばかりを見ていると気づけないけれど、少しだけ離れたところを見るようにすると見つかるこうした光景。探していて見つけると「やった!」という気持ちになれるので、ちょっとした散歩のテーマにもいいかもしれません。