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ロマンの木曜日
 
執事喫茶:お屋敷のしきたり八か条


去年、メイド喫茶を体験して、夢のような異空間を体感した。(参照)

あの直後、夢見心地のまま新規オープンとして話題になった「執事喫茶」に予約を入れようとしたが「半年先まで予約待ち状態」。一気に夢から覚めた。

あれから1年。
思わぬところで「執事カフェ通」のお嬢様と知り合うことができたので、便乗させてもらうことにした。

お嬢様体験、ふたたび、です。

(text by 土屋 遊



お屋敷のしきたり其の1:ご帰宅は大変だ

お嬢様Yさんは、週に2〜3度はご帰宅する執事通。といっても、昨年10月の改装後からすでに145回ものご帰宅を果たしているそうだ。

Yさん私が勤務していた会社の同僚(新人)で、人の三倍のスピードで仕事をこなすスーパーOL。そんな彼女が別の顔、しかもお嬢様だと知ったのはつい最近の話だ。

すかさず「連れてってー」と依頼すると、「いいですよ、いつがいいですか?」とふたつ返事をいただいた。常に数日分の予約をキープしているとのこと。

土日の予約受付は一ヶ月前にスタート。
開始1分もたたないうちに全席が埋まってしまうというスーパースターのライブ並みなのだ。



わ、マジだ……


お屋敷のしきたり其の2:ドアマンがいる

お屋敷こと執事喫茶は普通のビル地下にさりげなく存在していた。

階段を降りると、ドアマンと呼ばれる美男子が執事スーツを身にまといお出迎えしてくれる。

もちろん第一声は「おかえりなさいませ、お嬢様」

先輩のお嬢様、Yさんに「お嬢様らしく上品に振るまうこと」と釘を刺されていたが、初心者は総勢7名、20前半から40才(私です)まで。上品どころか中品も無理だろう。せめて常連のYさんに迷惑がかからないように、小学生のルールのように「はしゃがない。大きな声を出さない」ことを誓って促されるまま奥へ進む。

 

お屋敷のしきたり其の3:ドアはカギがかかっている

「どうぞお進みください」の声に、先陣を切ってズンとすすみドアを開けようとするとこれが開かない。

高級感のある重厚なドアなので、重いのだろうと思って力を込めると「土屋さん!お迎えが!」とYさんに止められた。まだドアマンのほかにも案内の執事がいるというのだ。同行のみんなも、いつのまにかお嬢様ぶって苦笑している。庶民のくせに!

初めて知った。お嬢様の生活。ドアを自分で開けない生活……。


てぬぐいを落としたら「お嬢様、スカーフが……」と拾ってくれた。いい人だ。

 

お屋敷のしきたり其の4:お嬢様はカバンなど持たない

内側からカギ、そしてドアが開けたのは、フットマンという役割の方。自己紹介後に8人分の荷物を持ってくれた。Yさんが言っていた「自己紹介されても自己紹介仕返さないように……」とはこのことだったのか。へー。

フットマンに案内され、赤絨毯の通路を抜けると、そこは本当にお屋敷そのもの。メイド喫茶の学園祭風のノリをイメージしていた私たちは、度肝を抜いた。

 

お屋敷のしきたり其の5:お嬢様はマイカップを「いつもの」と選ぶ

きらびやかなシャンデリアがふたつ。内装、調度品もなかなかのものだ。 高級磁器らしきものが並んでいる豪華なキャビネットをチラ見しながら席につこうとすると、サッとイスをひいてくれる。ここでひとつ、スッ転んで皆の気を引くのが私の役目ではあるが、今日は気後れとお嬢Yさんに免じて遠慮しておいた。

座るや否やナフキンを膝にかけてくれる執事……。

ご帰宅回数の多いお嬢様ともなると、「いつもの」の一言で、マイカップを選ぶことができるらしい。


お一人でご帰宅のお嬢様は左右のカーテン内席でゆったり……

 

三段トレーも一枚一枚執事がとってくれる

お屋敷のしきたり其の6:執事は金色のベルで呼ぶ

紅茶の種類はかなり豊富だった。
ケーキ等のデザートもかなり独創的で美味しい。ネーミングも凝っていていちいち「これはなんですか?」と聞きたくなるほどだ。

ただし、用のある時は、テーブルにおかれたベルで執事を呼ばなくてはならない。席を立つ時もベルを鳴らしイスを引いてもらうので、トイレの時は「トイレよ、チリンチリン」となる。これはどうだろう。と思ったが、せっかくなので呼んでみた。「私、トイレよ、チリンチリン」

セレブなお嬢様にはプライバシーがないと聞いてはいたが、なかなか大変なものだ。

お屋敷のしきたり其の7:トイレは行きだけ案内つき

トイレまで案内してくれるのだが、ドアの外で待ってるのかどうなのかが少し気がかりだった。音とかどーするんだ。いや臭いは……などと案じていたものの、帰りはいなかった。これは安心だと思った。

 

お屋敷のしきたり其の8:執事は懐中時計を隠し持っている

執事カフェは80分制。時間が来ると、ポケットから懐中時計を出しながら「お嬢様、そろそろおでかけのお時間でございます」となる。
おでかけには「乗馬のお時間」「テニスのお時間」「舞踏会のお時間」など、いろんなバリエーションがあるらしい。

私たちのご帰宅時間内にも男性客が1人いたが、じっさいに1割〜2割が男性客。執事オプションをなしにしてもなかなかのサービスと味なので、一度ご帰宅をおすすめしたい。

お一人様も多く、じっさいにYさんもお屋敷内で知り合いになった人が20名近くいるとのこと。週末には地方から1日ぶっ通しで予約を入れているお嬢様もいらっしゃるとか。(じっさい、いた)

と、いうように、他のお客さまのことをお嬢様と呼び合うのは必須事項。もちろん来店のことはご帰宅だ。

 

お嬢様のべつの顔

80分のお嬢様体験のあと、「んじゃ次、どーする?」となった。

Yさんが挙げてくれたのは「眼鏡男子喫茶、ロールプレイングカフェ、男装喫茶……まだまだいろいろありますよ」と携帯で予約状況を調べている。ほかにもメイド喫茶、姉妹喫茶、乙女カフェ……と、お嬢様はとにかくいろんな顔をお持ちのようだ。

私のメイド喫茶体験から1年、コンセプトカフェ界は日々進化を果たし、ファンは今やストーリー重視の空間を望んでいるようだ。人生に迷える子羊たちを癒すシスターカフェやサラリーマンターゲットの魔女バーなども登場しているし、今週末にはギムナジウムカフェという、少女漫画から飛び出したような新感覚のカフェがオープンする。

機会があればいろんなコンセプトカフェに行って現実逃避に走りたい。Yお嬢様、このたびは大変お世話になりました。これからもぜひともよろしくおねがいいたします。

ほんとの感想

「んーなんかに似てるなあ」と思っていた。

メイドカフェともちがう。高級店ともちがう……と悩んでいてハタと気付いた。

ディズニーランドだ。ディズニーランドのサービス精神とイリュージョンだ。

でも、できることなら美青年執事より、大量の羊に囲まれる羊カフェに行ってみたい。

お屋敷ビル前: 「写真が……ヤンキーの集会のような様子です、お嬢様……」と未経験者から感想を頂きました。これだから下界の人はいやだわ。

イラスト協力:やじましょうこさん


 
 
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