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はっけんの水曜日
 
さけちゃづけ

(text by 大塚 幸代



私が小学校の頃だろうか。
父は毎日、晩酌をしていた。最初は瓶ビール、じょじょに強いお酒に切り替える。
そしてある日、何を思ったか「白いほかほかのゴハンに、日本酒をかけて食べる」ということを、はじめた。
「さーけちゃーづけー」
彼はそう言って笑いながら、お茶わんに、日本酒を「じゃばー」っとかけていた。
ぶわーっと広がる、アルコールの匂い。
家族全員、「うわ、それは幾ら何でも、絶対ナシでしょう!」という目でソレを見た。でも、指摘すると「なーにーをー!」とキレられるのが分かっていたので、何も言わなかった。
父は「家族がヒいてる」のも含め、面白がっていたのかもしれない、かなり頻繁に「ソレ」をやっていた。
まあ、そんな食生活がたたったのか、平均寿命よりずっと早めに、他界してしまったのだけれど…。

時は流れ、私も大人になり、遺伝してしまったのか「酒飲み」になった。
20代のころは、12時間居酒屋で連続飲み、なんてこともザラだった。なんとか肝臓を壊さずにやってきた。でも30代まではお酒の味なんて、正直、味わっていなかった。酔えりゃ何でも良かった。
「ああ、日本酒美味しいな」と思いはじめたのも、最近だ。

飲みながら思った。「これだけ、飲めるようになったんだから、私も、例の『さけちゃづけ』の良さが、分かるかもしれないぞ……?」「や、やっちゃおうか? 長年、恐れてきたアレを試してみちゃおうか……?」と。 でも、いきなり「日本酒ぶっかけ」は、やはり抵抗がある。
そこで「特製・日本酒だけで作ったスープ」から、慣らしていこう、という作戦をたてた


用意した材料は日本酒のほか、鶏肉、シイタケ、ミツバ。

日本酒に、鶏肉、シイタケの固いところを割いたものを入れて、煮てダシをとる。
ほどよきところでシイタケのカサ本体、ミツバ、塩適量も投入。

煮えた煮えた。これをゴハンにかけてみる。

出来た、「日本酒だけ使った鶏スープぞうすい」。これなら…。

食べられるぞ。
ふむふむ。
……味、濃厚!! 日本酒の匂い、プンプンだけれど、鶏肉とシイタケのおかげで、「めっちゃくっちゃ煮詰まったダシスープ」のような味に感じられる。


では、この味に舌を慣らして!

ついに挑むよ、

「さけちゃづけ」!!!!!

「そもそもゴハンも日本酒も米なわけなんだし、大丈夫だ、大丈夫だ」と思いながら、食べてみた。

………。


頭で「これは一風変わった、濃厚な日本料理なんだ」と、思い込もうとすると、
「いや、これ、やっぱ酒だよ、ゴハンと合わねえよ!!」という気持ちが起き上がってくる。
食べられない訳じゃない。餅米とアズキのオハギが食べられても、「アズキかけごはん」はなかなか抵抗があって食べられないように、「常識」が邪魔をする。
うーん、うーん。

「醤油を入れたら何とかなるんじゃないか」と思って、

かけてみた。

………。

……せっかく日本酒テンションに慣らした舌が、「いつもの味、醤油」で、日常に引き戻されてしまった。
うわー。うわー!!!!!

父さん!! 天国の父さん!! 私は個人的に、コレは、ナシです、ナシ!!!!!!!

■まだ舌が大人になりきれてないのだろうか

父はもういないし、そもそも父と一緒に酒を飲んだことがないので、「この食べ方を、いつ始めたのか」「どこで覚えたのか」「本当に美味しいと思って食べていたのか」など、一切分からない。
ほかに「日本酒かけごはん」を愛好してる人にも、出会ったことがない。
もっと大人になったら分かるのだろうか、っていうかもう分からなくてもいいや、っつーか分かりたかったのだろうか自分は、と、ぼんやり日本酒を飲みながら思った。

食べられなかったぶんは、水で薄めて、ちゃんと普通の鶏ぞうすいにして食べました。美味しいですよコレ。

 
 
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