「何だ、この大雨は!」
出井利(でいり)ダム管理所長の萩原は吐き捨てるように言った。ダム管理ひとすじ30年。日本各地を渡り歩いてきた百戦錬磨の男だが、これほどの豪雨、そして流入量は初めてだった。
「とうぶん止みそうにないですね・・・。」
気象庁から送られてくる降雨情報が表示されたモニターを見ている部下が溜め息まじりに呟く。南から台風に刺激された秋雨前線は活発化し、日本列島は次々に発生する巨大な雨雲の塊に飲み込まれていた。
強い雨によって、上流からの流入量は急激に増加。しばらく晴天が続いていたせいで貯水地はほとんど空だったが、この状況が続けばあっという間に貯水量をオーバーしてしまう。ここで管理所は放流を決断。下流域に放流警報を出すと、ダムの直下から川沿いに、一定の間隔で設置されている警報局のスピーカーが、次々にけたたましくサイレンを鳴らした。下流を見回っている職員から異常なしの報告を受けたあと、流入量を上回らない程度に放流を開始した。 |