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はっけんの水曜日
 
シロコロ食べに、ロマンスカーで

「なんか…豚の腸? の、ぶつぶつ切ったやつ? みたいなのを、焼いて食べる? みたいな?」
新宿のバー、平日の夜。
私は友人・ニシさんに、B級グルメの祭典「第二回B-1グランプリ」に出ていた気になるメニューのことを、疑問形の語尾だらけで、話していた。
つまり、よく知らない、食べたことないものを、適当に解説していた。
「なにそれ!?」
「なんか、白モツの、ホルモン焼きらしい? んだけど…『シロコロ』って名前なんだけど。焼くと、ぷりぷりのじゅくじゅくで、脂がとろけ出て、もう見るからにヤバそうな…。それにミソダレか塩を付けて食べる、みたいな? とにかく美味しそうっていうか? もうたまらない、っていうか?」
「な、なにそれなにそれー!」
その時、私たちは、お洒落に乙女酒部として「薔薇のリキュールのトニック割り」などを飲んでいたのだが、あっというまに、心は厚木のお肉のトリコに。
「…週末、食いに行っちゃうか!」
「行っちゃうか!」
「肉食いに遠出するぞー!」
「神奈川県まで行くぞー!」
「うおおおおおおお!」

(text by 大塚 幸代



厚木・シロコロホルモン…
豚の、やわらかい大腸のみを、割かずに脂身を適度に残してキレイに洗い、生から焼いて食べる、というものだそう(通常の肉屋さんでは、腸を割いてボイルしたものがほとんどなので、珍しい)。
脂身がぷりぷりで、白くてコロコロしてるので、名前は「シロコロ」。
厚木は養豚が盛んだったため、豚ホルモン屋さんがたくさんあったせいで、地元定番メニューになったのだという。

てなことを調べて、土曜日の4時、新宿に集合した私たち。
切符売り場で、
「ロマンスカー、乗っちゃいません? ウフフ」とニシさん。
「…乗るかあ。ウフフ」と私。
本厚木(厚木の繁華街は、厚木駅ではなく本厚木駅にある)までは、新宿から480円。特急券550円を足すと1030円。
プチ旅行気分のためなら、1030円は安い。
もちろん車内に、ビールとチューハイを持ち込んだ。
片道45分、半笑いで「肉」のことばかり考える、女二人。ウフフ。ウヒヒヒヒ。


…本厚木駅近辺には、徒歩圏内で、シロコロの食べられるお店が数件ある。
今回はその中でも、いちばん有名な老舗「酔笑苑」にしたのだが…。
5時過ぎに到着した時には、既に人が並んでいた。

B1に出たから」というより、地元の方でいつも混んでいる、という雰囲気。

店内を覗くと、創業1965年、とプリントされたTシャツを、スタッフの皆さんが着ている。
店は古いが、店員は皆若い。女の子も多い。「いらっしゃいませーっ」と、声出しもバッチリだ。それもチェーン店のような形骸化した声出しじゃなくて、「活気ありまっせ!」という雰囲気ばりばり。なんだこの店、もう、みるからにいい雰囲気! いやあん。


外から店内をのぞく。煙、匂い、ああ、早く座りたい…。

たまらんなあ、と思いながら、30分ほど待っただろうか。店内に入ることが出来た。


これは待ってる人向けの、手作り灰皿。でかい。

カウンター内の店員さんは、スーパーボールすくいの玉のように、ぐろんぐろん走り回っていた。肉盛って、酒作って、肉盛って、酒作って。注文受けまくり、働きまくりだ。


とりあえず生中。キャベツは食べ放題。

何でも安いねえ…いろんな部位あるねえ…、まずはシロコロいこう、すいませーん、シロコロと…、あとピートロ! …と注文すると、
「すいません、ピートロ終わっちゃったんです」と返されてしまった。
うわ残念、でもシロコロがあってヨカッタ、他もなくならないうちに頼んじゃえ! と、適当に頼みまくる。
ちなみにこの日、午後6時半には「シロコロ」は売り切れとなっていた…。

*警告:このあと、焼く前のシロコロの写真を載せます。シロコロの写真だけ、ちょっとだけ生生しいので、「生肉の写真が苦手」という方は、ある程度覚悟してから見てくださいまし。




































これがシロコロ620円(焼く前)だ!!

焼いている途中のシロコロ。これ自体には味が付いていないので、焼いてから、自分で塩か、ミソダレを付けて食べる。うましうましうまし。

左、刺し盛り1260円。新鮮で、とくにレバ刺しがめっちゃ美味かった。右、三ツ瀬とり500円。鶏肉もイケた。

左、ホルモンミックス640円。どこの部位もうまいぞ。右、ピストンという心臓近くの肉(金額失念!)。こりこりしてこりゃまたウマい。

アミレバ……レバーが網状の脂肪で巻いてあるという、禁断のメニュー。焼くと、とろっとろです!

アミレバスペシャルというものもメニューにあったけど、脂肪がもっと巻いてあるのだろうか…?

「いやー肉食べるとテンションおかしくなるわー」
「ねー」
もしゃもしゃもしゃ。
ひたすら肉を食う。

デジカメで時々撮っていたら、隣に座っていた60歳くらいの男性が、笑いながら話しかけてきた。
「いやあ、最近の若い娘さんは、珍しいことをするなあ。こんなもの、写真に撮るの?」
……べつに若くはないのだが、こういう時は相手の期待にそえられるように、心の中で6歳から8歳くらい、サバをよむ。サバは気合いだ。ヤー!
「写真撮るの、変ですかー?」
「だって、誰も撮らないもん。今までずうっと前からお店に通ってるけど…、そんな人いなかったなあ。それにね、ウチの娘なんかだと、ホルモンなんて、気持ち悪がって食べないからねえ」
「えー! そうなんですか? 美味しいのに。でもお客さん、他にも、カップルとか家族連れとか、いっぱい来てるじゃないですか。前は雰囲気違ってたんですか?」
「うん、10年くらい前まではね、おっちゃんらみたいなの、ばっかりだったんだよ。実は俺も、今は痛風になっちゃってるから、1年に1回くらいしか、こういうトコには、来れなくなっちゃったんだけどね…。昔は働いたあとさ、しょっちゅう来て飲んでたよ。
……おねえちゃんたちは、肉の食べ歩きでもしてるの?」
「ハ、ハイ〜、まあ、そんなところです…」
「じゃあ、他にもいいところ、教えてあげるよ! 浅草の『鍼屋』ってとこのガツ刺し、ありゃ絶品だから食ったほうがいいよ。あと新宿に『白菊』って、やっぱり内蔵肉が食える店があるよ。白菊はね…石原裕次郎って知ってる?」
「はい、知ってます。」
「裕次郎は大動脈瘤の手術をやってて、奇跡の生還をしてるんだけど、それにちなんで、大動脈あたりの肉を『裕次郎』って呼んでるんだよ、アハハ」
「へ、へえ、すごいですね(大動脈のとこの肉って、ドコだろ?)。……面白そうですね、今度行ってみます!」
「行ってみてよ、フフフ」

ちなみに、帰宅してから、鍼屋と白菊をググッて検索してみたのだが、さっぱり情報を見つけることが出来なかった。
インターネットをやらないような人しか、行かない店なのかもしれない…。
誰かご存じのかた、場所教えてください。

怒濤の肉食のあと、この店の名物ラーメンも、やっぱ食べておかないといけないのかな? と思い、2人で半ラーメンを、ひとつ頼んでしまった。


珍しい価格設定。半ラーメンと普通のが60円しか違わない! 普通のと大ラーメンの差も60円!


「……うまいぃ はふう」
ひとくち目で、ニシさんがつぶやいた。
まわし食いする。確かにうまい! ラーメン自体は、普通の魚ダシの、醤油ラーメンなんだけど、「肉祭り」のあとの舌を鎮めるには、最適なスープなのだ。
そう、まさに、ひと仕事終えたあとの味。
「海で泳いだあとのラーメン」の味に近い。
行ったら、絶対食べといたほうがいいと思う。

■肉ならちょっと遠出してもいい

B級グルメのために遠出、というと「伊達&酔狂」という言葉が浮かんできてしまうが、「肉」だと満足度が違った。「新宿から45分、ぜんぜんアリ!」という気持ちになった。
とにかく、肉を食うのはパワーのいるイベントなので、「やり遂げた」感が違うのだ。

私たちのロマンスカーは無駄じゃなかった。楽しかった、美味しかった。安かったし、嬉しかった。悔いなし!

で、帰り? 
帰りはもちろん、グッタリ疲れて会話もなく、半分眠りながら、普通電車で帰りましたよ…。ほんとに、海水浴後みたいに。フフフ、フ…。

帰るときも、外にはまだ行列が。思えばあんだけ食っておきながら、滞在時間は1時間半ほど。肉って長居して食べるものじゃないので、列もけっこう早くさばけているようでした

 
 
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