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ひらめきの月曜日
 
心おどる立体模型の世界


意外と身近にたくさんあって、目に入っているのに、あまり気にしないもの……
そんなものの一つに、「立体模型」があるのではないでしょうか。

札幌は豊平区に、立体模型でかなりの技術を持つ会社さんがあると聞き、お話をうかがってきました!
実際の立体模型たちは、すでに納品済みだったりして撮影できなかったので、一部を除き写真を見ながらお話していただきました。
そのため今回の記事は、ほとんどがいただいた写真から成り立っておりますが、その点ご容赦ください。

それでは、思わずワクワクしちゃうような、立体模型の世界へどうぞ!

(text by 加藤 和美



■株式会社ウェザーコックさん

おじゃましたのは、月寒(つきさむ)にある、株式会社ウェザーコックさん。
山本社長と山本専務のお二人が、いろいろお話をしてくださった。

社内には、企業秘密がたーくさん……ということで、残念ながら社内の様子はほとんど無し。
それだけウェザーコックさんには、最新の技術がうなっていると思っていただきたい。


ウェザーコックさんのオフィス。シンプルでオシャレ。
今回お話をしてくださった、山本社長。

 

■玄関からハートをキャッチ

まず玄関に入ると、玄関に大きめの立体模型が無造作に置いてあった。
何気なく覗いてみると、富士山周辺の立体地図!

うわぁ細かい!という驚きもさることながら、実は実家(のある辺り)が、この地図の中に含まれているのだった。

「うち、このへんだー!」
「あ、ここ駅だー!」

いきなり大興奮である。
立体地図って、自分が空の上から地球を見ているようで、眺めていて本当に楽しい。


富士山周辺の立体模型!うおおお地元だ!地元だ!

 

崖崩れを再現したサンプル。崖崩れと、その近くの道路や民家との位置関係がはっきりわかる。

都市部の立体地図。こちらは衛星写真を使っているとか。

製作途中のサンプル。等高線が描かれている。

■立体地図の用途など

富士山の興奮も冷めやらぬまま見せていただいたのは、小さめの立体地図サンプルがふたつ。
山肌が見え道路や家もはっきりわかる、比較的アップのものと、市街地を上から見ろ下ろしたものだ。

立体地図に関してはまったくの素人なので、どういう手順で作るのかを聞いてみた。

まず測量会社さんが飛行機からレーザーで高低差を測量しながら、写真を撮り、その情報をもとにウェザーコックさんで立体化するとのこと。
できた地形に写真を貼り付け、仕上げると左図のようなリアルな立体模型ができあがる。

表面は複雑にデコボコしているが、ピッタリと寸分の狂いもなく写真が貼り付いている。
この技術がウェザーコックさんの腕の見せ所、というわけだ。

 

ところでこういった模型は、どんな用途で使われるのだろうか。

聞いてみると、山肌が見えている方の立体地図は、崖崩れを再現しているという。
崖崩れの状況を立体模型で再現し、学者や工事担当者が会議をするための資料として使うそうだ。
この模型があると、その場にいる全員が同じように状況を把握でき、写真だけではわからない緊迫感が伝わるとか。
図面や写真だけでは伝わらない情報が、この模型1個でありありと伝わるというわけだ。

また同様に、工事などの計画を想定した模型を作る場合もある。
この道路を作ると、どの家が道路の下になってしまうかなどが把握できるため、模型の制作は、工事の計画をたてるためにも重要な工程なのだ。

山本社長のお話によると、大きい規模の模型の場合、すべての建物を立体にできないので、間引いて作るのだが、地元の人が見て「おれの家がない!」なんて言われたりすることもあるようで、「地元の人が見てどう思うか」という点に、気を使っていらっしゃるそうだ。

そういえばさきほど、富士山周辺地図を見て開口一番、
「私のうちはこのへんです!」
と興奮気味に言い出してしまったが、誰しも地元には愛着があるので、どんなによくできていても、何か一言言いたくなってしまうのかもしれない。
それを考えると、ミスの許されない、大変な作業だ。

高速道路の立体模型。
「なるほど、インターチェンジがこういう風にできるのか…」と一目瞭然。

 

■地図だけじゃない

過去の作品の写真を見せていただいていると、ふと1枚の写真が目に入った。
「これ風景写真じゃないんですか?」

思わず、お二人に笑われてしまった。

「作り物ですよ!」
「そう言っていただけると、うれしいですけどね」

そう、これは立体模型なのだ。

一瞬、写真かと思ってしまった、昔の風景を再現した模型。

 

水の色と質感が、まさに本物。
昔の農村風景を再現したもの。
農作業中の皆さん。もう愛を感じますよ。

■驚愕のこだわり

私が思わず写真と間違えた、この町並みの立体模型は、札幌市のお隣、江別(えべつ)市の昔の風景なのだそうで、あまりのリアルさにびっくり。


ウェザーコックさんでは、「いま現在の地形」だけでなく、こういった昔の風景を再現するような立体模型も手がけている。
昔の風景を作るにあたり、まず大変なのは資料集めなのだそうだ。

リサーチは別の会社が担当するのだが、昔の写真を集めたり、実際に昔住んでいた人に聞き取り調査をしたり…。
どういう建物があって、どこに木があって、というレベルまで緻密に調べていくのだそうだ。

特にこちらの江別の町並みの場合、模型の上に置いてある物まで、ものすごく調べられている。
船の横を通る汽車の模型がどちらに向かって走るのか、何時発のどこ行きの列車なのまで聞いて作っているという。

なお、この模型は「春の午前10時」という設定だそうだ。
春なので雪解けで川が増水し、水の色も茶色がかった緑になっている。

ちなみに、江別の町並みの模型には、今でも現存する建物もあるという。
上に載っている建物もまた、写真を見て、一軒一軒正確に作っているのだとか…。


話を聞いているだけで、あまりの凝りようにクラクラするが、やはり開発期間も長く、何年もかかるそう。
(注:ひとつの作品だけで何年もかけるわけではなく、随時複数の制作が進行している)

 

山本専務は、このクオリティを出す秘訣は、制作に携わった人たちの気持ちが一番重要だとおっしゃった。
情報をくださった方の気持ち、町並みを残したいという気持ち、そして良いものを作りたいというスタッフの気持ち。

なるほど、そんな気持ちあってのこのこだわり。
本当に頭が下がる思いだ。
皆さんも、立体模型を目にすることがあったら、作り手側のこだわりに思いを馳せながら眺めていただきたい。

 

■まだまだ出てくるすごい立体物たち

続いて見せていただいたのは、カニの写真。

カニ!?
これも本物…じゃないんですよね?

かなり精巧な、カニをはじめとした立体模型たちを見せていただいた。


良い感じに茹で上がった色合いのカニ。まったくもって本物。大きさを除けば。

 

大迫力の、はばたくフクロウ。運び出しているところ。

この写真はレプリカだが、本物の人形は北海道指定文化財。

これが家にあったらそりゃーウワサされそうだ。

■超リアルな立体物たち

どんどん出てくる、リアルな立体物たちの写真。
360度どこから見てもリアルである。
これらも、どうやって作っているのか聞いてみた。


基本的には人の手で、まず作りたい模型の何分の一かのサイズで模型を作る。
その後、コンピュータで小さい模型の三次元寸法を測り、それを機械で大きいサイズ(作りたいサイズ)に削りだして作るのだそうだ。

削りだすのは機械だが、最初の模型を作るのは人の手。
削りだした後の彩色、仕上げも人の手。
職人の技術を最新技術でバックアップする、というのがウェザーコックさんのすばらしい作品の秘訣なのだそうだ。

 

またこの技術を使えば、貴重な品のレプリカを作ることも可能。
見せていただいた左の写真(人形の頭)は、江差(えさし)のお祭りで使われる山車に乗せる人形のレプリカ。
本物は北海道指定文化財で、触ることはもちろん、江差から出すことも禁止されているという、かなり貴重なもの。

機械で触らずに寸法を測れるので、このように貴重な品でもレプリカを作ることができる。
この技法のメリットは、目で見ながら模倣して作るのとは違い、まったく同じレプリカを作れること。

「見る角度によって、優しく見えたり、笑っているように見えるんですよ」と、山本社長。
そんな繊細さまで再現できる。

レプリカであれば、気楽に触れたりできるのもうれしい。
江差出身の友人に聞いたところ、確かに子供の頃これと同じものを触らせてもらったことがあるという。

 

そして次に見せていただいたのが、これまた大きなクジラの写真。
8メートルもあるそうで、制作時には3つのパーツに分けて、後でくっつけたそうだ。
制作中のクジラを会社の外の隙間に置いておいた時は、「クジラのある家」と呼ばれていたとか…。 

 

札幌駅の南口にある。見てね。

かわいらしい木造のオルゴール。制作の裏には、新しい技術が。

■何でも作っちゃう会社だった

いろいろと作品を見せていただいていると、立体模型ばかりでなく、それ以外の写真もたくさんあった。


左の写真は、札幌の人なら誰もが見たことのあるのではないだろうか。
札幌駅南口のエレベーターだ。
その上についているからくり人形も、ウェザーコックさんの作品なのだそうだ。設置する時はかなり暑くて大変だったと、山本社長が裏話をしてくださった。


驚いたことに、ウェザーコックさんでは、からくり時計やオルゴール時計のように、精密な機械が内蔵されているような作品も作っており、中の機械も自社製なのだそうだ。

いったい、どこまで作ってしまうのか?
お二人は
「お客さまの要望があれば、何でも作ります!」
と力強く語っておられた。

こんなクリエイティブ精神にあふれたウェザーコックさん、注文があればどんなものにも挑戦してしまうため、例えば左の大きい木製のオルゴール時計を制作する際、同時に木工の自動旋盤機も作ってしまったそうだ。
つまり、作品を作るために、その作品を作る機械も作ってしまう。

企画から、デザイン、施工までやってしまうのが売りということだったが、設立して30年、常に新しい技術と職人のワザを駆使して面白いものを作り続ける精神には、脱帽です。

■立体模型とは…

お話をうかがっている間、ウェザーコックさんがしきりにおっしゃっていたのは、
「私どもの技術は、“伝えるための技術”です。
皆さんの表現したいこと、伝えたいことをお手伝いするための技術です」
…ということでした。

難しい数値を見せるより、一目で状況が把握できる立体地図。
昔の風景を伝える立体模型。
お客さんに商品の魅力を伝える造形物たち。

ナルホド、そういう意味でとらえると、立体模型もひとつのコミュニケーションツールというわけなのですね。

色合いひとつとっても、何種類も試すそうです。

■取材協力

株式会社ウェザーコック

〒062-0023
札幌市豊平区月寒西3条7丁目1−31
電話 011-852-1623
FAX 011-855-8366
MAIL [email protected]
URL :
https://www.weathercock.co.jp/


 
 
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