回転寿司というのは、考えてみれば相当おかしなシステムだと思うのだが、すっかり生活の一部として定着してしまった。最近では海外にも進出しているらしい。
そんな「食べ物が人の手を介さずにやってくる」さらに「回転している」だけど「寿司じゃない」という、ユニークな形態の店があると聞いて、静岡県の沼津市まで行ってきました。
(高瀬 克子)
よく考えられたシステムでした
この店のことは、ネットで調べ物をしている時に偶然知った。あまり詳しいことは書かれてなかったのだが、なんとなく「面白そうだ」と感じ、三島に用事があったついでにやって来たのだが…。
店外にあるサンプルは、全く普通の品揃えであった。普通どころか、豊富といっていい。
店に入る前に「この店は独特のシステムを用いております」的な但し書きがないかと探してみたのだが、どこにもそんなものはない。
大丈夫なのか。わざわざこうして取材に来てしまったが、普通の形態の甘味処だったらどうしよう。無駄足だったかもしれない。だったら、かき氷でも食べて帰ろうか。
…そんな杞憂は、店の扉を開けた時点で解消された。
「おおお」と、思わず声が漏れた。店には大きなテーブルどーんと置いてあり、中央の部分を水が流れている。
そう、この店は回転寿司ならぬ「回転甘味処」なのだ。しかも回転しているのが「水」ときた。…どうですか。面白いと思いませんか。私は思いますよ。
外が暑かっただけに、さらさらと流れる水を見ているだけで大変に気持ちがいい。ふと横を見ると、食券売り場があったので、まずはそこで食券を購入。
食券を買ったはいいが、システムが分からない。そこで「あのー、これって、どうすれば…」と、食券を売ってくれたおじいさんに聞いてみたところ、親切に教えて下さった。
ふむふむ。なるほど。よく分かりました。では、教えてもらった通りにこれから実践してみますよ。
席にはそれぞれ、東海道の宿場の名前が付いている。私が座ったのは藤沢だ。正面の席との仕切りの部分には、東海道を描いた絵が掛けてある。
なんだかもう全てが物珍しくて、子どものようにキョロキョロしてしまった。
店内は、子ども連れのお客さんがとても多かった。そりゃそうだろう。私が子どもなら、回転寿司よりこっちの方がよっぽどグッとくる。
「日本橋」の席に座った子どもが、水に手を入れてキャッキャと喜んでいるのを微笑ましく見ているうちに、藤沢のランプがピカーン!と光った。
なんだか、妙にドキドキしてしまった。私のお茶漬けが、これから水に流れてやって来るのだ。
回転寿司なら「あらー、行っちゃった」で済ませられるが、この場合は「私が注文した、私だけの茶漬け」なのだ。取り損ねてはなるまい。
流れる桶を手で押さえ、茶漬けを取り出す。誰に急かされてるわけでもないのに、つい「あわわ、あわわ」と焦ってしまったのは、初心者だからだろうか。
この時、注文した時に入れたプレートも忘れずに取り出さなければいけない。このプレートは「この茶漬けは藤沢の席のお客さんの物ですよ」という目印にもなるという、よく考えられたシステムなのだ。
わざわざ店の人に「すみませーん」と声をかけることなく、桶に注文を入れ、食べ終わったお皿を桶に戻す。なんて合理的なんだろう。
定期的に回ってくる空の桶が、言うなればウェイターやウェイトレスの代わりとなっているのだ。食券を売る人が一人、あとは厨房に一人で十分にやっていける。
このシステムを考えた人は、かなり頭がいいと思う。
お昼時にかけて、どんどんお客さんがやって来た。ほとんどが小さな子ども連れである。話を聞いていると、どうやら親子二代で通っている人もいる様子。そりゃそうだろうなぁ、と思う。
回転寿司と同じように回ってはいるが、桶を介して店の人とコンタクトを取っているような、なんだか温かい気分になるのだ。
地元の人に愛されているんだな、と羨ましくなるような、そんな店だった。
沼津に行ったら、また寄ろう
店を出て、空を見上げると看板が目に入った。来た時は「水が流れる店なんてどこにも書いてない」と思っていたのですが、看板にちゃんと描いてあったのでした。