「るつぼ」というものがある。「興奮のるつぼ」といった言い回しで耳にすることが多いだろう。
ただ、言い回しの意味はわかるが、個人的には「るつぼ」そのものがわからない。もちろんご存知の方も多いのだろうが、周囲の人に聞いてみると知らない人も多かった。
るつぼってなんだろう。「興奮のるつぼ」という言い回しからして、エキサイティングなものなのだろうか。
そういうわけで、るつぼの実体を探ってみました。
(小野法師丸)
初めて「興奮のるつぼ」という言い回しを聞いたのはいつだっただろう。「ペナントレースも終盤を迎え、○○スタジアムは興奮のるつぼと化しています」などというあれだ。
意味はわかる。ただ、るつぼがなんなのかは曖昧なままにして今日まで来てしまっていた。
「るつぼ」というからには、やっぱり「壺」なのだろうか。自宅にあった壺らしきものを引っ張り出してみたが、るつぼというにはどうもピンとこない。
ウィキペディアでるつぼについて調べてみると「固体などを強熱融解する際に使用する耐熱性のつぼ状の容器である」とのこと。なるほど、文系の私には縁がなさそうなものだ。
確かに私はこれまでの人生で、「固体を強熱溶解したいな」と思ったことはない。ならば知る由もないだろう。
そんな目的のためのものなんだなとわかったところで、実物を見るべく東急ハンズに在庫があるかどうか電話で問い合わせてみる。店頭で試験管などの実験器具が置いてあるのを見かけたことがあるからだ。
…結果、「るつぼはお取り寄せになります」とのこと。やはりあまり需要のあるものではないのか。
しかしさらに調べてみたところ、東京・神田に理科系の実験道具の品ぞろえが充実している店があるとの情報を入手。
やってきたのは「高野理化硝子」というお店。古くからありそうなとても立派な構えの店の中は、昔よく理科室で見たようなものたちでいっぱいだ。
さて、るつぼはあるだろうか。ネットで見たるつぼの写真の記憶を頼りに、探してみると…。
それらしきものを発見。お店の人に「これってるつぼですよね」と聞いてみると、「るつぼですよ」と確認できた。
これが「興奮のるつぼ」のるつぼか。初めて目にするぞ。
さっそく購入。いろいろサイズがあるので、ここではなんとなく3種類を選択。「フタもいりますか?」と聞かれたので、よくわからないままに「はい!」と答えてフタつきで購入だ。
「これがるつぼか……!」。店の人がチラシで包んでくれたるつぼを手にして興奮気味。より詳細に実体に迫ってみよう。
●るつぼで興奮できるか
ついにるつぼを入手。言葉だけ知るのみで、るつぼそのものは勝手に心に描くしかなかったわけだが、実物のるつぼが今この手の中にある。
るつぼである。これがるつぼなんだ。
……正直、あんまり興奮できない。
やっと実物を手にしたのに、あんまりエキサイティングな気持ちになれない。「この中で固体が強熱融解されるんだ!」とイメージを膨らませてみても、興奮するというほどでもない。
そうだ、買う前に妻にもるつぼのことを聞いてみたところ、やっぱり実物は知らないと言っていたんだ。ならば見せてあげようではないか、本物のるつぼを。
なんとなく予感はしていたが、ぱっとしない反応。
「固体が、強熱融解されるんだ」とか「耐熱温度は700度くらいかな」などとも言ってみたが、特に響く感じでもない。
やってくる肩透かしの波を振り払うかのように、フタをパカパカやってみる。両手に持って興奮している様子を写真に撮ってみるも、無理のある感じは否めない。
るつぼに興奮できない。気持ちが言葉に追いつかない。
たまたま家に遊びに来た義母と祖母にも見せてみる。「これが『興奮のるつぼ』のるつぼですよ!」という私の言葉に対して、無理に笑ってくれたような義母の笑顔が痛い。
祖母は穏やかな表情で「るつぼ…」。
そういうことだと思う。でもこれで終わりにしたくない。せっかく手にしたるつぼなんだ、もっとエキサイティングな気持ちになりしたい。
両手にるつぼを持って、「るつぼ!るつぼ!」とコールしながらダンシング。私の興奮が伝わるだろうか。
きっと伝わりにくいと思うので、よろしければ動画でもどうぞ。
●気の持ち方が大切
わかったことは「興奮のるつぼ」という言い回しがあっても、るつぼそのものにはあんまり興奮できないということだ。
言葉としても「白熱して溶け合っているような興奮が入っている容器」という意味で使われているわけだろう。るつぼに対して興奮を求めるのはおかしい。
それはわかっていつつも、もしやと思ってみたのだが、正直なところ厳しい結果に終わったと言わざるを得ない。
ただそれでも、るつぼコールではなんとなく興奮してきた気もしたので、気の持ち方は大切なんだと思います。