次はしゃぶや、しゃぶやでございます

「渋谷」と「日比谷」の聞き間違い問題は、今に始まった事ではない。２０年前から渋谷区を中心に流しているタクシー運転手の平岡さん（56才）は、神妙な面持ちでその実態を語った。

「本当に分かりづらいんです。しぶやとひびや」

「ひびや」を「しぶや」と聞き間違えて渋谷に向ってしまい、料金を精算する段階でお客さんともめる事もしばしばだとか。「この前は激怒したお客さんからぶん殴られそうになりました」と平岡さん。事態は想像以上に深刻である。

東京都の「しゃぶや化計画」に、早速協力の姿勢を見せたのがJR東日本だ。JR各線の渋谷駅の呼び方を「しゃぶや」に変更すべく準備に入っている。構内放送、車内放送のアナウンスを「次はしゃぶや、しゃぶやでございます」と変更し、ホームのひらがな表示は「しゃぶや」に、ローマ字表示も「Shabuya」に差し替える手配を済ませている。漢字表記は「渋谷」のまま、読みだけが「しゃぶや」となる見込みだ。

「これで聞き間違いがなくなれば、都内の経済効率が２割は向上するでしょう」 と、東京都はしゃぶや効果の影響を予測する。

渋谷のしゃぶや化について、街の反応はどうなのか？　渋谷のセンター街を行き交う若者たちに聞いてみた。「超うけるんですけど」（１８才学生）、「まじうけんだけど」（２２才、販売員）、「うける」（１９才専門学生）など、概ね若者たちにはうけているようだ。

しゃぶや化に待った！

しゃぶや化への動きが急激に進む一方で、待ったの声をあげる企業もいる。JR各線と同様に渋谷駅に井の頭線を乗り入れている京王電鉄だ。

「伝統ある渋谷の街を、しゃぶやと呼ぶ事は出来ません」
と強く反対の意向を示している。

東京都は京王電鉄に対し理解を求めているが、京王側は断固としてしゃぶや化を拒否する姿勢を崩さない。話し合いが難航する中、京王側から提案された妥協策は、「いのがしらせん」を「いのぎゃしらせん」に変える、というものであった。しかし、それは渋谷・日比谷問題と直接関係がないのでは？　という疑問の声も上がっており、未だ着地点が見えていない。

同じく渋谷駅に乗り入れる東京メトロは、しゃぶや化問題に関して静観の姿勢を保っている。もし京王電鉄の意向が通った場合、「東京メトロ」は「東京メトゥー」と改名せざるを得ないのでは、と専門家たちは予測しているが、果たしてその結末やいかに。渋谷の地名問題は予断を許さない状況である。