はじめから「どうせ無理だ」とあきらめていては、どんなことでも実現することはできない。意志のあるところにこそ道は開ける。
そういうわけで、おならで宙に浮くかどうか実際にやってみました。
(小野法師丸)
初めてそのシーン見たのは、子供のころに読んだマンガの世界の話だっただろうか。「あり得ないよ」と笑いつつ、心の中に小さな炎が点った瞬間だったと思う。
そして大人になった今でも、その灯火は消えることはない。無理だと決めつける前に、自分を試してみるべきだ。
そう思って構えてみた数分後、内なるパルスを感じ始めた。よし、準備は整った。気持ちを下腹部に集中させ、一気に押し出してみる。
ププッ、プスー
だめだ、気持ちばかりが先立っている。推進力を効率的に発揮できてない。やはり無理なのか。
…いや、すぐにあきらめるべきではない。夢のある苦労のことを努力というのだ。じっと待つうちに、セカンドウェイブがやってきた。
フワッと浮いた瞬間、いつもとは違う景色が見えた。そしてそのとき、ついに実現したんだということを悟った。やった、できるんだ、人はおならで宙に浮けるんだ。
着地した私の目に入ってきたのは、うずくまる妻だった。
写真を撮影していた妻の様子がおかしい。そこまで感情移入していたのだろうか。
しかしよく見ると、それは違うことがわかった。彼女は私の放ったものに対して、もよおしているのだ。小さく「おえっ」と言っている。
むごい。夢が叶ったことへの代償か。