デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


フェティッシュの火曜日
 
普通電車で上・京・物・語
上京ならココ、ってムードがあるよね。


4月といえば新入学、新生活。当然ながら東京も人が増える。今ごろ都内への引っ越しに向けて、部屋の整理をしてはアルバム見ちゃって読みこんじゃって時間とっちゃって、って人も多いのでは。それぞれの上京物語・第一章が幕空いてたりするのでしょう。

上京というと飛行機や新幹線、古くは夜行列車というイメージがあるけれど、「普通電車で上京」という人もいるだろう。そもそも10年前、自分が普通電車で上京してきたひとり。しかも、九州から青春18キップで2日かけて。そんな人は少ないだろうが、やはり根が田舎モンとしては、「電車で上京(というか都心ターミナル駅に向かう時)」というのは気分がアガるもの。隙間から垣間見えるBIG CITY!いつか掴んでやるBIG MONEY!そこまでは思わずとも、もはや引き返せぬ電車の中で恍惚と不安で額に汗が垂れる。

では東京のターミナル駅行きで、どこの普通電車が最も上京ムードを盛り上げてくれるのか。『心の旅』でも口ずさみながらお聞きください。そんなリリカルなものではないけれど。

大坪ケムタ



定番2駅、上野と東京

上京する普通電車の比較、というのを思いついたのは斉藤美奈子さんの『それってどうなの主義』(白水社)を読んだのがきっかけだ。同書の『上野と東京のトポロジー』というコラムにこんなことが書かれてある。


たとえば上野駅と東京駅の対比である。上野駅に特別な感慨を抱くのは東日本人に固有の感情だといわれる。上野駅が東北日本への発着駅だからだけども、では西日本への発着駅である東京駅に西日本人が特別な感情を抱くかとなると、たぶん上野ほどではない。端的にいって、上野駅のイメージが陰なら、東京駅のそれは陽なのだ。

(中略)

とはいえ実際の列車に乗ってみると、この差は単にルートの問題だったような気もしてくる。上野駅と東京駅とでは、アプローチの景観がまるでちがうのだ。

    『上野と東京のトポロジー』より


別に、新生活としての上京に限らず、遊びや仕事での上京でも気分が高揚するにこしたことはない。上のコラムを読んで、では実際のアプローチの光景はどんなもんか?あらためて見たくなった。

まずは東京駅。かつては確かに「西日本の玄関」だったのだけど、現在は新幹線も品川に停まるようになり、その地位は下がった感がある。とはいえ、その名前からして首都の玄関口の存在は変わらじ。もし、神奈川方面から上京してきたとすると、主に使うのは京浜東北線。同線で東京に着くと、こんな光景がホームで見られる。


TOKYO!というとデカそうですが
まぁ、普通のホームですね。

わざわざ紹介するまでもないくらい、一般的なホーム。しかも、京浜東北線ならここまでに横浜・川崎駅を通過してるわけで、さんざんビル街も見てるはず。「ここが大都会・東京か!うわぁ」的な感慨を得るような驚きはない。サラリと東京になじめるのが西日本ルート、というか。

では一方で東北ルート。栃木方面から来る宇都宮線・高崎線の普通電車でやってきたら、こんなホームに到着する。


なんかもう、見るからに暗いというか、重い。

天井は結構高いのに、重い。
こういうのがまた重さを演出。

ふるさとから出てきた瞬間、郷愁を誘うような啄木の句。そのまま電車で帰らせたいのか。「東北の人は暗い」「出稼ぎとか集団就職とか」というイメージがあるが、それにわざわざ合わせたとしか思えない重さが伝わってくる。東京駅のホームが画一的なJ−POPなら、上野駅はド演歌ですよ。しかも、上野駅も山手線とかは東京駅と同じ雰囲気。東北方面だけコレなんですね。

同じ「普通電車で上京」でも着いた瞬間の気分変わるよねぇ、これは。

 

池袋、上京ルートで2つの顔

同じ駅に上京するのでも、路線によって違った光景を見せるのが池袋駅。埼玉からの玄関口として知られる同駅、飯能市方面からのルートである西武池袋線はいたって牧歌的ですね。ある意味、模範的な郊外→都市の変化を電車の中から見ることができる。


ひと駅前までは住宅街。
徐々に高いビルや線路が増えていく。

直前になるとビルが建ち並ぶ大都会。

電車内からの撮影ゆえ非常にわかりづらくて申し訳ない。このルートからだと、池袋のひとつ手前の駅くらいまでは一般住宅が広がってるのに、いきなり到着直前になって高いビルが建ち並びだす。その変化が「おっ、街に来た!」と気分的にアガるものがある。実際、上京して最初に住んだのがこの沿線だったワタクシ、この光景が見えるたびに「何度見ても都会だなー、東京って」と思い返したものです。

新宿や東京といった他のターミナル駅に比べると、都市の裾野がとても短いんですね、池袋。しかし同じく池袋終点でも、さいたま市の大宮駅からの上京ルートである埼京線、川越市方面からの東武東上線からだとこんなルートを拝みながら到着することになる。


こちらも直前までは住宅街多し。
と思ったらホテルメルヘン。

一見フツーのビルですが、ホテル街です。

池袋に限らず、盛り場のちょい外れというとラブホテル街があったりするもんですが、路線の目の前。タレ幕に書かれたご休憩とかご宿泊とかの値段比べしてるとホームに到着。ホームの隙間から覗くのは‥。


ホームから見上げれば東が西武で
西、東武。

汚れた街並み(=ラブホ街)を眺めつつ、到着したのは2大デパートに囲まれた拝金野郎たちが集うゴッサムシティ。そんなロックな妄想が自然と頭に浮かぶ上京ルートですね。池袋にビジュアル系バンドの看板やライブハウスを見かけるのも納得というか。

 

上京アッパー気分が失われがちな世の中

これ以外の普通電車で上京ルート、もちろんいくつもあるんですが、結構ターミナル駅の手前数駅で地下に潜っちゃうところが多いんですよねぇ。そんなの、ビルが増えたりと都会の変化が楽しい上京気分を味わえない!「あと一駅だー」ってところで地下に潜っちゃうのって、萎えませんか?なんか。

もしくは、先の池袋で書いた「街の裾野が短い」の逆で、「街の裾野が長い」。新宿近辺なんか典型的で、青梅市方面に向かう中央線なんか、いつまでたっても都市っぽさが抜けない。これは新宿から山梨方面に向かう中央線で撮った写真ですが。


新宿駅、歌舞伎町方面。都会です。
一駅行って地味になってきたかな‥と思ったら

中野サンプラザとか見えて、また街に。

こんな調子で郊外になったかな?と思ったら街があり、今度こそ郊外?と思ったらまた街が。同じく多くの沿線を持つ街だけど、池袋と新宿じゃまた違うんだねぇ、光景が。また同じ新宿終点でも、西武線や小田急線でも違うでしょうが。

よく郊外の都市化が進んでる、なんて言いますが、こうして見ると、まんべんなーく街が広がってる。どこからが上京で、どこからそうじゃないのか。自分の街が都会になってくのは嬉しいけれど、都会に出るワクワク感が無くなってくのも、ちょいとサビシイですな。

池袋以外もホテル多いね、一駅くらいの場所って。

ちなみに自分のリアル・上京電車は、最初の宿泊地が東京じゃなくて神奈川の川崎市だったのであまり覚えてないんだよな‥。でも、見るたびに上京気分を思い出すものがあると楽しいよね。自分は西新宿のビル街ですが。自分にとって都会のシンボル、上京のシンボルってありますか?


 
 
関連記事
大阪人、東京へ行く。
“駅前”の既成概念を打ち砕く
都会の危険な場所とは

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.