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ひらめきの月曜日
 
給食とおとなたち 〜「全国学校給食集会」とは〜
ああ、給食(月刊「学校給食」06年8月号より)

お昼になると、ぼーっとしててもご飯が出てくる。

これって今思うとすごいことだ。給食のことである。今はお昼になったら自分で買ったり作ったりしなくちゃいけない。

何も考えずに、出てきたものを「わーい」とか「ふーん」とかいって、結局は美味しく、ほぼ毎日全部たいらげていたような気がする。

そんな完全に“受身の食事”だった給食。裏側の仕組みとそこに渦巻くものを目撃してきました。

(text by 古賀及子

会場は日本青年会館中ホール。全体のイベントジャンルのばらつきがすごい

会場には即売スペースがあって、給食関連の書籍や新聞が並んでいた。これが毛穴の開くラインナップ(以下にその写真を掲載します!)

給食関係者に向けた参考本。やっぱりコツがあるのか

こちらは硬派。文字中心の業界紙

当然業界誌だってあるぞ! Q&Aコーナーには「年上の調理員と上手に付き合えません」などといったお悩みも

全国の給食関係者が集まる会がある

年に一度全国の学校給食関係者が集まる会がある、というのを聞きつけた。「全国学校給食集会」だ。給食関係者が! 一同に会する! それだけでなんだかワクワクする。

が、集まって、いったい何を話し合うんだろう。

給食というと、決められたメニューを給食センターや学校の調理場で作るというシステマティックなものだとばかり思っていたのだが……。何か話し合ってどうこう、ということがあるんだろうか。

ニュースやなんかで近頃の給食の見ると、地場産のフカヒレが出たり、ワールドカップのころは世界各国のメニューが出たりなにやら多彩みたいだった。そうか、そういうことについて話し合うのかな。

もしかして、未来の給食の献立なんかが分かったりするかもしれない! きゃー。

完全なミーハー状態で「学校給食全国集会」の告知もとである「学校給食ニュース」さんに連絡を取ってみた。

給食の実態、かなり意外

すると、なにやら“給食”というものの後ろに色々と込み入った事情があることが分かってきたのである。

メールでお話を聞かせてくださったのは、学校給食ニュース事務局の牧下圭貴さん。給食の事情についていろいろ伺ったなかで、一番びっくりしたのは

「学校給食は心意気である」

ということだった。給食についてのあれこれを行うのは市町村である。で、給食には「学校給食法」という法律があるそうだが、これが基本的に義務ではないらしいのだ。

つまり、市町村がその心意気ひとつで給食をどうにでもできるわけである。

うっかりすると「給食、今日からなし! 全員弁当で!」ということにも「面倒だから毎日焼きそば!」ということにもなりかねないわけである。ヒー!

そういえば私は小学校のときに一度転校しているが、そのとき給食の内容がかなり変わったのを覚えている。転校前はご飯食は月に2回しかなかったのに、転校後はほとんど毎日ご飯食だった。牛乳パックの形も違ったし、食器も違った。

地域ごとに気候が違うみたいに、給食も違うんだろう。当時はそれぐらいに思って気にしなかったのだが、あれは町の心意気の差だったわけだ。

もう、へー、としか言葉が出ない。

集会を通して各地の給食状況を知る

子供のころの私から考えてみると現実はびっくりするほどユルかった給食のシステム。それだけに、各地でそれぞれに様々な問題があるという。

集会では、各地の問題を発表しあって共有しつつ、よりよい給食というものを考えよう、というのが基本の姿勢らしい。

あくまでも、派手なメニュー展開や未来の給食の具体的な献立を話し合うわけではなかった。やや、予想が外れたかたち。

集会、行ってみようかどうしようか。悩んだ末、「でもやっぱり給食という業界を覗いてみたい」と今回参加してきたわけだ。長すぎる前フリに自分でもびっくりだ。

学校給食協会の公式キャラというのもいた。ネコのタロー。バンダナやエプロンといったオリジナルグッズも販売
給食だより用のうめくさ集なんてのもあった 給食だより、懐かしい……
   
熱気むんむんのオーディエンスから次々に発言が

発言者の働く現場が地図にマークされていく。北海道から熊本まで(このあと鹿児島からの発言もあった)

なお、食育の推進キャラクターは長澤まさみさんとのこと

おっかなびっくり会場へ

始めに断っておくと、この「全国学校給食集会」には社会運動の側面がある。参加の方々にはもちろんいろいろな意見をお持ちだと思うのだが、給食の民間委託やセンター化に反対する意見が大半だったりして、団結というか、勢いがある。

私はやや、いや、相当及び腰であった。こんな大マジな集会に乗り込んで、記事まで書こうなんてそれは大丈夫か。家に帰って納豆10万回ぐらいかき混ぜてネタにしたほうがいいんじゃないか。

でも、考えてみれば、参加してくる方々は私が子供の頃学校で、もしかしたら一番頼りにしていた調理員の方々、いわゆる「給食のおばちゃん」なのだ(愛をこめてそう呼ばせてください)。そんな恐ろしいことにはなるまい。

ごにょごにょ思いながら緊張して会場へ乗り込んだ。着いてみると、これがまたすごい人であった。後で聞いたところなんと700人が集まったそうだ。立ち見も出ていた。ほぼ全員が給食関係者である。すごい。

給食のおばちゃんたち、語る!

12時のスタートから16時の終了の間に2本の講演にあわせて会場参加型のシンポジウムが行われた。

専門的な2本の講演も興味深かったが、会場が沸いたのはシンポジウムのコーナーであった。

挙手制で自由に給食のおばちゃんたちが自分のかかわっている現場について発言していく。給食というものが熱く語られるという状況、これは普通に暮らしているとちょっとない。

・食材にうとい子供たちにカタクリを触らせたら子供、大喜び
・地元の生産者から食材を調達するようにした。土付きの野菜がどんどん入ってくるので作業は大変だが、質はとてもいい
・教室を回って一緒に給食を食べるようにしたら、残量(子供が給食を残す量)が激減した
・農家と契約して野菜を調達している。人参が豊作のとき、毎日人参のメニューを出した。子供が「なんで毎日人参が?」と思ったときが食育のチャンスなのではと思う

北海道や九州から、という発言もあって方言なんかも飛び交った。熱い。

この集会が始まったのは1983年だというから、私が小学生のころは既に行われていたことになる。むしゃむしゃ、何も知らずに出された給食をただただ食べているころ、おとなたちははこんなふうに熱く語っていたのか。

なお、1983年の最初の活動は「カレー統一献立反対」という集会だったそうだ。まさか、そんなことになっていたとは。


揚げパン、ソフト麺、さき割れスプーン……給食の思い出は喋りだすと止まることがない。いろんな人が集まると、食べてきた給食の違いに驚かされたりする。

私が強烈に覚えているのは、半解凍になってビニールに入っている納豆だ。と「10秒にぎって完全に解凍する」というものだった。本当にみんなじっと握っていた。そうだ、はちみつとピーナツと味噌をあえたもの、小分けジャムのようなパックにはいっていて切り口からにゅるっとしぼり出して食べるなんてのもあったな。

今考えてみるとちょっと普通のご飯とは違っていた給食。熱いおとなたちの活動でこれからもじわじわ変わっていくのかもしれないです。

おみやげに買った学校給食協会のオリジナルナプキン、給食柄!


 
 
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