●オリジナル作品にも挑戦

　 江戸の人のうまさには遠く及ばなかった松やウグイス。ならば自分独自の作品にも取り組んでみようではないか。江戸のものにはなかった味を出せるかもしれない。

　…はりきってやってみたのだが、なかなか「これだ！」というのができない。にぎり寿司はパッとしない上にネタもずれている。キノコもそれっぽさに欠ける。

　意外に難しい。自分の発想を試されているようだ。

　試行錯誤でいろいろと体を動かしていたところ、撮影者の妻が「あ！今の、今のはアレよ！」という声を挙げた。

　何かと聞き直すと、「今の、鶏肉だわ！」との返答。

　まあ、確かに鶏肉かもしれない。しかしどうだろう、影絵で鶏肉って。こんな風に鶏肉を表現したところで、誰が喜んでくれるというのだろうか。

　と、思っていたのだが、見ている妻はなんだか爆笑。

　面白いのだろうか、鶏肉。今ひとつわからないのだが、ウケたことでなんとなく気分が乗ってきた。今度は身近なものを使ってみよう。

　影絵であるのをいいことに、小動物気取り。

　ああ、わかった、なんだかおもしろさがわかってきた。うまく説明できないのだが、姿のうまさとか完成度とかとは別の軸に、影絵をすることのおもしろさがある気がする。

　そして適当なポーズを取っているうちにわかったのは、影の姿だとなんだかセクシーになるということだ。

　33歳のおっさんがやっていることを忘れてしまえば、うっかりセクシーにも見えてしまう影絵。自分でもこの写真を見ながら「セクシー…」とうっすら思う。

　やってることが中学生レベルだ。

　いや、そんな風に言うと中学生に悪いかもしれないが、そのテンションはもう止まらない。何かを模するという影絵の根本を忘れて、適当なポーズを取るのが楽しくなってきたのだ。

　頭を抱えてみただけで、無駄なドラマが見えてくる。影絵の力はこんなところにもあったか。

　よくわからないが楽しいぞ。

　意味なく適当なポージングをするだけでなんだか楽しい。影になると本当の自分にはないエネルギッシュな感じも出てくるではないか。

　江戸の影あそびを真似してみようと始めたこの試み、最初の意図とは違うが、別の答えが見えた気はする。