ショパンの「子犬のワルツ」といえば、子犬が自分のしっぽを追いかける姿にヒントを得た、とも言われるピアノ曲。
美しい旋律で、素敵な曲だとおもう。
ただ、子犬の姿にヒントを得る、という方法は少々まどろっこしい気もする。そもそも子犬に弾いてもらう、というアプローチはどうだろうか。
(text by 三土たつお)
知人の子犬をお借りする
知り合いの知り合いが子犬を飼っているということだったので、無理をいってお宅にお邪魔をさせていただいた。
その方はキックボクサーのグレイシャア亜紀さん。現在はWMCインターコンチネンタル女子スーパーフライ級王者という実力者だ。
左上の写真で抱いているのが、飼い犬のエイトちゃん。チワワとダックスフンドのミックスで、生後3ヶ月という正真正銘の子犬だ。
どのような演奏を披露してくれるか。エイトちゃんにも趣旨を説明し、さっそく持参したキーボードの上にスタンバイしてもらった。
演奏開始
どんな演奏を見せてくれるか、などと書いたが、もちろんエイトちゃん側にはそんな気はさらさらないに決まっている。わけも分からず鍵盤に乗せられていい迷惑だったろう。ごめん。
それでも、グレイシャアさんにごはんやおもちゃなどで気を引いてもらううちに、少しづつ鍵盤に慣れてくれるようになった。上で紹介した動画では、その演奏内容も望外に音楽性の高いものとなっている。
以下に楽譜をみていこう。
作品世界を吟味する (評者:三土)
「子犬によるワルツ」という名目上、上の楽譜では4分の3拍子という記述になっている。ただ、この作品をつらぬく無拍子感、無調性感は、ワルツの枠を超え、すぐれて現代的な音楽となっていると言わなければならない。
まずは冒頭、繊細なピアニッシモの導入から、シ♭、ミ♭、ラ♭、レ♭の4度堆積により調性感をはやくも浮遊させる。
この手法は奏者のほかの演奏についても共通に見られるものであったが、これは、奏者が犬であること、および黒鍵の上を歩きやすいことを考慮すると、むしろ自然な奏法とも考えられる。
6小節めを演奏する上で注意すべきなのは、その運指である。
(人の場合と同様、右前足を1番とし、以下、左前足、右後足、左後足を2、3、4番とする。)
ここでは最初のシ♭音を右前足で打鍵するのがよい。そのことにより次シ音、そしてファ・ソ音へと、四肢をスムーズに移行させることが可能となる。初学者の学習ポイントといえよう。
10小節めのフェルマータでは、いくぶんの余韻を残しつつも、軽やかに鍵盤から降りるのがよい。新ウィーン楽派の影響を感じさせる作品世界を楽しもう。