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はっけんの水曜日
 
人の写真が写せない

(text by 大塚 幸代



前々回に私が書いた記事、「化粧品売り場が苦手な人いませんか」に、たくさん反響のお手紙いただいたきました、ありがとうございました(その多くは「私もです!」というものでした)。

今月で当サイトは4周年だそうだ。私は初代からのライターなので、4年ほどこちらに寄稿していることになる。
最初はデジカメの扱いが不馴れで、撮った写真もしょぼかった。しかし、これがしつこく続けているうちに、「物撮り」に関しては、かなり上達したと思う。
とくに、食べ物の気合い撮影。
ひじをテーブルについて、カメラの高さを固定する。手首に力を入れて、ぶれないようにする。息を止めてシャッターを押す。
これで、なんとかやっている。でも撮るのが上手くなったのは、食べ物のような、動かないものに対してだけだ。

思えば「化粧するのが苦手/自分の顔が苦手/写真に撮られるのが苦手」なだけじゃなく、「写真を撮るのも苦手」なのかもしれない。
自宅アパートのハードディスクにぶち込んであるデータに、人物はほとんどない気がする。友人も好きな人の顔も、全然撮ってない。
なんだか恥ずかしくて撮れないのだ……。

自分は人物写真撮影がどんだけ苦手なんだろう、想像もつかないなあ、ヤベーまずいと思って、先週日曜、代々木公園『スリランカフェス』で同席した、ライター佐倉さん、藤原くんを撮影させてもらった。

おふたりとも、「被写体になるのは別に平気」なタイプ。私のような、醜形恐怖症ぎみな部分はないという。
どうやったら可愛く撮れるのか、悩みながらシャッターを切った。
「別に平気」だとはいえ、人はカメラを構えられると、身体の筋肉をキュッと緊張させてしまう。でもそうすると、いつもと違う顔になってしまう。
いつもの佐倉さんと、いつもの藤原くんのほうが、もっと可愛いはずなのにな、とレンズを通して思いながら、身体をほぐそうと、話し掛けてみる。

さ、最近あったいちばん楽しかったことって何かありました? 佐倉さん。
「んー、飼ってるスカンクが、冬毛になったので、触り心地がサイコーになりましたね! あとスポーツ自転車で時速30キロ出せたことかな」
30キロってそれ、危険じゃないのか? ……藤原くんは?
「楽しかったこと? (首を左右にかしげて、30秒ほど悩みつつ、腕をくんで)……無いですね」
じゃあ悲しかったことは?
「……それも無いですね」

質問が大雑把すぎただろうか、と反省しながら、くだらない話に切り替える。話しながら、ふたりのことを、とらえる努力をしてみた。
私の佐倉さんのイメージ。目をまっすぐに見る人、見つめられると胸をぐーっと押されるような強い迫力がある。すごく真面目でまっすぐすぎる女性。

藤原くん。触らせてくれないけど近寄って来る近所の猫みたいに、気高くずうずうしい。妙にキュート。頭が良すぎて頭がおかしい。常に脳がはじけるほどぐるぐる回ってて、一生懸命何かを我慢してるけど、それに無自覚な感じ。

ひとりにつき、100枚くらい撮った。

昔、有名なフォトグラファー(佐内正史さんという方)にインタビューしたとき、「写真って、自分の好きな相手の表情を切り取っているわけだから、結局、撮ってる側の自画像になるんだよ」と答えられたことがあった。
その時はピンと来なかったけど……。

家に帰って、画像を見直して愕然とした。
……ほとんど顔をうつしてない。
そして、自分の思っているふたりのイメージが、まったく反映されてない写真になっていた。

 


正面から見てお話することが多いので、彼女の横顔を見ることは少ない。はずなのに、横顔ばかり撮ってた。

最近、楽器を弾く人の指ってセクシーだなーと思うようになったのだけど、こうやって手を写してしまうのは、無意識にエロスを求めてるせいなんだろうか。やだなー。ところで藤原くんの爪は全部、噛み切って深爪になっているそうです。彼の魂を救う術は世界にあるのだろうか。


多少ビールで酔っていたとはいえ、本当に顔を写してない。なんだろう、この目線は。
音のないような、止まった写真ばかり。
自分でも理由が分からない。

……ちょっと今、ものすごく悩んで落ち込んでいる。

もし私が家族を持つようになったら、ちゃんと家族写真撮れるんだろうか、こんな写真ばっかりだったら、子供に恨まれるかもしれないなあ、と想像した……。


いちおうキメショットも、押さえてはいるのですが。

 

 

追記

この日の夜、佐倉さんからメールをもらった。
「そういえば人からきいたんですけど、どこかの掲示板に、大塚さんの顔写真を、修正入れて女優さんばりに美人にした画像が、アップされてたらしいですよ」
まじっすか。そんなキトクな作業をしてる方がいたとは。

ひょっとして、前回の記事のコレか?

見たいので、見かけたかた、是非送ってください。

 


 

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