遊牧生活ということは"住所がない"ということだ。
もしもまたモンゴルに行くことがあっても、彼らに会えるとはかぎらない。
息子を通じ、聞きたいことはたくさんあった。
人が死んだら、火葬にするのか。お墓はあるのか。
家畜に襲われることはあるのか。犯罪はあるのか。
モンゴルの言い伝えも聞きたいし、ホーミーも教えてもらいたい。歌のひとつも覚えてほしい。オンのプロレス技がどこまで通用するのか、モンゴル相撲もやらせてみたい。と思ったのに。
息子はなにも聞かなかったしなにも頼まなかった。
中年の母が欲張るほどの、好奇心も探究心もなかったのだろう。最終日だけ日本人ツアー女性の2人といっしょになったが、それ以前はほぼ軽いジェスチャーのみでコミュニケーションをとっていたという。
「せっかく"モンゴル語教本"持たせたのにー」
でも写真を見たらそんなことどうでもよくなった。
話さなければなにも伝わらないと言う人がいる。そりゃそうだろう。でも本当になにもなにひとつ伝わらないのだろうか。
おだやかな人や動物の表情で、なんにもか。これでもか。これでもなんにも伝わらないか。 |