海辺にて
海岸へと向かう坂道を下ると、そこには岩場が広がっていた。
大きな一枚岩がいくつか並ぶ平たんな岩場では、家族連れが日光浴を楽しんでいる。
水平線に目をやると、帆を下ろしたままの白いヨットが数隻浮かんでいる。
あのあたりはマリーナなのだろうか。
水辺で休んでいると、どうしても水に入りたくなってきた。
寄せては返す波の音がボクをそんな気持ちにさせたのだろう。
せっかく海に来たのだ、水もまだ冷たくはない、すこし波と戯れるのも悪くないか。
しかし、水着も着替えも、タオルすら持っていない。
帰りのことを考えると、海へ入るべきではないだろう。
もしボクがもう少し若かったなら、このまま海に入っていただろう。
そしてそのあと、きっと後悔していた。
でも、もう少し若いボクならば、こんなひとり旅はしなかっただろう。
大人になるとはこういうことなのか。
後ろ髪を引かれながら海岸をあとにした。
この時ボクの後ろ髪を引いたのは、海なのだろうか、それとも若い日の自分なのだろうか。
そんなことを考えながら、帰りのバスを待った。 |