絵を描くことにあこがれる。特に風景画だ。美しい景色を目の前にして絵筆をふるう。いい。
けれど、なかなか良い景色の場所って行くチャンスがない。仕方が無いので、身近にある、「良い景色」を写生した。
お菓子にプリントされている風景だ。
描くにいたった深い訳も含め、レポートします。
(text by 古賀 及子)
お菓子の景色を写生する、とは
いささか唐突な今回の「お菓子の景色を写生しよう!」という提案、つまり、こういうことだ。
以前から気になっていたのだ。お菓子のパッケージにときどき見かける「いい景色」。これを写生しようというわけだ。
なんでまた、屋内で写生なのか
そういったわけで順調に描き進む間、なんでまた屋内で写生(正確には模写なのですが)をしようと思いついたのかを聞いてください。
ことの始まりは、友人のお父さんなのだ。
長年会社員として仕事一筋できたお父さん、定年退職を機に油絵を始めたんだそう。ただしこのお父さんが筋金入りの出不精で、しばらくは自宅で静物画などを描いていらしたという。
静止画だけで満足していたお父さんだったが、ある日油絵仲間の描いた風景画を見せてもらったところこれに大変心をうたれ、ぜひ自分も風景画を! と思い立ったのだそうだ。
ただ何しろ外へ出るのはおっくうだ、と。そこで考えたのが屋内での写生(しつこいですが、正しくは模写ですね)だった。
以来、主に観光地の絵葉書なんかを描いていらしたということだ。
ここまでが室内で風景を描くことになった友人のお父さんのきっかけであるが、この話にはまだ続きがある。
友人の父の話、その続き
ポストカードやら写真集やらを油絵にしていた友人のお父さんだが、時を経てある変化が起こっていたのだ。
ある日、実家を離れて暮らしている友人がお父さんのもとへ帰ったときのこと。1枚の油絵を渡されたのだそうだ。人物画である。
友人「あれ、お父さん珍しいじゃん、人物画なんて」 お父さん「うん。ちょっと描いてみた」 友人「お父さんの友達?」 お父さん「違うよ、クワタだよ。クワタ」
クワタ……? 誰だろう、それは。
戸惑う友人に、お父さんが差し出したのは1枚のCDだった。
お父さん「サザンの、桑田」
そう、ポストカードや写真集に飽きたお父さん、今度はCDのジャケットを描いていたのだ! よく見ると、確かにサザンオールスターズのCDジャケットにうつる桑田佳祐さんが描かれていたのだった。
ものすごい自由度である。
この話に胸を打たれ、「私だったら何を書こう」と考えてたどりついたのが、今回のお菓子パッケージだったわけである。
できばえは
……。期せずして、私の考える「退職後の趣味」といった味わいの1枚となった。せめて額に入れたのも余計雰囲気をかもしてしまったか。
なんというか、うんぬん言うのが難しいので勢いでもう1作品描いてみたい。
はずせないお菓子、アルフォート
友人のお父さんがサザンオールスターズのCDジャケットを選んだように、私もこれはぜひと思うお菓子がある。
アルフォートである。「なんで、船?」と突っ込む知恵もまだない頃に人生に切り込んできたアルフォート。
思えばあれから今までずっと、相変わらずの船模様だ。なぜ。あ! もしかしたら、今日私に描かれるためだったのではないか。
壮大な勘違いと共に、写生しました。