……何年前か忘れちゃったのだが、ずっと前、社会人になりたてのころ、知人に「ゴールデン街」に連れて行ってもらったことがあった。
彼女は、マニアックでエロティックな雑誌を作っている女性編集者だった。サラサラストレートヘアの美女で、エロを手懸けていることに誇りがあって、すっげーかっこいい姉さんだった。
彼女は薄暗いその店で、強いお酒を飲みながら、いろんな話をしてくれた。「あのね私、なぜか事故現場を目撃しちゃう体質なのよ! 渋谷のセンター街のアーケード、あれが腐食して落ちて人が亡くなった事故があったでしょ? あれ見ちゃったもの。ドンッって音がして、振り返ったらサラリーマンが……」「うわあああ、まああああじいいいいいでえええええすかああああ!!!!」
ほかにも、ここには書けない色んな話をしてくれた記憶があるのだけれども……まあその、私は「かっこいい大人」と一緒に「ちょっと特別な場所」で「ちょっと特別な話」を出来たことが、緊張しながらも嬉しくて、妙に興奮してたよーな気がします。
その後は、自分ひとりでゴールデン街に行くような勇気もなく、飲む時は安全そうで清潔そうな、チェーン系居酒屋ばかりを利用して現在に至るわけで。
ゴールデン街は私の心の中で「特別な場所」のままだったのです。
(text by 大塚 幸代) |