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特集


ちしきの金曜日
 
「立体駐車場」を鑑賞する
こういうやつ

あるいはご存知の方も多いかと思うが、ぼくは団地の造形がたいそう好きで、団地を写真に撮って好き勝手に評価するというサイトをやっている。

実は団地の次にやろうと思っているサイトがある。それが立体駐車場のサイトだ。ちょっと検索したところでは立体駐車場マニアはいないようだった。すくなくともそういうサイトは見つからなかった。

おかしい。あんな素敵なものなのに。どんなくだらないものでもたいていそれを集めている人のサイトってあるのに。トイレの落書きとか寝てる人を集めたサイトだってあるのに。立体駐車場がないなんて。

今回は、そんな世間の見る目のなさを嘆きながら立体駐車場の魅力をここで啓蒙したいと思う。オチもニーズもない今回の特集。こんどこそライターをクビになるかもしれません。

(text by 大山 顕

さて、一言で立体駐車場といっても、その種類にはさまざまなものがある。大きく「自走式」と「機械式」とに分類でき、機械式はさらに「垂直循環方式」「多層循環方式」「水平循環方式「エレベーター方式」「エレベーター・スライド方式」「平面往復方式」「2段方式・多段方式」など構造によって下位分類される。

今回鑑賞していくのは機械式のなかでも、垂直循環式、エレベーター方式あたりの作品たちなのだが、そういうむずかしいことはここではどうでもいい。ぼくはただただ純な心で外見のみを愛でたいのだ。「街なかにあるノッポなアレ」という説明で十分だ。

女の子を好きになるのに、彼女の循環器や消化器のことについて詳しく知る必要はない。ただ外見だけで十分だろう。そういうことだ。

さらに言うなら、ぼくは自動車免許を持っていないので中に入って使い心地を試してみるなどということもできないし、したいとも思わない。彼女の中にマイカーを入れることなく、ただ遠くから眺めて「素敵だなあ」とつぶやき、人目を忍んでパチリと写真を撮る。ぼくの立体駐車場への思いはプラトニック・ラブ。

 

■鑑賞方法

今回の立体駐車場の鑑賞に当たっては6項目で評価したうえで、その見所の内容ごとにまとめて紹介する。6項目評価はこんな感じだ。

いかにも「立体駐車場」らしいアトモスフィア


「ひとり立ち度」とはビルに併設されていたりせずに、独立独歩でぽつんと存在しているかどうかの指標だ。立体駐車場鑑賞の醍醐味はこの「ぽつり感」の味わいにある。街中に唐突に出現する窓ひとつないノッポな建造物がぽつり。胸騒ぎ。

「スリム度」は縦横比の極端さだ。やはりひょろ長いほうがいかにも立体駐車場然としていて好ましい。真ん中の物件などはなかなかのスリムっぷり。

「P度」とは左の物件にあるように外壁面に書かれた「P」の文字の存在の有無とその鮮やかさの評価である。たいてブルーで記されていることが多い。なぜだかはわからない。今後の研究が待たれる。

「ダンディ度」とはチャートを六角形にしたかったために急きょ導入した指標である。もっぱらぼくの主観でもって評価される。

「すすけ度」は外壁面の汚れ具合である。時を経てその歴史を年輪のように刻み込んだ立体駐車場の姿には神々しいものすら感じる。真ん中のものはまだまだ青二才。

「地味度」とは、外壁面の色や装飾あるいは造形そのものの地味さ加減である。その点、昨今は浮かれた物件も多い。真ん中の物件などは少々いい気になっているのではないかといわざるを得ない。なんだそのこじゃれたラインは。左の物件を見習ってもらいたい。

はやくも読者を大きく引き離してのスタートだが、居直って先を続けようと思う。

 

■ひとり立ちの難しさ


ひとり立ちできない者たち。パラサイトシングルの筆者に言われたくないとは思うが


立体駐車場鑑賞家の思い描く理想の立体駐車場は、何もない荒野にたたずむ孤高の姿だが、当然のことながら荒野には立体駐車場は必要ないので、それはイマジナリーな存在でしかない。

そもそも狭い土地にたくさんの車を詰め込もうと作られるものであれば、まわりはビルだらけになるのは必定。せめてビルの「谷間に咲く一輪の可憐な立体駐車場」と積極的に評価したいとは思う。
実際、上の物件のようになんとも独立心に欠けた立体駐車場が多く見られる。パラサイトシングルの筆者に言われたくないとは思うが。

左などは完全にビルのあいだにまるで自らもビルのごとく建っている。立体駐車場マニアとしてはしっかりしろ、と活を入れてやりたい部件である。真ん中のものはつかず離れずではあるが、立体駐車場としての存在感に乏しい。一番右はビルの谷間に埋もれていたものが、ビルの取り壊しにより半分だけインディペンデント。このままビルが建たないでいてほしいと切に願う。

 

■背が低い悩みはよくわかる


背が低いので、結果としてスリム度が低い物件たち。それ以外は申し分ない評価なので悔しさもひとしお


筆者の身長は165センチ。小学生・中学生のころも列に並ぶときは前から2番目とかだった(身長順に並ばされるのが常だった)。多感な思春期のころの常識として「女の子は背の高い男が好き」というものがある。当時のぼくもそれでずいぶん悩んだものだ。

今はあまり悩んでいない。なぜならば男の魅力は身長じゃないとようやく気がついたからだ。だいじなものはほかにある。中学生のころの自分にそう言ってやりたい。しかし、その「だいじなもの」という点でもぼくはなにか大きく間違っているので、結果は同じだ。立体駐車場が好き、とか言っている男を誰が好きになろう?

なんだか湿っぽくなってしまった。

さて、上の物件たちはひとり立ち度、P度、すすけ度、地味度いずれも申し分ないのだが、背が低いばかりにスリム度において劣るなんとも残念な立体駐車場たちだ。

女性なら「頭がよくて気立てもよく顔立ちも整っている上におっぱいも大きい、だけど背が低い」というのはなんら問題ないが、男の場合そうはいかない。ドイツ語の「立体駐車場」は男性名詞に違いないと思う。



 

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