幼少のみぎり、動物好きであった私は、犬を飼っている近所の家を幼馴染みと巡る「犬さんぽ」をよくしていた。 しかしそれにも飽きたころ、新しく開発したのは「どこに行くかスーパーボールまかせの旅」だった。 転がるボールの行くままに新地開拓をしてゆく。
大人になった今、またそれをやってみたくなった。 手作りスーパーボールに導かれ、私はどこへゆくのだろう。
(佐倉 美穂)
まずはスーパーボール作り
子供の頃、自分の身長より弾ませた魅惑のボールを、この手で作れるとは思ってもみなかった。 それに材料も ・ラテックス ・お湯 ・レモン だけ。色を付けたかったら絵の具を、と応用もきく懐の深さ。
とまあ、「材料も簡単、あなたも気軽に」風に書いたが、ラテックスなんてそうそう売ってない。東急ハンズでなんとか入手。
しかし自分がラテックスを使う日がくるとは。プラモデルも作ったことがないのに、いきなりフィギュアの世界に足を踏み入れた気分だ。
そして最小単位500mlのラテックスを購入し、使用するのは10mlという、大は小を兼ねるというか大ムダをしながら作成に入る。
ラテックスをお湯で10倍に薄め、付けたい色の絵の具を入れ、レモン汁をラテックスの倍入れて混ぜる。固まったら水に濡らしながら丸める。 終了。
フタを開けたラテックスはツーンと鼻にくる匂いだったが、できあがったスーパーボールはなぜか硫黄の匂いがした。 温泉か?君は温泉卵か?といいたくなる自分の作品。 視線の辺りから落とすと胸まで弾む、立派なスーパーボールだ。
できあがったのはオレンジ一色と、青のマーブル模様。 マーブルにしようとした覚えはない。絵の具が均等に混ざっていなかったのではないかと推察される。
青の方は、ガガーリンの言葉「地球は青かった」を借りて、「地球さん」と名付けよう。 白の入り具合がなんとも雲のようではないか。
オレンジは…もちろん「Zくん」だ。
さて旅に出よう
森を抜け川を越え、などというわけにはいかないが、住宅街を出発してボールを転がし、たまに弾ませ、「地球さん」と「Zくん」を交代で案内役に見立てる。
ころころと我が道をゆく二つのボール。手作りゆえの歪みも、また予想を裏切る動きをする。
途中からサイクリングロードに入った。そこはもう芝生に挟まれたアスファルトで、散歩天国、自転車天国なのである。
すれ違うのは自転車に乗りつつ大声で歌う人、大音量でラジオ鳴らす人、犬を散歩させる人。 彼等の目に、ボールを追いかけ、また投げ、走って追う私はどう映っただろう。
そして辿り着いたのは海だった。 晴天の中カイトサーフィンをしている人が「海満喫!」とばかりに水面を滑る。
この砂浜をもって、今回の旅の到達地点とさせていただきます。 だって、砂だと弾まないし。
うまいことオチがついたような旅の終わりだが、サイクリングロードが川の下流の脇道だったので、途中から予想はできたゴールだった。 川にボチャン、で終了ー、となるよりはずっとまともな、青春映画のような終わりの旅だった。
スーパーボールに導かれ、曲ったことのない道に入るのも、少しだけ非日常でいいかもしれません。 立ち入り禁止の場所に入ってしまっても、「いや、ボールが呼んでるから」という言い訳もできるし。