爪を切るのが好きだ。
パチンという何かが爆ぜるような音。 ハードでドライな感触。
まるで人体を手入れしている気がしない。よくもまあ神様はこんな楽しみを人間に作っておいてくれたものだと思う。
でも悲しいことに爪は有限だ。切ってしまった爪をそれ以上切ることはできない。なので今回は爪切りの代用品を探してみました。
(斎藤 充博)
溢れ出す欲求
というわけで、爪切りが大好きだ。とくに、長く伸ばしておいた爪を一気に切るという行為が好きだ。
学校を卒業した後、僕はたぶん手技療法の治療家になるだろう。すると、長く爪を伸ばして切るという行為が、このままずっと一生できなくなってしまう。学校に入る時にそんなことは考えていなかったぞ。
一生の問題だ。このままだと50年後くらいに、近所の子どもに爪切りの素晴らしさを説いてまわる名物老人になってしまうぞ
物は試しと、この時うちに遊びにきていた友達の石井くんの爪を切らせてもらう。 ---おれに爪を切られてどんな気分? 石井「斎藤に手を覗き込まれるのがイヤだ」 「指まで切られそうな気がする、こわい」
ドキッとした。実は、この時僕も「これは、気をつけないと石井くんの指まで切ってしまいそうだ、こわいな」と思いながら懸命に覗き込んでいたのだ。彼の懸念はかなり正確なところをついていたと言える。やはり、他人の爪じゃないもので欲求を果たした方が良いのだろか?
猫の爪を見てみたい
この後、石井くんに猫を逃されてしまった。別に猫の爪を切るつもりなんてなかったのに。
…いや、本当になかったのか? 心の奥で失望の念が湧いてきていることに気づく。これは一体なんだ。
そんな自問自答の結論は出なかったが、僕の爪に対する思いは案外深いことがよくわかった。早めに処置した方が良さそうである。
人も動物も、僕に爪を切られるのはイヤそうだった。 なので、生き物以外で爪切りの代償行為を探してみようと思います。