都道府県の境というのは、川だったり、山の尾根だったり、海だったりと、地形的な境目であることが多い。 しかし、なんにもないごく普通の畑が県境で、しかも三つの県に分かれているところがあるという。 一枚の畑が、群馬県、埼玉県、栃木県に分かれているのだ。 川を挟むわけでも山の尾根でもないところがどうして県境で、周囲がどんなことになっているのか、ちょいと行ってみた。
(工藤 考浩)
埼玉県の北部へ
都心から電車を乗り継ぎ、東武日光線の柳生駅に降りた。 駅の所在地は埼玉県北川辺町になる。 ここから歩いて数分のところに、三つの県が交差する場所があるという。 なんでも、川や山頂などをのぞく平地部分で三県がぶつかるところはここだけだそうだ。
駅前に地域の案内マップがあった。 県境が書かれているだろうか。
がっちり三つ巴
案内図の真ん中あたりに、ちょうど三県がぶつかる場所があった。 近くに川は流れているが、県境はそうじゃないところにある。 話は本当のようだ。
地図で見る限り、特に県境にはなにもなさそうだ。 田んぼや畑かどうかはわからないが、少なくとも道路ではない。 駅から近いので、歩いて向かおう。
埼玉県内を歩く
駅前の地図を参考に、県境付近を目指して歩き始めた。 周辺は住宅のあいだに畑や田んぼがある、関東平野郊外の典型的な風景だ。 ここが埼玉県か群馬県か栃木県かはたまた茨城県か千葉県か、たとえば目隠しをされて連れてこられてもまったくわからないだろう。 だから、ここで三県が交差しているというのは、なるほどそういわれればそうなのかな、という感じである。 と、一生懸命なにか書かなくちゃと思って書いてはみたが、歩いていても「ああ、東京からちょっと遠くに来たな」という以外の感想はなかった。
歩きながら、ここが埼玉県であることを意識させるものを探していたが、これといってめぼしいものはなく、電柱に張られた防犯の看板に「埼玉県警」と書かれているのを見つけたくらいである。
何もないから何もないのだ
「何にもないところに県境がある」というので見に来たのだから当たり前だが、特に何もない。 県境の近くだからといって憲兵が配置されていたり、監視塔があったりするわけもなく、いたって普通の田園地帯だ。 それを見に来たのだから、何もないことを「おお、なにもない!」と喜ぶべきなのである。