8月の昼下がり。 JR上野駅周辺にあるバイク街を通り抜けた先に、僕は奇妙な喫茶店を発見したのだった。
(斎藤 充博)
注文の多い喫茶店
店を通り過ぎようとした時、思わず入り口の貼紙が目に入った。
なんだか色々と注文が多い。しかし、逆にそれが好奇心をかき立てられ、思わず中に入ってみた。あれ?なんか宮沢賢治の童話にこういうストーリーなかったか。大丈夫か、僕。
中はちょっと薄暗いがごくふつうの喫茶店のようにも思える。入り口には「30分以内で」なんて書いてあったが、むしろ居心地が良さそうだ。客席の方まで、ところ狭しと豆袋や樽が置かれている。
と、そんなことを思っているのもつかの間。さらに奇妙なことを発見した。
これを見た途端、僕を取り巻く空気が一気に張りつめた気がした。僕の良く知っている喫茶店の形式とはやっぱり違う。ここは宮沢賢治の世界で、僕はヤマネコに食べられちゃうのか。
恐る恐るコーヒーを注文する。頼んだメニューは「生コーヒー・雫」なんだか意味ありげな名前のメニューである。コーヒーで生ってなんだ。いちいち僕を怖がらせようとしているのか(そして、そんなメニューを頼む僕も僕なのだが)。
編集部の工藤さんが頼もしい
コーヒーを飲んで衝撃を受けた。 これは当サイトで採り上げない手はないだろう。編集会議で提案してみたところ、編集部の工藤さんが撮影に同行してくれることになった。「最近コーヒーにはまっているんで行ってみたい」という風に申し出てくれたけれど、たぶん、風変わりな飲食店の取材に対して、僕が弱いのでは、というのを懸念したからではないかと思う。
取材当日の道すがら、工藤さんがアドバイスをくれた。 「店舗取材だからって、相手に過剰に気を使う必要はないですよ」 「斎藤くんはふつうに話していてもらって、僕が脇から、ちょっと意地悪な聴きにくいことを聴いてあげるよ」 ちょう頼もしい。それでは、入ってみましょう。