耳のなかをのぞく機械というのがあるらしい。さっそく買ってきて、自分の耳を見てみた。
拡大された大きな毛。ぴかぴかの鼓膜。なんだかわからない塊。近くにありすぎて見えなかった世界がそこにあった。幸せの青い鳥の話のようだ。
穴の奥には何かがある。耳だけじゃなく、木にあいた穴や鍵穴なんかも調べてみよう。その奥にはなにが見えるだろうか。
(text by 三土たつお)
■耳のなかは洞窟だった
買った機械の名前は「USBイヤースコープ」。耳かきのときに耳の奥をよく見るために使うものだ。
まずは自分の耳のなかを見てみた。
まるで肉でできた洞窟のようだ。食虫植物の針のように毛が林立している。迷い込んだら生きては出られないだろう。
一番奥でぴかぴか輝いているのは、鼓膜。曲がりくねった洞窟の奥で大切に守られている。
・のぞいたもの:耳の穴 ・見えたもの:洞窟
■木の穴には住人がいる
イヤースコープを持って外に出る。
公園の桜の木の幹にはひび割れや穴がいくつもあいていた。のぞき穴だろうか。スコープを中に入れてみる。
中にはアリがいた。あわてて奥のほうへ逃げている。
木の幹で食べ物をさがしていたのかもしれない。外回り先の喫茶店でゆっくりしていたらとつぜん上司がやっててきた感じだろうか。あわてる気持ちも分かる。
・のぞいたもの:木の穴 ・見えたもの:アリの事情