統計結果をひも解く

例えば「夜道はチカンが多い」のような話だったら理解出来る。いかにも多そうだし、なるべく夜道は一人で歩かないように気をつければいいのだ。しかし、「晴れた日は犯罪が多い」と言われてもにわかには信じ難い。例え本当だったとしても、どんな犯罪が多いのかが分からないので気をつけようがない。「今日は晴れてるから犯罪に気をつけなさい」と子供たちに注意したところで説得力に欠ける。

果たして本当に晴れた日は犯罪が増えるのか？
本当だとしたらどんな犯罪が多いのか？

過去の統計データをひも解いて確かめていこうと思う。

そこでまず、犯罪の発生状況を調べる事にした。過去の犯罪発生件数を日ごとに集計し、そこにその日の天候を重ね合わせていく。犯罪件数の多い日に晴れの日が多ければ、「晴れた日は犯罪が多い」と言い切ってしまうつもりだ。

警視庁と気象庁のデータを参考に

警視庁のホームページに犯罪発生状況の統計データが公開されていた（「発生状況・統計のページ」）。ここに平成14年度から17年度まで、罪種別に月別の犯罪認知件数が掲載されている。ダウンロード用にエクセルデータまで用意されていてとても便利だ。便利なのだが、僕が欲しいのは月別ではなく日別の認知件数である。ホームページ上には見当たらなかったので、警視庁の広報課に電話をかけてみた。

「犯罪認知件数の日別データはありますか？」

広報課から文書課という部署に電話を回していただき、担当の方が調べてくれたのだが、残念ながら日別の統計データはどこにもないとの事であった。

いきなり調査が行き詰まってしまった。
どうしよう？

困ったところで、どこにもないって言うんだから仕方ない。犯罪の件数と晴れた日の日数を月毎にまとめてみる事にした。犯罪の多い月に晴れの日が多かったら、「晴れの日は犯罪が多いと言えなくもない」と言い切ってしまおう。

グラフで見る犯罪と天気の関係

直近データの平成17年度分から、「刑法犯の罪種別認知件数」をグラフ化してみた。全ての罪種を対象にした総数の推移である。

こうしてグラフにしてみると分かるのだが、1月と2月の認知件数が少ないくらいで後はこれと言った特徴を見つける事が出来ない。犯罪は年中起きている、という事なのかもしれない。

「晴れた日に犯罪が多い」という説を実証するのが難しそうであるが、一応、平成17年度の晴れた日の日数をグラフ化してみよう。犯罪の少ない1月、2月に晴れた日が少なければ、「もしかしたら晴れた日は犯罪が多いのかもしれない」と言い切れる。

気象庁のサイトに掲載されていたデータから、東京地方の「晴れ」もしくは「快晴」の日だけをカウントしたグラフを前述のグラフに合わせてみた。「一時曇り」などの日は除外して完全に晴れた日だけを対象としているが、晴れの日は割と少ない事が分かる。一番多い12月でも12日しかない。

そして、犯罪認知件数との晴れの日の関連性がほとんどない事も分かる。犯罪認知件数の少ない1月と2月に晴れの日が多い。むしろ、晴れた日は犯罪が少ないんじゃないか、という残念な結果になってしまった。

この時点で「晴れの日は犯罪が多い説」をあきらめる事も出来る。しかし、もう少し検証を続けてみたい。

罪種別に分析したら何かが見えるかもしれない。

罪種別に検証する

見ての通りどの犯罪も晴れの日との相関関係は見当たらない。

どうやら、晴れた日は犯罪が多い事をデータで実証する事は難しいようである。
であれば、専門家の意見を伺おう。

犯罪心理学の第一人者、森武雄専修大学名誉教授から「晴れた日は犯罪が多い説」についてご意見をいただく。