今年は台風が少ない?
林:
まず、台風の話なんですけど……西村さんが「今年は(日本の本州近辺には)台風があんまり来ていない(上陸してない)のでは?」という話がありまして、言われて調べてみたら確かにずっと香港とかフィリピンの方に西に進んでる。西に進む台風が多くないですか?
増田:
今年は西に流れる台風多いですよね。
林:
西に流れるというのは……高気圧が強いから?
西村:
日本列島の上にある高気圧が強いから?
増田:
そうですね。まもなく21号ができそうという情報がさっき出てきて(10月1日収録)その進路予想図もまた西に流れていて、だからフィリピンはまた結構大変なことになってますね。
林:
前に聞いた話だと、日本の東側に太平洋高気圧があって、端っこを台風がクルクルクル……。
増田:
そうですね、クルクルクルと台風が日本列島に近づく。
林:
しかし、今年はクルクルクルと……ならない。
増田:
ならないですね。なんでこんなに西ばかりに行くかと言うと、やっぱりここ(下図参照)にドーンとこういうふうに高気圧があるから。発生してもこっちにしか行けませんねという状態なんですよね。
林:
じゃあ、今年の夏が暑かったという話と、表裏一体だった。
増田:
この図のオレンジ色のところが、いわゆる太平洋高気圧、夏の高気圧といわれるところで、このピンクが特に強いところなんですけども、まさに強い部分がドーンと日本列島の上にある。でも、南にガードが甘いところがあって、フィリピンや台湾、中国の南側にスーッと行ってしまう。
林:
暑いと台風は日本の本州まで来づらい。
増田:
その代わり、夏の高気圧の一瞬気が緩んだ瞬間、ガードが甘くなった瞬間にヒョコッと急に現れてやってくることもあるんですよ。今年の12号とかもそうでした。
林:
12号の動きは初めて見るパターンなんですけど。これは太平洋高気圧がちょっと隙を見せたときにスルッと入ってきた?
増田:
そうですね。いちおう熱帯低気圧としては南からやってきたんですけれども、熱帯低気圧の状態。強くならない状態でするするっと上がってきて、最後の最後で風速17.2メートル以上という基準を越えたので、台風になった。
林:
ものすごい策士というか、目立たないように近づいてきて、急に刺したみたいな。
増田:
たぶん、1977年にひまわりが打ち上がって気象衛星が出てから、雲としては捉えられていますけれども、それより前に天気図だけ描いていた時代っていうのは、あまりはっきりは捉えられていなかったでしょうね。
林:
ちょっと台風の通路の図をみてて思ったんですが。西に向かう台風と日本に近づきそうで近づかない台風の二手に分かれてるじゃないですか。これは……。
増田:
日本列島の上に高気圧があるんですけど、東の海上(太平洋上)にある高気圧が少し東の方に後退すると、台風の通り道が東の海上にできるんですね。
林:
台風回廊みたいな。そういう意味でいうと、台風の動きってすごく理にかなっているというか、説明できるんですね。
西村:
逆にこの台風の進路図をみると高気圧がこんな風にあるのかな? というのも想像できそうですね。
林:
感情がすぐ顔にでる、わかりやすい奴ですね。
増田:
さっき、収録前に西村さんとちょっとお話してて、今年はものすごく強烈な台風が来てない印象があるというお話だったんですけども、今年日本に上陸した台風は3つ(10月1日現在)で、急に忍び寄ってきて上陸した12号、牧之原(静岡)周辺で竜巻が起こった15号、それから北海道に上陸した5号。それぞれ特徴のある上陸台風で、これらは小ぶりではあったんですけれども、局所的にかなりの被害が出ています。
西村:
けっこう来てて、被害もそれなりに出てるんですよね。
増田:
そうですね、ただ、みなさんがイメージするような、南からやってきて、ぐるっとカーブして、すごく発達して、大きな渦を巻いて……というような台風は少ないので、今年は台風来てないねと思ってしまう人もいるかも知れませんね。
西村:
台風に限らずですけど、天気の印象って自分が体験したその場所のイメージでつい考えがちですけど、広い範囲で考えるとそうでもないんですよね。
なにがどうなったら台風なの?
西村:
そもそもなんですけど、台風の定義って、風速が17.2メートル……。
増田:
はい、中心付近の最大風速が17.2メートル以上ですね。
西村:
定義ってそれだけですか? 素人が台風の情報を見ると、中心付近の気圧、980ヘクトパスカルだとか、930だとか、そこも気になっちゃうんですけど、それは台風かどうかの判断には関係ない?
増田:
気圧の基準はないですね。ただ、気圧が低いほど風が強まるという関係性はあるので、17.2メートルを越えようと思ったら、気圧はそれなりに下がりますね。あとは、熱い空気、熱帯の空気だけでできている熱帯低気圧で、基本南(※)から来なきゃいけないというのはあるんですが。
※北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海
西村:
熱い空気でできた低気圧のうち、中心付近の風速が17.2メートル以上のものが、台風。ということなんですね。
増田:
日本は子供と大人の境目が18メートル……じゃない、18歳ですね(笑)18歳で成人ということになりましたけど、台風も17メートルまでが子供、18メートルから大人になるわけですね。
林:
あ、そういう覚え方ですね。
増田:
そう、だから中心付近の最大風速は、まあ、基本的には小数では出さないので、整数で出すと18メートル以上が成人した台風ということですね。
林:
風速18メートルってどれぐらいの強さなんでしょう。気象庁の風の強さと吹き方をみると「風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出る。」となってますね。
小林:
トタン屋根が吹き飛ばされるぐらいでしたっけ。
増田:
普通の日にそれだけ吹いたら結構な風ですよ。18メートルぐらいになるとなかなか越えないんじゃないですか?
西村:
風速の考え方もちょっと難しいですよね。瞬間的に18メートルぐらいの風がブァって吹くこともあれば、台風の風なんかはずーっと風速18メートルが吹いてますよね。
増田:
平均風速というのは、10分間の平均の値なんですよね。あともうひとつは最大瞬間風速、これは3秒単位で測った時の最大値です。東京で平均風速が18メートルなんていうのは、めったに吹かないというか、台風の中でもかなりヤバい台風が来たレベルですね。
林:
かなり強いんだ。
増田:
2019年の東日本であちこちに水害が出た令和元年東日本台風。これで東京で吹いた最大風速は17.8メートルです。これはもちろん、上陸後少し台風が衰えた東京で観測されたものなんで、上陸地点に近かった場所ではもっと強い風が吹いていました。
なぜ牧之原の竜巻は少し離れたところで発生したのか
林:
風速18メートルって、そんなに強いんですね。……ちなみにこのまえの突風(2025年9月5日 牧之原)どれぐらいだろうと思ったら、風速75メートルって、すごいですね。
西村:
段違いですね……。
増田:
これは、台風とちょっと離れたところで発生した竜巻ですね。
林:
今回の牧之原の竜巻が台風の中心とちょっと離れたところにできたというのはなぜなんですか?
増田:
台風の周りって、すでにものすごい風が吹いていて、そこの中に竜巻があっても台風自体の風が強すぎて竜巻が作れないわけです。ああいう局地的な渦を巻こうにも、周りの風が強すぎると目立たないわけです。となると、台風から離れていないといけない。
林:
離れてて、なおかつ台風の力を借りてできる?
増田:
竜巻ができるのは発達した積乱雲の下でできるわけですよ。で、台風というのは積乱雲の集合体のようなもので、中心はもうガッチリなんですけれども、ちょっと離れたところにはバラバラな積乱雲がいるわけです。この離れた積乱雲たちの下で、もっと狭い範囲で……。
林:
はぐれたやつが、グルグルとイキってるみたいな感じですね。竜巻の強さを表す指標のフジタスケールでいうと(牧之原の竜巻は)JEF3。すごいですね。
増田:
日本では最大級ですね。
林:
フジタスケールは、こうやって被害の状況を気象庁の職員が検分して竜巻の強さを決めるんですね。昔は地震の震度なんかも、何々が揺れたら……みたいに、体感や被害状況をみて気象庁の職員が震度を決めてたといいますけども。
増田:
そうですね、我々が子供の頃まではそうでしたね。ただ、地震と違って竜巻の場合は現象が起こる範囲が狭すぎて、観測できないから……。
林:
あぁ、そうか、事前に観測機器を発生する場所にピンポイントでは置けないですもんね。


