特集 2019年9月1日

海で摘むところから海苔を手作りした(デジタルリマスター版)

今度は海苔をつくってみました。

中日ドラゴンズの落合監督が中村紀洋の獲得を検討しているというニュースをテレビで見ていたら、知人のKさんから、「ノリを取りにいこう!」という、張り切った電話がかかってきた。

どういうことなのか聞いてみたら、野球のノリではなくて、食べ物の海苔の話だった。タイミングが悪い。

なんでも千葉の海岸に自生している海藻のノリを摘んできて、それを加工して四角い海苔にして食べるのが、彼の中で流行っているらしい。

海苔なんて個人で作れるものなのだろうか。海のない埼玉生まれの私にはまったくわからない世界だが、とりあえずノリを摘みに連れていってもらうことにした。

※ややこしいので、海藻の状態ののりを「ノリ」、食べられる状態ののりを「海苔」と書きます。

2007年3月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:浜名湖の奇跡、流れてくるクルマエビを船上から網ですくう『えびすき漁』体験

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海へノリを摘みに行く

ノリを摘むには潮が引いている時間に海へ行く必要があるということで、干潮にあわせて仕事帰りのKさんに車で迎えに来てもらい、この時期にノリが摘めるという場所へと向かう。

車中、Kさんは「俺はどうしても蜜蜂が飼いたいんだ!養蜂がしたい!」と熱く語っていた。マンション暮らしなのでさすがに躊躇しているらしいが。

着いた所は、釣りをしに何回か来たことがある場所なのだが、ノリを摘めるような場所ではないはずだ。本当に大丈夫なのだろうか。

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現場帰りのKさん。この海へと降りるための足場は、Kさんが組んだものではない。たぶん。

ノリを求めて海へ

海岸へと出ると、岸沿いにテトラポッドが積んであり、潮が引くとその先に現れた石畳へ降りられるようになっていた。

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干潮時だけテトラの先に降りられるようになっていた。
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滑るのでスパイク付の長靴を履いてきた。安全第一。

なるほど。干潮時にこの場所へ来たのは初めてなのだが、こうなっていたのか。ロールプレイングゲームの謎解きみたいでドキドキしてきた。

これがノリだ

海藻で滑るテトラポッドにへばりつきながら海へ降りると、そこらじゅうに青い海藻がびっちりと生えている。これが目的のノリなのかな。

Kさんが言うには、この緑の海藻は、海苔は海苔でも青海苔の原料となる「アオサ」と呼ばれる海藻らしい。
青海苔も魅力的だけれど、今回の目的は黒い海苔をつくること。その材料となるノリはどれかというと、テトラポッドについている黒いコケみたいなやつ。これが目的のノリなのだそうだ。

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テトラポッドに付いている緑のがアオサ、黒いのがノリ。
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コレがノリ。知らなかったよ。

ちょっとそのままつまみ食いしてみたら、確かにアオサは青海苔を海水で洗ったような味がする。ノリも海苔を海水で洗ったような味だ。ガッテンガッテン。

ノリ摘みは楽しい

どれがノリかわかったところで、緑のアオサを避けながら、この黒いノリを摘んで集めればいいのだが、これがなかなか難しい。さっきまで海中に沈んでいたテトラポッドに生えているノリなので濡れているのだ。

ノリは濡れた状態だと、つまんでも滑ってしまって全然取れない。そこで、お日様に当てられて、半乾きになったところを下側からペリペリと剥がしていく。うまく剥がれると、とても気持ちいい。

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半乾きをペリペリペリっと剥がします。楽しい。

この楽しさ、たとえるのならば、テトラポッドいっぱいにできたカサブタを剥がしていく感じだ。これは夢中になる。

ノリは濡れていると掴めないし、乾ききってしまっても取れない。Kさん曰く、「ノリを摘みながら、常に太陽の位置を計算に入れろ!」という事らしい。奥が深い。

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濡れた状態だと摘めない。

 

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乾いちゃうと、これも摘めない。

地元のじいちゃんに話を聞いた

ノリ摘みをしながら、近くでアサリを掘っていたじいちゃんと世間話をしていたら、なんと昔、この海で海苔作りをしていたのだという。

このあたりの海はだいぶ前に、開発のため漁師達は漁業権を放棄しているので、もうほとんど海苔養殖はおこなわれていないのだが、じいちゃんが子供の頃はみんな海苔養殖をしていて、それは羽振りがよかったそうだ。

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「手作りの海苔はうまいぞ。俺はもうやらねえけどな。」

このじいちゃんの話がおもしろかったので書き留めておく。

  • 海苔にアオサが混ざることを「青が飛ぶ」という。
  • もうアオサが生えているから、時期がちょっと遅い。
  • 青が飛んだ海苔は、味はいいけれど見た目が良くないから売り物にはならない。
  • 海苔は天気のいい日に一日で干さないと「おかめ」といって、不格好な海苔になってしまう。
  • 海苔は当時のお金で一枚10円で売れた。
  • 海苔をつくるのは10円札をつくるのと同じなので、海苔屋は造幣局と呼ばれていた。
  • 海苔の収穫時期は、家族みんなが朝3時に起きて働いていた。
  • その時期は、晴れたら誰も学校なんかいっていなかった。
  • 雨が降ると、子供達は学校へタクシーで通った。
  • 俺だったらおまえの10倍はノリを摘む。
  • ノリよりアサリを捕れ。


はい、アサリ捕ります。こんな話を、森繁久彌がべらんめえ調になったような口調で、ぶっきらぼうに聞かせてくれた。こういう話は文字にしたところで大しておもしろくないけれど、本人から聞くとものすごくおもしろいのだ。

収穫終了

潮が満ちてくる前にノリ摘み終了。めでたくコンビニのビニール袋一つ分のノリが収穫できた。ところで、これは海苔にすると何枚分なのだろう。

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ついでにアサリも収穫しました。
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指先がボロボロだ。でも楽しかったからいいや。

さあ、こいつで海苔をつくってみよう。

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まずはノリを洗う

数日後、今日一日天気がいいことを確認したところで、海苔作りのスタートだ。海苔を干すのはもちろん天日に決まっているので、天気がとても重要なのだ。

ちなみにここから先の海苔作りに関する記述は、Kさんに聞いた方法と、海で会ったじいちゃんの話などを参考に、私が適当に試したやり方なので、正しいかどうかは知りません。

まずは大鍋に水を入れて、収穫してきたノリを洗おう。

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冷蔵庫の中で乾いていたノリが、水を吸って「ふえるわかめちゃん」のように増えて焦る。

さらにザブザブと洗う

大鍋でざっと洗った後、少量ずつ目の細かいザルにとって、さらにザブザブと洗い、細かい砂まで綺麗に落とす。

とても面倒くさい作業だが、これをやらないと、きっと砂抜きしなかったアサリみたいに、「ジャリっていう海苔」となってしまう。それは困る。

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下のボールに砂がけっこう溜まった。
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これでジャリッといわないはず。

みじん切りにして水と混ぜる

よく洗ったノリを、今度はみじん切りにする。どのくらい細かく刻めばいいのかがよくわからないのだが、まあ適当にザクザク切る。台所がとても磯臭い。

おみそ汁とか佃煮にする分は、刻まないで取っておく。せっかくなので、いろいろと料理してみるつもりなのだ。

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ザクザクとノリを刻んでいく。ドムドムだとハンバーガー。
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これでまだ全体の半分くらい。結構な量になった。

刻んだノリを、水をたっぷり張った大鍋に移す。ドロドロのノリウォーター、パックとかに使ったらお肌によさそうだ。

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こいつをグイッと飲んだら美味しいだろうか。

海苔の形にする

この刻んだ海苔を四角い形にするには、いろいろと専門の道具が必要らしいのだが、そんなものは持っていないので、100円ショップで買ってきた道具でどうにかする。

海苔巻き用の巻き簀と、ざるそば用のザルの底をぶち抜いて作った木枠でいってみよう。

ザルの上に巻き簀を置いて、その上に木枠を置き、計量カップに掬ったノリウォーターをムラにならないようにかけていく。

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巻き簀。4つ買ってきました。
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水は下に流れて、巻き簀の上にノリだけが残る。

 

あり合わせの道具で適当にやっている割には、なんだか正しいことをしている気がしてきた。

あとは干したら完成だ

巻き簀の上で四角くまとまったノリをベランダで干して、完全に乾いたら海苔の完成だ。工程は多いけれど、火を使わないのでそれほど大変な作業ではなかった。

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ベランダで干される海苔。東京ではあまり見ない光景だ。

さて困った。刻んだ海苔がまだ大量にあるのだ。

しかし巻き簀がもうない。なんだか下準備に時間がかかってしまって、もう日が暮れかかっている。海苔が乾いたら次の海苔を干すなんていう悠長なことをやっている余裕はない。

仕方がないので、また100円ショップにいってくるか。

⏩ 次ページに続きます

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