特集 2018年11月16日

専門家と行くダム見学会に参加した

大改造!ビフォーアフター

またバスに乗り込み、塚原ダムから下流にくだって山須原ダムに到着。山須原ダムは1932年(昭和7年)、耳川で2番目のダムとして完成した重力式コンクリートダムだ。しかし、僕が初めて来た2004年には既に水門の付け替え工事が終わっていて、オリジナルの姿は見られなかった。さらに、今回10年ぶりくらいに山須原ダムに来たけれど、10年前の姿とのさらなる変貌ぶりに驚いた。

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2008年の山須原ダム
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2018年の山須原ダム

塚原ダムのところで書いたように、2005年の台風14号によって甚大な被害が出た耳川流域。その中でもこの山須原ダムでは、上流からの流木などが堤体に引っかかって流れが悪くなったり、崩れた土砂が貯水池の底を上げたりして水位が大幅に上昇、川沿いの街で70戸もの浸水被害が出た。

ちなみに浸水した街は1軒を除き新築、そして土地全体を6~7mかさ上げしたという。

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台風14号のときの山須原ダムの様子(現地の説明看板より)

そして、二度と同じ被害が起きないようにするため、山須原ダムは運用しながら大幅な改造を受けることになった。具体的には、真ん中2門の水門を撤去して堤体を9m切り下げ、そこに巨大な水門を1門つけるというのだ。オリジナルがどうとか関係ないくらいの大変貌。更新した水門のうち2門は10年ちょっとでお役御免になってしまったようだ。

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かつてここまでルックスが変わったダムがあっただろうか(現地の説明看板より)

ここはいままさに工事中なので、ヘルメットを被って見学させてもらう。

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こんな仮設の橋を渡ると…
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中心に設えられた巨大な水門と放流口を目の前に見ることができた
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その先で担当の方から改造の詳細な説明を受ける
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手作りっぽい模型でビフォーアフターが分かりやすい

建設会社の方が多いだけあって、ここでは現場での工事の内容や進め方などについて、もはや僕が聞いても理解できないくらいの専門的な質問が多かった。

何がすごいかと言うと、ダムに水を貯めて発電に使う運用は止めずに改造するということ。そのために、改造する堤体の上流側に水をせき止める仮の堤体を造り、その上に仮の水門まで設置してあるのだ。

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改造中の部分(右側)を守る仮の堤体(赤い部分)と仮の水門(グレーの板)。でもいざ大雨のときは仮の水門が右側に倒れて放流する

僕が質問したのは、この仮の水門、放流したことありますか、ということ。素人感まる出し。今年は台風が多かったので5~6回放流しているとのことだった。そのたびに改造している部分を水が流れるので、足場とか機材とか撤去しなければならないだろうし、大変そうだ。

これまでも、予測した以上の洪水や渇水に見舞われ、被害を防ぎきれなかったために改造されて出直すダムをいくつも取材してきた。ダムはいちど造ったらそのまま、というわけではない。必要に応じて進化することもあるのだ、ということは多くの人に知ってもらいたい。

劇的なアフター

この日、最後に到着したのは山須原ダムのさらに下流に設置された西郷ダム。1929年(昭和4年)、耳川水系で最初に造られたダムだ。ここも山須原ダムと同じように、もともとあった水門を一部撤去し、巨大な水門に付け替える工事が今年完成したばかりである。

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14年前にはじめて見たときの西郷ダム
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14年ぶりの西郷ダム。変わり過ぎて同じ人とは思えない

あまりの変貌っぷりに驚いた。以前の西郷ダムは、堤体の上を通る橋のアーチ模様がアクセントだったけど、改造でなくなっちゃったのか…、と思ったら、よく見るとアーチ模様は引き継がれていた。

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目立たないけれどアーチ状の板が貼りつけられている

そして堤体でもっとも目立つのは、新しく据えつけられた巨大な水門…の上にぶら下がる巨大な鐘ではないだろうか。

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なぜこんなところに鐘が…

実はこの鐘のようなもの、当然鐘ではなく、巨大な水門のメンテナンスのときに使うクレーンのカバーなのだという。もちろん、鐘っぽいデザインなのはわざとだろう。その証拠に、ダムの脇には小さな休憩スペースが造られ、そこにダムの形を模した鐘が吊るされていた。

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こんなオブジェ、(発電用ダムで)見たことない!
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そもそもどうして鐘なのか、というところから聞くべきだったか

そして、休憩スペースにはベンチとテーブルも新たに設えてあるのだけど、それがすごかった。

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コンクリートを切り出した椅子とテーブル!

この椅子とテーブル、西郷ダムの切り下げた堤体部分から美しく切り出したコンクリートを使っている。なんてオシャレ!...と思う前に気になって質問したことがある。

「骨材、でかいですねー!」

骨材とはコンクリートの中に入れる石のこと。コンクリートはセメントに水、砂、そして石を混ぜて造られるけれど、石、つまり骨材の大きさや材質は強度に直結するので重要なのだ。大きすぎても小さすぎてもいけない、はず。これまで見てきたダムのコンクリートで、こんなに大きな骨材が入ったものはなかった。それでも90年間まったく問題なく、ダムとして役目を全うしたコンクリート。

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やたらでかい石が入っている

昭和初期に造られたダムだけど(だから?)、ものすごく高度な技術が使われていたということなのだ。

というわけで1日専門家とダムを見てまわって、専門家とダム好きの見るポイントの違いは分かった。だけど、専門家でもすごい場面が目に入ると思わず声を上げてカメラのシャッターを切ってしまう、というようなシーンも何度か見て、なんだかみんな同じダム好きなんだな、と当たり前のことを思ったりもした。


専門家とダム好きのツアーやりたい

ダムを建設したり管理したりしている専門家と話をすると、自分が関わったダムについては詳しいけれど、それ以外はよく知らない、ということが多い。逆に僕らダム好きは浅く広くいろいろなダムの魅力を知っている。というわけで、世界中の専門家とダム好きがお互いの知識を補完して一緒に行くイベントがあったらとても楽しいのではないか、と前から考えている。名づけて「国際ダム大好き会議(International Commission on Love Dams=ICoLD)」、いつか開催したい。

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西郷ダムのクレーンのカバー、「永遠の鐘」と名づけられていて、2台あるクレーンにそれぞれ「永」「遠」と書かれていた。矢沢永吉さんファンの聖地とかにならないだろうか

 

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