特集 2017年2月10日

世界一深い地下鉄駅はすごくすてきだった

深さと革命と渋谷

さて、最初の世界一深いアルセナーリナ駅に話を戻そう。そもそも、どうしてこの駅はこんなに深いのか。

「シェルターとしても使えるように深くした」という話もあるそうだが、それにしては小さすぎないか。確かにドームはぽっかりしていたが。

ちゃんと調べてはいないのだが(すみません。言い訳するとほとんどの資料がロシア語・ウクライナ語でして……)、英語版Wikipediaによれば、キエフを流れるドニエプル川の自然堤防のせいで、この駅の地上部分が盛りあがっているせいだ、とのこと。

(ちなみにチェルノブイリ原発に水を供給しているのはこの川の上流の支流。というか、この川があったからあそこに建設されたわけだ)
あと思ったのは、こういう小さな通路に分かれるコンコースの形式とか、
あと思ったのは、こういう小さな通路に分かれるコンコースの形式とか、
ホームへ行く流れと、改札への流れとの、方向の違いによって動線を完全に仕分けるやりかたって、
ホームへ行く流れと、改札への流れとの、方向の違いによって動線を完全に仕分けるやりかたって、
ロンドンの地下鉄に似てる。
つまり、地下鉄のほうは平常心で地下を走っていたが、アルセナーリナのところで地面のほうが高くなったので結果的に地表からの深さがたいへんなことになった、と。

ほんとか。

確かに、最初は川を地下でくぐるためかと思っていたのだが、実際は橋で越えてる。川の手前にあたる隣の駅は地上駅だ。考えてみれば地下105mからひと駅で地上に出る、ってすごい。

ともあれだから川のせいで深いわけではない。
そう思ってあらためてエスカレーターを見ると、このチューブ感も、
そう思ってあらためてエスカレーターを見ると、このチューブ感も、
ロンドンの地下鉄のそれに似てる。
ロンドンの地下鉄のそれに似てる。
自然堤防のせいで深くなっちゃった、というのがほんとうだとすると、これはいわば銀座線が渋谷で高架になっちゃうのとちょうど反対だ。あれは尾根筋の浅い部分を「おれ、地下鉄だぜ!」って走ってた銀座線が、いきなり窪んだ谷に出会って、外に出ちゃったかっこうだから。

などと考えていて、そういえば、と気づいたのは、キエフの地下鉄ではひとつも「駅もれ」を見なかったということ。においもしなかった。「嗅ぎ鉄」できない。

これは地質と地下水環境の違いだろう。東京がいかに地下水に悩まされているかがよく分かった。

なにが言いたいのかというと、地下鉄がなぜその深さにあるのか、ということを考えていくと、その都市の地形や地質といったものに思い至る、ということだ。

「ことだ」って言われてもだからなんだ、って感じかもしれませんが、ぼくはこのことがすごく面白かったのです。
そういえば、ロンドンの交通博物館には地下鉄のエスカレーターについての充実した解説展示があった。たぶん地下鉄にとってエスカレーターっていうのはとても重要で、かつ象徴的な装置なんだろうな、と思った。
そういえば、ロンドンの交通博物館には地下鉄のエスカレーターについての充実した解説展示があった。たぶん地下鉄にとってエスカレーターっていうのはとても重要で、かつ象徴的な装置なんだろうな、と思った。
ロンドンのエスカレーターの手摺り部分につけられた照明も
ロンドンのエスカレーターの手摺り部分につけられた照明も
キエフのこの広告兼照明に通じるものがある。
キエフのこの広告兼照明に通じるものがある。
ドニエプル川の自然堤防っぷりとそれにともなうキエフ中心部の地形については、別の形で深く納得する出来事がありまして。
気がつけば構内ばかりで外観を紹介していませんでしたが、これがアルセナーリナ駅の地上部。
気がつけば構内ばかりで外観を紹介していませんでしたが、これがアルセナーリナ駅の地上部。
駅を出てどちらへ向かうでもなく「離団組」でぶらぶらしました。途中、ブライドメイドたちが車の中から手を振ってくれて、駅の「無視おばさん」によってつのっていたキエフっ子に対する不信感が払拭されました。
駅を出てどちらへ向かうでもなく「離団組」でぶらぶらしました。途中、ブライドメイドたちが車の中から手を振ってくれて、駅の「無視おばさん」によってつのっていたキエフっ子に対する不信感が払拭されました。
そうすると、そのうちちらほらと追悼とおぼしきディスプレイが増えてきたのです。
そうすると、そのうちちらほらと追悼とおぼしきディスプレイが増えてきたのです。
こんなふうに。これは、もしや……と思いながら坂を下って行くと、
こんなふうに。これは、もしや……と思いながら坂を下って行くと、
マイダン(広場)・独立広場に到着してしまった!
マイダン(広場)・独立広場に到着してしまった!
この独立広場はいわばキエフの中心だ。そして2014年の「ウクライナ革命」の舞台。

親ロシア政権への抗議活動が、革命運動となり、ヤヌコービッチを追い出したが、当局治安部隊による銃撃で100人以上の市民が死亡した。 この場所で。

ウクライナに行く前にNetflixで、そのドキュメンタリー『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ 自由への闘い』を見ていて、しかるべき心構えで観に行かねば、と思っていたのだが、うっかり心の準備もないままこの広場に行き着いてしまった。

こんなはずじゃなかったのだが、と動揺した。なぜ、ここに来てしまったのだ。

だが、しばらくして「ぶらぶらしているとこの広場に到着するように出来ているのだ」と気がついてさらなる衝撃を受けた。
独立広場から放射状に伸びているこれらの道が、
独立広場から放射状に伸びているこれらの道が、
すべて上り坂なのだ。
すべて上り坂なのだ。
つまり、広場は「スリバチ」地形の底。(©OpenStreetMap contributors)
つまり、広場は「スリバチ」地形の底。(©OpenStreetMap contributors
キエフの街を歩いていて、なんとなく下って行くとこの広場に行き着くようにできている。水が流れるように、人はここに行き着く。ぼくがそうだったように。だからこそここは広場になったのだろう。

しかし、逆に言えば戦術的にはここに集まるのは不利だ。だからこそ、だからこそここに集まった市民を高いところから狙撃するというのは蛮行以外のなにものでもない。

ここはもともと沼地だった場所だそうだ。ドニエプル川にそそぐ小さな流れのひとつだったのではないか。

坂を下っていくと、そこに行き着く、という意味で、この広場ってどこかに似ているな、と思って気がついた。

渋谷だ。
渋谷も、坂を下っていくと、駅前広場に行き着く。道の感じとかスケール感がそっくり(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュをカシミール3D スーパー地形セットで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
渋谷も、坂を下っていくと、駅前広場に行き着く。道の感じとかスケール感がそっくり(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュカシミール3D スーパー地形セットで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
先ほど、世界一深い駅の理由を「渋谷と反対」だと言ったが、こんな共通点があるとは。まあ、ぼくの思い込みですけど。

世界中で「地下鉄観光」やりたい

いろいろ言いましたが、キエフに行ったら地下鉄は必見だぞ! ということをお伝えしたかったのにつきます。

世界中の地下鉄を巡るのが夢。とりあえず次はモスクワ行きたい。
キエフでも配線やパイプでぐちゃぐちゃになっちゃうのは同じなんだな! と思った。
キエフでも配線やパイプでぐちゃぐちゃになっちゃうのは同じなんだな! と思った。

【告知】共産デザインの地下鉄・団地についてのイベントやります!

2017年2月15日に「ユートピアと日常の共産主義建築——地下鉄、団地、チェルノブイリ」という魅力的なタイトルのトークイベントに登壇します。今回お話ししたような地下鉄話もじっくり。ぼく自身がすごく楽しみ。みなさんぜひお越しくださいませ。みんなで「いいよねー、こういうの」ってうっとりしましょう。

詳しくは→こちら
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