特集 2016年3月7日

ラーメンの麺に入っている「かんすい」ってなに?

うどんと中華麺の違いは「かんすい」の有無

うどんとラーメン用の中華麺、ほとんどの人がその味の違いをなんとなくイメージできると思う。

どちらも小麦粉で作られている麺なのに、匂いだったり、食感だったり、なにかが根本的に違うはず
この二つの味を想像して比べてみてください。ほら、違うでしょう。
この二つの味を想像して比べてみてください。ほら、違うでしょう。
使っている小麦粉のグルテン量、麺の太さ、水分量、などなど細かい違いは多々あるのだが、一番はっきりとした点は、「かんすい」が入っているかどうかである。

中華麺にはかんすいが入っているが、うどんには入っていないのだ
赤線部分に注目。中華麺には必ず「かんすい」が入っている。
赤線部分に注目。中華麺には必ず「かんすい」が入っている。
公正競争規約の「生めん類 の表示に関する公正競争規約(PDF)」では、うどんと中華麺をそれぞれ以下のように定義されている。
「うどん」とは、ひらめん、ひやむぎ、 そうめん、その他名称のいかんを問わず小麦粉に水を加えて練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工したものをいう。

「中華めん」とは、小麦粉にかんすい(唐あくを含む。)を加えて練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工したものをいう。
ほらほらほら、かんすいが入ってこその中華麺。かんすいがなければ、ラーメンも焼きそばも成り立たたないのだ。

しかしである。我々はかんすいがなんなのかを全くといっていいほど知らない

そこまで麺の方向性を決めてしまう影響力を持ったかんすいとは一体何者なのか、ラーメンの自作を趣味にしている者としては(「趣味の製麺」という活動中)、一度調べてみなければなるまい。

かんすいを製造している会社にやってきた

かんすいについてどうやって調べようかなー、ただ知識としてだけでなく体験を通じて学びたいなー、なんて思っていたら、かんすいを製造している会社の人と偶然にも知り合うことができた

社外秘でない部分なら教えてくれるということなので、さっそく埼玉県狭山市の梘中麺(かんちゅうめん)工業株式会社へとやってきた。

今年の運をほぼこれで使い切った気がする。
よくわからないけれど工場っぽい場所だろうとイメージしていたら、民家っぽいところに到着。
よくわからないけれど工場っぽい場所だろうとイメージしていたら、民家っぽいところに到着。

家族経営の小さな会社ですよとは聞いていたが、社長のおかあさんとその息子さんの二人だけでやっている会社だった。かんすいってこんな小規模で作れるものなのか。

しかしこの梘中麺工業株式会社こそが、日本におけるかんすいの歴史に深く関係していたのだ
右が社長の古俣清子さん、左が息子さんの古俣竜弥さん。
右が社長の古俣清子さん、左が息子さんの古俣竜弥さん。
この会社の歴史を簡単に説明しておくと、梘中麺工業の創業は昭和38年で、初代社長の故・竹内三四二(みよじ)さん。その息子であり清子さんのご主人だった古俣逸郎さんが二代目を継ぐも2009年に他界。そして現在は清子さんが社長となり竜弥さんと引き継いでいる。

初代の頃はかんすいの製造販売とあわせて製麺もやっており、梘水(かんすい)と中華麺の会社なので、梘中麺工業。その成り立ちについては後述させていただこう。

かんすいってなんですか?

まずかんすいとは一体なにかという直球の質問に答えていただいたところ、「麺に独特の食感や喉越し、色味を与える添加物」とのこと。

「梘水」と書くくらいだから本来は液体を指すのだが、粉末状のものも多く使われているため、濃縮水溶液を水梘(みずかん)、粉末を梘粉(かんぷん)と呼ぶらしい。ぜひ覚えておきたい製麺専門用語である。
甲類焼酎ではなくて梘中麺工業の水梘、雪白梘水。初代が「いいと思うからマネするんだろ!正しいかんすいが広まっていいじゃねえか」との理由で商標登録していないため、類似品が多々あるので要注意。
甲類焼酎ではなくて梘中麺工業の水梘、雪白梘水。初代が「いいと思うからマネするんだろ!正しいかんすいが広まっていいじゃねえか」との理由で商標登録していないため、類似品が多々あるので要注意。
梘中麺工業の社長である古俣清子さんと、一子相伝のめんつゆも気になる編集部の古賀さん。
梘中麺工業の社長である古俣清子さんと、一子相伝のめんつゆも気になる編集部の古賀さん。

かんすいはなにからできているの?

かんすいの原材料は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二ナトリウムなどの食品添加物として認められているアルカリ性物質で、これが小麦粉のタンパク質(グルテン)に作用して中華麺らしい腰を生むようだ。

なぜ独特の腰が生まれるのかライターの加藤さん(理科の先生)に聞いたところ、アルカリ成分がグルテンの架橋反応を促進するのではとの答えだった。正直まったくわからないが、アルカリのパーマ1液が髪をクルクルにするみたいなことだろうか。私は天パーだが。

うどんで使う食塩(塩化ナトリウム)は中性なので、小麦粉に対する作用の仕方が違い、中華麺とは性質の違うもっちりとした麺になるのだろう。うどんも好きです。
国内で精製された原材料にこだわっているそうです。これらを企業秘密の製法でブレンドしてオリジナルのかんすいを製造する。
国内で精製された原材料にこだわっているそうです。これらを企業秘密の製法でブレンドしてオリジナルのかんすいを製造する。
また麺がうっすら黄色くなるのは、小麦粉に含まれるフラボンという物質がアルカリと反応して黄色くなるかららしい。

ただかんすいだけでそこまで強く色が出る訳ではないので、鮮やかに黄色い麺(札幌ラーメンとか)は卵やクチナシなどの色素が入っている場合が多い。この記事で最初に出てくる中華麺にもクチナシの色素が使われていた。
かんすいは少量だと手に入りにくいので、趣味で中華麺を作る人は代わりに重曹(炭酸水素ナトリウム)をよく使う。
かんすいは少量だと手に入りにくいので、趣味で中華麺を作る人は代わりに重曹(炭酸水素ナトリウム)をよく使う。

かんすいに種類があるのはなぜ?

かんすいメーカーでは、これらの原材料を独自の割合で調合して、オリジナルのかんすいを製造している。

その微妙な匙加減が、博多ラーメンの細ストレート低加水麺向きだったり、喜多方ラーメンの太ちぢれ多加水麺向きだったり、あるいは蒸して使う焼きそば麺向きだったり、商品としてのかんすいの特徴を決めるのだ
商品ごとに成分の配合が異なるり、開示の義務があるので社外秘ではない。ただこれをマネして同じ割合で作っても別の会社が作ると同じものにはならないのだとか。
商品ごとに成分の配合が異なるり、開示の義務があるので社外秘ではない。ただこれをマネして同じ割合で作っても別の会社が作ると同じものにはならないのだとか。
そしてこだわりのある製麺会社や自家製麺のラーメン屋は、作りたい麺に合わせて使用するかんすいを選ぶのである。

ただでさえ奥が深すぎて底が見えないラーメン沼には、かんすいという落とし穴もあったのか。
かんすいの工場は社外秘だが、めんつゆ工場ならばと見せていただいた。本枯れ節を使った贅沢な「お汁の元」。
かんすいの工場は社外秘だが、めんつゆ工場ならばと見せていただいた。本枯れ節を使った贅沢な「お汁の元」。
枯れ節でダシをとる鍋から漂う鰹節の香りがすごい。使い込まれたすっぽん用の土鍋みたいだ。
枯れ節でダシをとる鍋から漂う鰹節の香りがすごい。使い込まれたすっぽん用の土鍋みたいだ。

かんすい使用の歴史を教えてください

日本では中国から輸入したかんすいを戦前から使っていたが、国交の悪化から輸入が難しくなると、昭和25年頃には石鹸に使われていた苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)で作った安価な代用品が出回りだした。ここで今も根強い「かんすい=体に悪い」というイメージが生まれたようだ。

これではイカンと立ち上がったのが、東京で製麺業をしていた竹内三四二さん。麺好きの健康を守るために製麺仲間たちと「梘水中華麺研究会」を立ち上げる。そして安全な国産かんすいを生産すべく梘中麺工業株式会社を起こし、製麺会社への指導などに奮励したのだった。

そして現在、かんすいは食品添加物として食品衛生法で厳しく管理されるようになり、食品衛生管理者資格認定講習会において添加物の課程を修了した者でなければ製造できず、日本食品添加物協会の「かんすい認定証」の貼られたものしか販売できない。
かんすいの製造者になるためには、3か月に及ぶ講習会に通わなければいけないそうです。
かんすいの製造者になるためには、3か月に及ぶ講習会に通わなければいけないそうです。
後日、かんすい誕生の歴史について調べてみたところ、諸説あるようだが中国の内モンゴルにある塩湖(鹹湖)のアルカリ性物質を多く含む水を使うと、なぜかコシの強い麺ができることから、その水を煮詰めたり固形化したものが使われるようになったらしい。

温泉に入ると不思議と疲れがとれるから、そこでとれる湯の花(温泉の素)が家庭用に売られるようになったみたいな話である。

そして中国から製麺技術と一緒にかんすいが伝わってきて、日本では「中華麺=かんすいの入った麺」となったらしい。ちなみに中国にはかんすいを使用しない麺もたくさんある。刀削麺とかそうですね。
めんつゆを作っていると、その匂いで猫が集まってくるそうです。
めんつゆを作っていると、その匂いで猫が集まってくるそうです。
元々「鹹水(かんすい)」という言葉があるけれど、これは塩化ナトリウムなどの塩分を含んだ水、つまり海水や塩湖の水のこと。

そこから偶発的に添加物としてのかんすいが生まれ、中華麺用のために人工的に精製したものも、かんすいと呼ぶようになったということなのだろう。

実際に中華麺を作ってみよう

かんすいについてしっかりと学んだところで、今度は実際に梘中麺工業のかんすいを使って、中華麺を製麺させていただこう

そのための道具は一式持参した。知識も大事だが、使いこなせてこそのかんすい。

スーパーでも売っている一般的な強力粉を使って、かんすいの力だけでどれほどの中華麺ができるのだろうか。
かんすいの濃度はボーメ計(ヘラブナ釣りのウキみたいなやつ)という道具で測り、水で薄めたものを打ち水と呼ぶ。梘粉の場合、水に溶かしてすぐはガスが出て匂いが強く、また熱を持っているため、2~3日後に再度撹拌しての使用を推奨。
かんすいの濃度はボーメ計(ヘラブナ釣りのウキみたいなやつ)という道具で測り、水で薄めたものを打ち水と呼ぶ。梘粉の場合、水に溶かしてすぐはガスが出て匂いが強く、また熱を持っているため、2~3日後に再度撹拌しての使用を推奨。
ボーメ度が35度の原液を5度に薄めた打ち水。標準が5度5分で、冬は4~5度、夏は6~7度と濃度を調節するのがコツだとか。私は塩と梘粉を同量使っていたが、かんすいだけで作るのが本来の作り方で、細くても伸びにくい中華麺になるそうだ。
ボーメ度が35度の原液を5度に薄めた打ち水。標準が5度5分で、冬は4~5度、夏は6~7度と濃度を調節するのがコツだとか。私は塩と梘粉を同量使っていたが、かんすいだけで作るのが本来の作り方で、細くても伸びにくい中華麺になるそうだ。
以前は業務用製麺機のあった部屋を借りて、梘中麺工業のかんすいを使って麺を打つ。
以前は業務用製麺機のあった部屋を借りて、梘中麺工業のかんすいを使って麺を打つ。
小麦粉に個性がありすぎても変化がわかりにくいので、特に中華麺用ではないスーパーで買ったカメリヤ強力粉を使用。
小麦粉に個性がありすぎても変化がわかりにくいので、特に中華麺用ではないスーパーで買ったカメリヤ強力粉を使用。
粉に打ち水を混ぜていくと、かんすいの影響でうっすら黄色っぽくなっているのがわかる。
粉に打ち水を混ぜていくと、かんすいの影響でうっすら黄色っぽくなっているのがわかる。
ボトムズ好きの竜弥さんにメカニカルな家庭用製麺機は響いただろうか。
ボトムズ好きの竜弥さんにメカニカルな家庭用製麺機は響いただろうか。
「打ち粉は両端の切り口に付けてまぶすのよ。製麺機の掃除は私の役割だったわー」と懐かしがる社長。
「打ち粉は両端の切り口に付けてまぶすのよ。製麺機の掃除は私の役割だったわー」と懐かしがる社長。
本当は麺を2~3日寝かせた方がうまいそうだが、時間が無いのですぐに茹でる。スープは梘中麺工業の「中華練スープ」を使わせていただいた。
本当は麺を2~3日寝かせた方がうまいそうだが、時間が無いのですぐに茹でる。スープは梘中麺工業の「中華練スープ」を使わせていただいた。
かんすいの製造者にチェックしてもらいながら製麺することで、私がかんすいの使い方がぜんぜんわかってなかったという大きな発見があった。帰ったらボーメ計を注文しよう。

製麺技術のノビシロに、かんすいの使い方があるとは思わなかった。

中華麺らしい中華麺ができました。

打ち立ての中華麺で作ったラーメンを試食していただいたところ、竜弥さんから「日本で一番だと思っているうちのかんすいを使った麺の特徴がよく出ています!」というお言葉をいただいた。

正しいかんすいの使い方で製麺した中華麺は、まさにザ・中華麺という味と食感。匂いもかんすい臭いという訳ではなく、中華麺らしさを感じる香りといったところ。

いつも使っているかんすいとの違いまでははっきりわからないが、1時間くらいでチャチャチャっと作ったラーメンにしては麺が相当うまいと思う。いつか他のかんすいも試してみたい。
強力粉1キロに対して打ち水400グラムで作った中太ストレートの中華麺。
強力粉1キロに対して打ち水400グラムで作った中太ストレートの中華麺。
余った麺を置いていったところ、数日おいてから食べたら熟成が進んでさらにおいしくなっていたそうです。
余った麺を置いていったところ、数日おいてから食べたら熟成が進んでさらにおいしくなっていたそうです。
「おいっしい!粉にかんすいを混ぜただけですよね!いやいやいや、なるほどなるほど、かんすいってこういうことか!」
「おいっしい!粉にかんすいを混ぜただけですよね!いやいやいや、なるほどなるほど、かんすいってこういうことか!」
「かんすいの力って結構すごいでしょ?」と社長。倉庫から出てきたというかっこいい前掛けをいただきました。
「かんすいの力って結構すごいでしょ?」と社長。倉庫から出てきたというかっこいい前掛けをいただきました。
かんすいなんて普通に生活をしていたら、気にする必要など全くないものだが、その使い方だったり歴史だったりを深く知ることの満足度がすごかった。

製造している方から直接聞けたのが大きかったのだと思う。知ることの根源的な喜びを、久しぶりに味わえた気がする

新しい製麺に対する課題として、様々な配合のかんすいを使いこなすという項目が加わった。そこに麺の加水率とか、小麦粉の種類とか、麺の太さとかの要素が加わるのだから、本当にキリがない世界である。なんて悩むほどの腕でもないのだが。

梘中麺工業のかんすいやめんつゆは、ほとんど直接販売しかしていないので、ご興味のある方は問い合わせてみてください。地方発送も対応しているそうです。

■梘中麺工業株式会社
住所:埼玉県狭山市上奥富1212
電話:04-2952-2092

麺といえば…麺の写真の投稿企画やってます

同行しました編集部の古賀です。こんにちは。

大変興味深い記事でしたね…。かん水といえば伊丹十三監督の映画「たんぽぽ」の印象を持っていました。宮本信子さんが「かん水はいつ入れるんですか!?」「かん水は!」「かん水はいつ!?」とかん水のタイミングを知りたがるシーンがあるんですよね。私にとっては「たんぽぽ」は かん水の映画、というイメージでもあります。

かん水=「たんぽぽ」 であり、「たんぽぽ」=かん水

という具合です。

しかし今回の取材でかん水のなんたるかがばっちり分かりました。あとは「たんぽぽ」の本来の内容をもういちど映画を鑑賞して確認しておきます。

……。長くなりました。

麺といえば、そう、マガジンハウスのウェブマガジン コロカルとの共催、麺の写真の投稿企画「麺はアイドル!」絶賛実施中です!

1月からスタートし、投稿も300件を超えました。見るだけでもわくわくしますのでぜひぜひおいでください。

ついでのお知らせ失礼いたしました。では、デイリーポータルZを引き続きお楽しみください!
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