特集 2015年11月27日

地元のマンションポエムがおもしろい

「澄む」のほかにも「刻」(とき)、「邸」(いえ)などがポエムの基本だ。ぼくのパソコンの変換ソフトはこれらマンションポエム語法を学習しちゃってたいへんです。
「刻(とき)を紡ぐ邸(いえ)」。基本です。( 「プラウド中野本町」野村不動産より)
「刻(とき)を紡ぐ邸(いえ)」。基本です。( 「プラウド中野本町」野村不動産より)
かと思えば、「この邸」と書いて「マスターズ」と読ませる。マンションポエムは常にぼくの予想の先を行く。( 「ブリリア品川大井町」東京建物より)
かと思えば、「この邸」と書いて「マスターズ」と読ませる。マンションポエムは常にぼくの予想の先を行く。( 「ブリリア品川大井町」東京建物より)

ブランドの高い地名をなんとか入れてくる

ほかのマンションポエム文体の特徴としては、建っている街の近くの地名を入れ込んでくる、というものがある。

以前紹介した「そこは成城でもなく、仙川でもない。そして、成城でもあり、仙川でもある」という禅問答ポエムが白眉だが、それ以外にも似たような「地名列挙」作品事例はたくさんある。
もはやマンションポエムの殿堂入り。(「セイガステージ仙川」誠賀建設株式会社より)
もはやマンションポエムの殿堂入り。(「セイガステージ仙川」誠賀建設株式会社より)
「広尾を纏う西麻布」。「纏う」という語の可能性を感じる名作地名列挙ポエムだ。( 「ザ・パークハウス西麻布レジデンス」三菱地所レジデンスより)
「広尾を纏う西麻布」。「纏う」という語の可能性を感じる名作地名列挙ポエムだ。( 「ザ・パークハウス西麻布レジデンス」三菱地所レジデンスより)
これは、近くにブランドの高い街があるのなら謳わない手はない、という詩人の貧欲さの現れだと思う。特に街の境界に建つ物件に顕著だ。いいとこどりというわけだ。
とはいえこれ、いいとこ取りなのかどうか分からない。(「グランドメゾン中野南レジデンス」積水ハウスより)
とはいえこれ、いいとこ取りなのかどうか分からない。(「グランドメゾン中野南レジデンス」積水ハウスより)
こちらは東横線沿線の、ぜひ入れておきたい地名を入れていったらただの車内アナウンスみたいになった事例。祐天寺の立場がない。(「プラウド学芸大学」野村不動産より)
こちらは東横線沿線の、ぜひ入れておきたい地名を入れていったらただの車内アナウンスみたいになった事例。祐天寺の立場がない。(「プラウド学芸大学」野村不動産より)
かように、街の名前はマンションポエムにとって重要な要素である。いや、むしろマンションポエムとは街の名前しか言っていないと言ってもいい。「場所ポエム」だ。

本シリーズの記事を書いて以来「マンションポエムは何を表しているのか?」と問われるようになった。そんなこと言われてもなあ。

と困惑していたが、しかしあるとき分かったのだ。これは何かを表しているのではなく、隠しているのではないか。

何を隠しているのか。思うに、マンションポエムは他ならぬマンションの建築自体を隠蔽している。

高層住宅建築の経済と技術の進化ってすごくて、すごーくおおざっぱに言うと、マンションってもはやどれも同じ工業製品だ。津田沼の2400万の物件も、高輪の1億8000万のものも、建築としてはほぼ同じと言っていい。

じゃあこの価格差を説明できるものはなにか? それが場所だ。だから都心の高級マンションは最大限に場所の物語を紡がなくてはならない。

マンションポエムが売っているのはマンションではなくそれが建つ場所というわけだ。たぶん建築や場所に関係する単語をだーっと並べて、そこからマンションポエムに登場する単語を消していくと、そこに残った言葉によってマンションポエムによって隠された・語りたくないものが浮かび上がってくるのではないか。

マンションに限らず、なにかが語られるときそれがポエムの体裁をとったら、そこに何かが隠されていると思った方がいいと思う。

って言うと、なにやら批判しているように聞こえるが、そんなことはない。マンションポエムは、ポエムの中では一番無害だ。いわゆるブラック企業が標榜する「企業理念ポエム」が隠しているものと比べると実に牧歌的だと思う。だからぼくは楽しんでいるというわけ。

高度消費社会とはこういうことか

その無害さは、最近特定のデベロッパーのポエムに見られるある特徴からうかがえる。

それは「註付きポエム」である。
見ると「東京を頂く」というあっぱれなポエムに註が付いているではないか( 「キャピタルゲートプレイス」三井不動産レジデンシャル、野村不動産より)
見ると「東京を頂く」というあっぱれなポエムに註が付いているではないか( 「キャピタルゲートプレイス」三井不動産レジデンシャル、野村不動産より)
下の方を見ると『「東京を頂く」とは、都心立地・駅直結により数々の東京の魅力を手に入れる生活や、53階建ての本物件より東京を見晴らす生活を追求し、表現したものです』とある。そ、そうですか。
下の方を見ると『「東京を頂く」とは、都心立地・駅直結により数々の東京の魅力を手に入れる生活や、53階建ての本物件より東京を見晴らす生活を追求し、表現したものです』とある。そ、そうですか。
「誇り」にも註が必要なのか! (「パークコート千代田富士見ザタワー」三井不動産レジデンシャルより)
「誇り」にも註が必要なのか! (「パークコート千代田富士見ザタワー」三井不動産レジデンシャルより)
『「誇り」とは、ここに住まう方と三井不動産レジデンシャルにとって、誇りとなる住宅の創造を目指した住まいへの思いを表現したものです』とあるが、「誇り」の説明に「誇り」を使っちゃだめだと思う。
『「誇り」とは、ここに住まう方と三井不動産レジデンシャルにとって、誇りとなる住宅の創造を目指した住まいへの思いを表現したものです』とあるが、「誇り」の説明に「誇り」を使っちゃだめだと思う。
こういう「註付きポエム」が最近非常に多い。楽しい。

ここからは想像だが、これは比較的多くの予算をかけた宣伝が行われ、かつブランドを重視するマンション業界なだけに、リスク管理が徹底された結果なのではないだろうか。

「今回このようなコピー案を考えたんですが…」

「うーん、でもねえ、これ、もしお客さんに『ほんとうに東京が頂けるでしょうねっ!?』って言われたらどうすんの?」

「…じゃあ註を入れましょう」

っていうやりとりが脳裏に浮かぶ。大きな楕円形の机に営業担当のお歴々が並び、代理店担当者が製作会社から上がってきた「東京を頂く。」と題されたプレゼンテーションをプロジェクターで投影しながらのやりとりである。

註入れるぐらいなら、ポエムやめなよ、と思うかもしれない。しかしそれは違う。これでいいのだ。なぜなら、誰もポエムを信じていないのだから。

ぼくがマンションポエムって面白いなあと思う最大の理由はこの「誰も本気にしていない」という点にある。営業担当の懸念をよそに、これを読んだ人は誰も「ほほう、じゃあひとつ東京でも頂くか」なんて思わない。というか、読んだ2秒後には忘れてる。というか、本当に営業担当が懸念したのかどうか知らない。

そして書く方も信じてないと思う。何人か「マンションのコピーライターやってました」って人に話を聞いたことがあるけどみんな「この言葉の内容を本気にしてもらおうとは思っていない」って言ってた。重要なのは「気を引くこと」である、と。

マンションの購入はオンラインでポチッとするようなものではなく、モデルルームに行き担当の営業がつきっきりになり、勤め先から家族構成から電話番号から年収からおよそあらゆる個人情報を差し出し、キッチンなどの設備バリエーションを検討し、建つ予定の現地も下見し、クチコミサイトを覗き、銀行との折衝を行い…っていう長期にわたるプロセスの末買うものなので、最初に見たマンションポエムなどもう誰も覚えていないのだ。もし最近マンション買った方がいらっしゃったらご自身がお住まいの物件のポエムを思い出してほしい。覚えてないでしょ?

送り手も受け手も言葉そのものを真に受けてはいない、ってすごく高度消費社会的なやりとりだ。すごい。

じゃあここで伝わっているものは何かというと「大手デベロッパーが気合い入れて宣伝してるから信頼できそうだ」ってことだけなのではないか。

「ご当地ポエム」のすすめ

なんだか今回は文章ばっかりですね。すみません語っちゃって。でもマンションポエムについて真剣に考えたらいろいろ思いついて楽しくなっちゃったので。

まだまだ紹介したい珠玉のポエムがたくさんあるのだが、全部見せるとそれだけでページがつきてしまうのでここらへんにしておく。

で、今回みなさんにお勧めしたいのは「自分が住んでいる街のマンションポエムを味わう」だ。よく知っている場所だけに、ポエムが生み出すバーチャルリアリティを感じることができる。「煌めく都市の中枢を掌中にする邸」と言われて物件が建つ場所を見れば、ああそれって市役所のことね、と納得できるといったぐあいだ。

ぼくの実家のある船橋を中心に周辺エリアの詩を見てみよう。
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