特集 2015年10月28日

長尾鶏(オナガドリ)センターとは

鶏はいずこ?
鶏はいずこ?
オナガドリ。文字通り、尾の長いトリ(ニワトリ)だが、存在は知っていても実物を見たことがない。
本場、高知に保存センターがあるというので、行ってみた。いろいろと、予想を超えた場所だった。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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まさかオナガドリを見る機会がやってくるとは

高知には別の取材で滞在したのだが、せっかくここまで来たので他に何か取材ネタはないか探すと、市街地から路面電車で30分ほどのところに、件のセンターがあることがわかった。

以前高知の知人から、このセンターにはぜひ行ったほうがいいと言われたことも思い出し、さっそく足を向けた。事前にスマホで情報を得ようとしたがあまり詳しいことがわからず、それだけがちょっと不安だ。
後免町駅前には、ちゃんとオナガドリの像がそびえていた。
後免町駅前には、ちゃんとオナガドリの像がそびえていた。
だんだんと思い出してきた。吉田戦車氏の漫画「ぷりぷり県」で、オナガドリは高知の物産として出てきたのを読んだことがあるな、そういえば。

オナガドリは高知・南国市の産であり、市の鳥にも指定されている。そして国の特別天然記念物にも列せられる、貴重なトリということである。

その南国市の住吉通という電停で降りて、歩いて20分のところにセンターはある。天気が良くて幸いだ。
しかし普通の住宅地に分け入っていく。この先に本当にあるのだろうか?
しかし普通の住宅地に分け入っていく。この先に本当にあるのだろうか?
国道近くの田園地帯に道が開けた。あれがセンターか?と思ったが(オナガドリを象徴している塔かと思った)、関係ないショッピングセンターだった。
国道近くの田園地帯に道が開けた。あれがセンターか?と思ったが(オナガドリを象徴している塔かと思った)、関係ないショッピングセンターだった。
国道に沿って行くと、ほどなくして着いた。あれ、オナガドリじゃなくて長尾鶏?
国道に沿って行くと、ほどなくして着いた。あれ、オナガドリじゃなくて長尾鶏?
正面にまわる。左はレストランのような?
正面にまわる。左はレストランのような?
入り口だった。風見鶏風のオナガドリがそびえる。
入り口だった。風見鶏風のオナガドリがそびえる。
ここが長尾鶏センターだ。広い国道に面し、ロードサイドによくあるショッピングセンターやレストランなどに混じって建っている。意外な立地である。

意外な、という言葉、あと数回出てくると思う。
次の意外は、こちらだ。入ると、まず喫茶店になっていた。
! 手前に受付があり、そこで観覧料500円を払って、さあ奥へ。
! 手前に受付があり、そこで観覧料500円を払って、さあ奥へ。
説明員の後藤さんに案内され、そのまた奥の別館へ・・
説明員の後藤さんに案内され、そのまた奥の別館へ・・
ここまでの段階でも、これは見に来た甲斐がありそうだ、という気配をひしひしと感じていたが、鶏のいるであろうホールに通されて確信に変わった。こ、これは。見たことのない什器が並んで、独特の雰囲気を醸し出している。
ガランと広いホールに、桐箪笥のような何かが並び居り。
ガランと広いホールに、桐箪笥のような何かが並び居り。
箪笥風のものの前面。これはもしや・・・
箪笥風のものの前面。これはもしや・・・
側面。この扉の開き方、これはもしやあの方々が・・・
側面。この扉の開き方、これはもしやあの方々が・・・
と、彼らの気配を感じながらも、後藤さんの流暢な説明にうながされ、奥の剥製の前へ。

オナガドリとは、もともと江戸時代、ここ南国市での鶏の突然変異が始まりだったという。下の写真左のような「白藤種」が原種で、右の白い方はその原種に白色レグホンを毎年毎年交配して、長い年月かけてやっとできた「白色種」だそうだ。他、原種に東天紅鶏をかけあわせた「褐色種」をあわせ、オナガドリは全3種に分類されるのだという。
尾が長くなるのは全てオスだそうだ。ちなみに最高齢は18歳、尾の最高の長さは13.5m。13.5m先に自分の尾の先端がある感覚ってどんなだろう。
尾が長くなるのは全てオスだそうだ。ちなみに最高齢は18歳、尾の最高の長さは13.5m。13.5m先に自分の尾の先端がある感覚ってどんなだろう。
しかし先の戦争やそのための食糧難で、オナガドリは絶滅の危機に陥る。近隣で、終戦後残ったトリは数羽のみ。その数羽をなんとか工夫して掛け合わせ、今まで絶やさずに来たのがこのセンターのトリたちなのである。

さて説明に一区切りつき、ついに面会の時がやってきた。我々は例の箱のほうに静かに歩み寄った。
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量より質

中にオナガドリがいらっしゃるのである。後藤さんはおもむろに飼育箱に近づき、私もそれにならってひたひたと近づく。

丁寧に、順序通りに扉が開かれ、ついに彼にお会いできた。
誇らしげにお立ちになる。なるほどまさに彼のために造られた形の箱であった。
誇らしげにお立ちになる。なるほどまさに彼のために造られた形の箱であった。
1羽づつ、この箱に収まっているそうだ。このホールにいる箱入りオスは、全部で15羽。意外と少ない。想像では、飼育棚のようなところにズラッと並んでいて・・・

「長くなる尾の保護のため、たくさんのトリを一度には飼えません。そして箱に入れるのは、外部の刺激からトリを、尾を守るためなんです。」

生まれてから1年ほどで尾が20~30cmに伸び、そこから素質ある(=良い尾になる)オスを箱入りに。だがトリの健康のため、飼育員の皆さんが1羽づつ取り出しては野外で遊ばせ日光浴をさせ、尾が汚れていたら洗ったりし、耳掃除や鼻掃除もし・・・と愛情込めて世話をしているのだ。それでは確かに、同時に多くのトリを飼うことは難しいだろう。

鼻掃除、という言葉がトリに対して出てくるのもすごい。うちの犬にもそんなケアはしたことがない私である。
ぜひ一緒に撮りませんか、と促され。大切な尾と聞いたので恐る恐る捧げ持つ、の図。
ぜひ一緒に撮りませんか、と促され。大切な尾と聞いたので恐る恐る捧げ持つ、の図。
尾は適度な油分を保って、緑がかっていてとても綺麗だ。
尾は適度な油分を保って、緑がかっていてとても綺麗だ。
なんだか外にちらちら動いてるな、と思ったらまさに今、日光浴中のトリだった。
なんだか外にちらちら動いてるな、と思ったらまさに今、日光浴中のトリだった。
後藤さんのお兄さんである窪田さん。隣で獣医もなさっている。センターを設立したのは、窪田さんたちのお父様だった。

「祖父の代からオナガドリを飼っていて、そして父が私財を投じ、43年前にここを建てました。最初は小さい小屋だったのを、だんだん大きくしていって。私は小学校のときから、父から後継者と期待されてたんですよ。」
奥の壁に掲げたご尊父の写真にそっくりな、窪田さんだ。
奥の壁に掲げたご尊父の写真にそっくりな、窪田さんだ。
お父様の奮闘で絶滅を免れたオナガドリだが、強く種が続いて行くように、近親交配にならぬよう増殖させてきたそうだ。

近年、大学の研究機関で分析してもらったところ、DNA的に問題ない交配だということがわかり、近親交配にならず永く続いていけると保証されたという。実地での苦労や経験が生かされてきたということだろうか。人間ってすごい。
ちなみに、この穴はネズミが開けたもの。トリのエサを狙ったようで。
ちなみに、この穴はネズミが開けたもの。トリのエサを狙ったようで。
そしてネズミを捕る係のチャチャ。仕事のできる猫だそう。昼は喫茶室で寝て、夜にご出勤。
そしてネズミを捕る係のチャチャ。仕事のできる猫だそう。昼は喫茶室で寝て、夜にご出勤。
明治20年頃の飼育箱。今の箱のほうが20cmほど大きいのは、改良で尾がそれだけ伸びてきているため。
明治20年頃の飼育箱。今の箱のほうが20cmほど大きいのは、改良で尾がそれだけ伸びてきているため。
ところで、オナガドリ?それとも長尾鶏?本当はどっちが正しいんですか?

「難しいんですよね。昔は尾長鶏(オナガドリ)と言ったんですが、なぜか当時の文化省がその名前ではダメだという。たぶん“オナガ”っていうトリがいるからだと思うけど、今でも謎。

なので、親父が長尾鶏と書いて“チョウビケイ”と名付けたんです。現在の文部科学省になってから、名称は“土佐のオナガドリ”、登録名称は“長尾鶏”と、2つの名前になってます」

多少ややこしいが、つまりどちらも正しいわけです。
あ、それからこれぜひに、と。もしやその尾を・・・
あ、それからこれぜひに、と。もしやその尾を・・・
やっぱりくださった!盛り上がってしまい、ピントがトリ本体に合ってしまった。今も私の部屋の長押に飾ってある。
やっぱりくださった!盛り上がってしまい、ピントがトリ本体に合ってしまった。今も私の部屋の長押に飾ってある。
しかし悩みは「後継者」だという。今はこういったトリを飼う人がめっきり少なくなったという。確かに、最近あまりオナガドリの話題を耳にすることも少ない気がする。

保存のための費用は、市から少し援助はあるようだが、けっして楽なものではないようだ。

最近、若い夫婦が県外から移住して、オナガドリを飼いたいと問い合わせてきているらしい。一筋の光明だろうか。

続けていくのは我々の義務なんです、と静かに話す窪田さんたちだった。
こういう写真を撮るのも一苦労だとか。少しでも風のある日は羽が舞い上がってしまってダメなんだそうだ。
こういう写真を撮るのも一苦労だとか。少しでも風のある日は羽が舞い上がってしまってダメなんだそうだ。
館内にあった写真。余談だがこれがもともとの土佐犬だという!闘犬とは全然違う・・・
館内にあった写真。余談だがこれがもともとの土佐犬だという!闘犬とは全然違う・・・
保存会で確認されているオナガドリは約200羽。多くはない。だからこそ「国の天然記念物」として貴重なものなのだろうが、今回来てみたセンターで見たものは、そういう言葉の輝かしさとは違った、地道な積み重ねの集大成のようなものだったと思う。

その土地にある産物がどのように生まれ、守られてきたか。またこれからどう変わっていくのか、変わらず守られていくのか。その一例を見ることができて、予想以上に興味深い訪問だった。

【告知】

イベント・その1)

いよいよ今週末!すごいゲスト決定。

11月1日(日)18時スタート
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イベント・その2)

これは来月末。“つまらぬ”賞も出るよ!

11月27日(金)19時スタート
片桐仁×乙幡啓子のまた、つまらぬ物を作ってしまったvol2~お台場旅情編~
お客様に自作の「つまらぬ物」を持ってきていただき皆でつまらぬつまらぬ言い合う楽しいコーナーも再び!
お題は「文房具」。他、自由部門もあります。
つまらぬ物で競い合いましょう。
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