特集 2013年10月14日

香港のエスカレーターには各停と急行がある

エスカレーターファンにとって夢の国
エスカレーターファンにとって夢の国
1階とばし、2階とばしのエスカレーターってあるだろう、東京だと、たとえば空港で地下から出発階に行くためについていたりする。
それがどのショッピングセンターにも標準装備の街があった。香港だ。
香港のエスカレーターがとにかくヤバかったので、そのことについてお伝えしたいのだ。
1984年うまれ、石川県金沢市出身。邪道と言われることの多い人生です。東京とエスカレーターと高架橋脚を愛しています。

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香港のエスカレーターのここがヤバい1:
地下から地上まで全部長い

香港ってこういうところだ。狭い場所ににょっきにょっきとビルが生えている。
香港ってこういうところだ。狭い場所ににょっきにょっきとビルが生えている。
香港のビルはとにかく高い。どんな建物もとにかく上へ上へと伸びていく。地下鉄網が充実し、下へ、下へと掘っていった東京で一番長いエスカレーターは地下にあるが(りんかい線大井町駅のエスカレーターです)、香港は地上のエスカレーターが長い。建物が高いから、1階とばしや2階とばしの急行エスカレーターが充実しているのだ。
どういうことかというと、こういうことだ。ふつうの各階停止エスカレーターもありながら、あえての急行ロングエスカレーターという選択肢を完備。
どういうことかというと、こういうことだ。ふつうの各階停止エスカレーターもありながら、あえての急行ロングエスカレーターという選択肢を完備。
そして地下へのエスカレーターも長いし
そして地下へのエスカレーターも長いし
のぼってきた先、地上のエスカレーターもめちゃ長い。
のぼってきた先、地上のエスカレーターもめちゃ長い。
このロングエスカレーターたち、ぜんぶひとつの同じショッピングモールのものだ。すごい。何階にいるのだかすぐにわからなくなるが、目的地へはスピーディーに到達できる。
中国本土の経済発展もあいまって、未だイケイケムードの香港。エコとバリアフリーが主流になってきた21世紀日本と違って、ここでは「速い」と「高い」が俄然正義なのだ。
外見からして非常にヤバい(褒め言葉)ビルもがんがん建つ。
外見からして非常にヤバい(褒め言葉)ビルもがんがん建つ。
たとえば、いちばん最近できて、ガイドブックにもまだ載っていなかった、Hysan PLACEというショッピングプラザがヤバい。ロングエスカレーターが浮き彫りになっている。なんだこれは。
というわけで乗りにいく。4,7,9,11F直通の急行エスカレーターだ。
というわけで乗りにいく。4,7,9,11F直通の急行エスカレーターだ。
日本だと確実にバリアフリーを考えてエスカレーターじゃなくエレベーターをつけるところだ。現に、新しくできた渋谷ヒカリエとかもみんなそうなっている。なぜエスカレーターなんだろう。香港の人、エスカレーター好きすぎるだろう(私が言うことでもないが)
浮き彫りの内部はこんなことになっている。
浮き彫りの内部はこんなことになっている。
下りは12階から。外が丸見えでエスカレーターしかない狭い空間に大興奮である。たぶん、香港には高所恐怖症のひととかいないんだろうと思う。
下りは12階から。外が丸見えでエスカレーターしかない狭い空間に大興奮である。たぶん、香港には高所恐怖症のひととかいないんだろうと思う。
そして、世界一長いエスカレーターも香港にある。
ただし、このエスカレーターは、世界一長いといっても江ノ島エスカーと同じ乗り継ぎ式で、エスカレーター自体が長いわけではない。小野さんがレポートしているように、エスカレーターファンとしての興奮はそれほどないが、斜面の角度に合わせていろんなタイプのエスカレーターが見られる意味ではお得だ。
まず、斜面の緩い最初の部分はエスカレーターではなく動く坂道である。これはこれでレアでお得。
まず、斜面の緩い最初の部分はエスカレーターではなく動く坂道である。これはこれでレアでお得。
そしてこんな具合にトンネル式屋外エスカレーターが延々と続いていくのだが
そしてこんな具合にトンネル式屋外エスカレーターが延々と続いていくのだが
いちばんの見所は、段差が低い緩斜面エスカレーターがあるところだろう。これはなかなか珍しい。言ってくれればもっと早く見に来たのに。
いちばんの見所は、段差が低い緩斜面エスカレーターがあるところだろう。これはなかなか珍しい。言ってくれればもっと早く見に来たのに。
やっぱ香港のひと、エスカレーター好きよね。
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香港のエスカレーターのここがヤバい2:
とにかくどんな建物にもエスカレーターがついている

長いエスカレーターもいっぱいあるが、短いエスカレーターも充実しているのが香港のいいところだ。東京だとほぼエレベーターしかつけないような間口の狭い雑居ビルの入り口にも、隙さえあればエスカレーターをつけちゃうのだ。
たとえばマツモトキヨシの入り口がこれだった、というところを想像してください。この狭さにダブルクロスつけにくるかね。
たとえばマツモトキヨシの入り口がこれだった、というところを想像してください。この狭さにダブルクロスつけにくるかね。
だから、その狭さとその低さで上下エスカレーターにするかね。
だから、その狭さとその低さで上下エスカレーターにするかね。
だから、その微妙な角度でわざわざエスカレーターにするのかね。そうかね。日本で言うと日比谷線の地下鉄出口がこうなってるところを想像してください。
だから、その微妙な角度でわざわざエスカレーターにするのかね。そうかね。日本で言うと日比谷線の地下鉄出口がこうなってるところを想像してください。
とにかく街を歩いていれば、右をみても左をみてもいたるところにエスカレーターのある街だ。素敵だ。香港のひとには、エスカレーターと階段を併設する、という発想は、どうやらないらしい。階段をつけるくらいなら、エスカレーターにすればいいじゃない。
香港の銀行、HSBCのエスカレーターのつけかたなんかは、すごく好みだ。階段?エレベーター?なんで?エスカレーターであがってこいよ!と言わんばかりの俺様っぷり。惚れる。
香港の銀行、HSBCのエスカレーターのつけかたなんかは、すごく好みだ。階段?エレベーター?なんで?エスカレーターであがってこいよ!と言わんばかりの俺様っぷり。惚れる。
あるいは、歴史的建物の復元である観光スポットにも、ど真ん中にエスカレーターを設置しちゃうのよね。イカす。
あるいは、歴史的建物の復元である観光スポットにも、ど真ん中にエスカレーターを設置しちゃうのよね。イカす。
やっぱ香港のひと、どう考えてもエスカレーターが好きよね。

話が脱線するが、「高い」と「速い」が正義の香港では、「涼しい」も圧倒的に正義だ。どの建物も強烈な冷気が外にまであふれるくらいの強冷房だ。そのため、香港の建物には、正面にエアコンの室外機がやたらとついている。香港に着いて早々にそれが気になってやたらと室外機の写真を撮ってきた。いま写真を見返すとしかし、どう考えてもその密度がおかしい。
ふつう、マンションのエアコンの室外機って、「1部屋に1つ」ですよね
ふつう、マンションのエアコンの室外機って、「1部屋に1つ」ですよね
ちょっとつけすぎな部屋がありますよね?
ちょっとつけすぎな部屋がありますよね?
この建物なんかは、室外機置き場がついているけど……
この建物なんかは、室外機置き場がついているけど……
「1窓に1つ」はおかしいです…よね……?
「1窓に1つ」はおかしいです…よね……?

見れば見るほどぞくぞくしてくる写真なので、せっかくなので紹介させてもらった。
ついでに話はさらに脱線するが、こんな具合にエスカレーターとエアコンが大好きな香港で、建設現場の足場は竹製だ。
竹をぎゅっと紐でゆわえて組み上げる職人技。
竹をぎゅっと紐でゆわえて組み上げる職人技。
こんな高い建物でも竹だ。
こんな高い建物でも竹だ。
竹なのだ。
竹なのだ。

どんなに高い建物でも大きな建物でも必ず竹だったので、特になんの疑問も持たれてないのだろう。こんなところではかなりエコ。
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香港のエスカレーターのここがヤバい3:
完璧なスパイラルづかい

スパイラルエスカレーターとは、当サイトでも何度か紹介しているが、世界でも三菱電機しか実用化していない、高度技術の結晶である素晴らしい乗り物である。
なのだが、それが登場したバブル期をピークに、日本ではもうあんまり需要がないのが現状だ。スパイラルがつけられている建物も、次々テナントが入れ替わってパチンコ店になっていたり、やや物悲しい。
その点、この未だ勢いの衰えない街のスパイラルエスカレーターづかいは思い切りがよく素晴らしかった。
香港タイムズスクエアに納入されているスパイラルエスカレーター。オーバル型の吹き抜け空間にぴったり合わせた形で、地下から2階まで、上下2基ずつシンメトリーに設置されている。
香港タイムズスクエアに納入されているスパイラルエスカレーター。オーバル型の吹き抜け空間にぴったり合わせた形で、地下から2階まで、上下2基ずつシンメトリーに設置されている。
三菱電機の開発チームの皆さんも、さぞやお喜びだろうという、スパイラルのハマりっぷりだ。いやぁよかった、よかった。
ちなみに、香港から船で片道60分ほどの島、マカオのカジノにも、スパイラルエスカレーターがある(ヴェネツィアン・マカオ)
ちなみに、香港から船で片道60分ほどの島、マカオのカジノにも、スパイラルエスカレーターがある(ヴェネツィアン・マカオ)
さらにちなみに、香港から電車で片道2時間ほどの街、中国広州市のオフィスビルにも、ある(羊城国際商易中心)。三菱の関係者の方以外でわざわざここにエスカレーターを見に来た日本人はおそらく私くらいだろう。きてよかったなー。
さらにちなみに、香港から電車で片道2時間ほどの街、中国広州市のオフィスビルにも、ある(羊城国際商易中心)。三菱の関係者の方以外でわざわざここにエスカレーターを見に来た日本人はおそらく私くらいだろう。きてよかったなー。

香港のエスカレーターのここがヤバい4:
かなりたくさんのエスカレーターメーカーを見ることができる

エスカレーターメーカーの見わけについてはここここで記事にしたが、海外メーカーのエスカレーターをたくさん見たいなら、まず香港に行けばよい。世界中のどんな都市よりも充実していた。
日本でも珍しい、三菱製の部分照明タイプも健在。日本メーカーは、三菱、日立、東芝、フジテックとメジャーどころはすべて進出を確認した。皆さんがんばっていらっしゃるなー。
日本でも珍しい、三菱製の部分照明タイプも健在。日本メーカーは、三菱、日立、東芝、フジテックとメジャーどころはすべて進出を確認した。皆さんがんばっていらっしゃるなー。
オーチス、シンドラーの2強体制は香港でも変わらず、欧州からは、Thyssen Krupp(ドイツ)、KONE(フィンランド)、CNIM(フランス)が進出。
Thyssenは感覚で言うと海外ではオーチス、シンドラーに次ぐくらいのシェア。
Thyssenは感覚で言うと海外ではオーチス、シンドラーに次ぐくらいのシェア。
世界一長いエスカレーター、ミッド・レベル・エスカレーターはCNIMだった。
世界一長いエスカレーター、ミッド・レベル・エスカレーターはCNIMだった。
初めて見たのはDONG YANG(マレーシア?)
初めて見たのはDONG YANG(マレーシア?)
とANLEV(中国)、アジア系のレアメーカーをまとめて見られるのは香港だけだ。
とANLEV(中国)、アジア系のレアメーカーをまとめて見られるのは香港だけだ。
ちなみに、スパイラルエスカレーターを見に行った広州市には中国だけのOTISレアブランド床板が!かっこいい!!
ちなみに、スパイラルエスカレーターを見に行った広州市には中国だけのOTISレアブランド床板が!かっこいい!!
では最後に勝手にランキングです。

香港のヤバいエスカレーター勝手にランキング第3位:
中国客運埠頭(チャイナフェリーターミナル)

マカオに渡るフェリーに乗ったターミナル。飛行機なんかと同じで、便によって搭乗口が決められているのだが、その搭乗口というのが
すべてエスカレーターなのだ。上がarrivalで下がdeparture、ご丁寧に各搭乗口に2基ずつだ。大盤振る舞いにもほどがある。
すべてエスカレーターなのだ。上がarrivalで下がdeparture、ご丁寧に各搭乗口に2基ずつだ。大盤振る舞いにもほどがある。
そんでもってこのエスカレーター、上のメーカーがDONGYANGで下のメーカーがANLEVと、どちらも初めて見るレアメーカーなのだった。心臓に悪いのでそんな大事なエスカレーター一挙につけちゃうのやめてください。
しかも夜は光る。美しい。
しかも夜は光る。美しい。
大盤振る舞いはこれだけでは終わらない。フェリーを降りた先のショッピングモールは、エスカレーター12基並列という、わけのわからない豪華さだった。
日本だと有楽町マリオンに鏡をつかって同じように無限エスカレーターにしたところがある(http://www.tokyo-esca.com/esca/2009/09/001.html)が、ここ、鏡じゃない。リアル無限エスカレーターなのだ。ぐふぅ。第3位。
日本だと有楽町マリオンに鏡をつかって同じように無限エスカレーターにしたところがあるが、ここ、鏡じゃない。リアル無限エスカレーターなのだ。ぐふぅ。第3位。
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香港のヤバいエスカレーター勝手にランキング第2位:
香港タイムズスクエア

スパイラルエスカレーターを見に来たタイムズスクエアだったが、着くなり4基並列のロングエスカレーターがお出迎え。乗るしかないでしょ。
スパイラルエスカレーターを見に来たタイムズスクエアだったが、着くなり4基並列のロングエスカレーターがお出迎え。乗るしかないでしょ。
のぼった先がとんでもないことに。大吹き抜け空間に1階とばしの急行エスカレーターが縦横無尽。
のぼった先がとんでもないことに。大吹き抜け空間に1階とばしの急行エスカレーターが縦横無尽。
しかも全部シースルーときているからして。ここに住めるな、私。
しかも全部シースルーときているからして。ここに住めるな、私。
そんでもって、ここの地下には先ほどご覧いただいたとおりのスパイラルエスカレーターが鎮座しているのだ。鼻血モノ。第2位。
そんでもって、ここの地下には先ほどご覧いただいたとおりのスパイラルエスカレーターが鎮座しているのだ。鼻血モノ。第2位。

香港のヤバいエスカレーター勝手にランキング第1位:
ランガムプレイス

第一位は、九龍側の旺角(モンコック)という繁華街にある複合施設、ランガムプレイス。
これは各停のエスカレーターだが
これは各停のエスカレーターだが
上がった先に巨大な吹き抜け空間があって、超ロングエスカレーターが鎮座する。ここ、ビルの4階ぐらいの高さだと思うんだけど。
上がった先に巨大な吹き抜け空間があって、超ロングエスカレーターが鎮座する。ここ、ビルの4階ぐらいの高さだと思うんだけど。
東京では、この手のエスカレーターは以前、池袋の東京芸術劇場にあった(これです)だが、おそらく「怖い」という理由でリニューアル時に撤去され、今は2つに分けられたエスカレーターで壁際に沿って進むようになっている。それもまた致し方なしと思っていたのだが
4階から超ロングエスカレーターを上った先の7階から、さらに同じぐらい長いエスカレーターがのびてゆくのだ。
4階から超ロングエスカレーターを上った先の7階から、さらに同じぐらい長いエスカレーターがのびてゆくのだ。
下りは想像したとおりのかなりの絶景。囲いも東京芸術劇場と違って足下までガラスでばっちり見えるようになっている。香港にはやっぱり高所恐怖症のひととかいないんだとおもう。
下りは想像したとおりのかなりの絶景。囲いも東京芸術劇場と違って足下までガラスでばっちり見えるようになっている。香港にはやっぱり高所恐怖症のひととかいないんだとおもう。
もともと高い位置にある外の景色まで見えちゃって、しかも日本より速度も速いし本当にヤバい。これはエスカレーターの楽しみがわかってるひとによる仕業にもう間違いない……ありがとう。1位に決定。
もともと高い位置にある外の景色まで見えちゃって、しかも日本より速度も速いし本当にヤバい。これはエスカレーターの楽しみがわかってるひとによる仕業にもう間違いない……ありがとう。1位に決定。

エスカレーターはアジアが熱い

いろんなことに配慮している東京のありかたもまた素晴らしいと思うけど、世界にいくつかは、こんな夢の空間があったっていいんじゃないかしら。香港は、そのまま怖いものなしでエスカレーター最前線を突き進んでいただきたい。また来ます。
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