特集 2013年1月17日

エスカレーターの模型をつくる

一家に一台エスカレーター
一家に一台エスカレーター
2013年、今年も精一杯エスカレーターを愛でていきたい。
まずは、エスカレーターの模型をつくってみた。
1984年うまれ、石川県金沢市出身。邪道と言われることの多い人生です。東京とエスカレーターと高架橋脚を愛しています。

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エスカレーターの構造をわかりたい

エスカレーター偏愛歴も10年近くになるが、じつをいうと私はかなりフィーリング重視のファンなので、エスカレーターの構造とか歴史とか型番とか技術面にてんで疎い。今年はこのあたりを強化していこうと思っている。
というわけでまずは構造だ。階段のステップが、最初は平坦で、そして階段になって、戻るときには平らになって戻ってくるのである。
うん、わからない。
メーカーのホームページをみると、だいたい簡単な構造が載っているのだが、 わからない。
メーカーのホームページをみると、だいたい簡単な構造が載っているのだが、 わからない。
透明のエスカレーターを延々と眺めていたこともあるのだが、わからない。
ちなみに自分で図を描いてみたところ。ひどい。
ちなみに自分で図を描いてみたところ。ひどい。
紙に描いてもご覧のありさまで、さっぱりわからない。
であるからして、ここはひとつ、立体の模型を作ってみたらいいんじゃないか、と思ったのである。

そうだ、木製エスカレーターをつくればいいんだ

と、たったいま思いついたみたいに書いたが、じつはエスカレーターの模型を作ったひとは既にいて、ちょっと前にインターネットの世界で話題になっていた。
これがそちらの動画
すごい。すごすぎる。
私も作るぞ、と思ってじっくり拝見すると、まずステップ用のアルミを切るところから始まっている。無理である。金属って、え、切れるの?一般家庭で?
ほかにもあらゆるところが無理っぽかったので、こちらの動画を参考にさせてもらうのは3秒で諦めて、私なりの道を探すことにした。

まず、素材は木だ。本物だって、最初は木から始まったのだ。
もう何度も紹介しているが、ニューヨークのデパート、メイシーズにある木製エスカレーターである。何度みても、いいものはいい。
もう何度も紹介しているが、ニューヨークのデパート、メイシーズにある木製エスカレーターである。何度みても、いいものはいい。
希少性という意味では、木製のほうが圧倒的に価値も高いし私も好きだ。木だ。木のほうがいいにきまってる。
そして、この際、駆動は電動じゃなくてもいいことにしよう。手回し式で問題ない。なぜなら私はエスカレーターの構造をよく理解したいだけだからだ。

エスカレーターにはクリート(溝)が必要だ

この先人の模型で唯一不満な点があるとすれば、ステップにクリートが入っていないということである。
クリートというのは、どのエスカレーターのステップにも必ず入っている、あの溝である。すいこまれるときにうまくかみあってすごく気持ちがいいアレである。
木製エスカレ―ターにだってばっちり入ってる。
木製エスカレ―ターにだってばっちり入ってる。
金属も切れないくせに、いきなりディテールにこだわるなとお叱りを受けそうだが、エスカレーターの歴史的にこの溝は譲れない。なぜなら、この溝がないと、まっすぐ降りようとするときに吸い込まれて大変危険なので、最初のエスカレーターは横降り方式だったのだ。だから、まっすぐ降りるには絶対に溝が必要なのである。それに、見た目重視派としても、エスカレーターのエスカレーターらしさと美しさはこのクリートが担っているといっても過言ではないとおもうの。
以前、エスカレーター動画を公開したときに、エスカレーターが吸い込まれるところをもっと見たいという声があったので、期待にお応えして延々とエスカレーターが吸い込まれ続ける動画もつくってみた。溝ラブ。
さて、ではその溝をどうやってつけようか。木彫り? 彫刻刀で一筋一筋丁寧に…?
わりと真剣に検討した後、私は運命の素材に出会ったのだよね。
それは、ダンボールだ!!!
それは、ダンボールだ!!!
皮を1枚はがせばほら!エスカレーターだ!!!
皮を1枚はがせばほら!エスカレーターだ!!!
そういう経緯なので、これからダンボールで作っていくことになるが、また手軽に安くすませたな、とか、例のダンボール工作の人気に乗っかったんだな、とか、思わないようにしていただきたい。それもあるが。
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工程1:ステップを作る

ダンボールによるクリートは、表の皮を1枚はいだときにあらわれる。インターネット上のダンボール工作の先人が「水につけると綺麗にはがれる」と言っていたので、そのとおり切って、水につけて、はがして、乾かす。
まず、分厚くていいダンボールを選んで、切り出す。
まず、分厚くていいダンボールを選んで、切り出す。
数秒水につけると、たしかに、ぺろーと綺麗にはがれて気持ちがいい。
数秒水につけると、たしかに、ぺろーと綺麗にはがれて気持ちがいい。
乾いたら、三角に折ってはりつけてステップを作る。
乾いたら、三角に折ってはりつけてステップを作る。
たくさん作る。
たくさん作る。
本当はもっときちんと寸法を測ったほうがいい。それに正三角形じゃなくて直角三角形に近い形である。まぁなんとかなるだろう(ならないとあとでわかる)。

工程2:エスカレーターを動かす歯車をつくる

ここまではステップの構造図そのまま(と言うか、かなり簡略化しているものの)だが、問題はここからである。ステップをぐるぐると回転させ動かすための構造の部分だ。
ちなみにエレベーターなんて箱に糸つければ完成だ。
ちなみにエレベーターなんて箱に糸つければ完成だ。
あとは上からひっぱるだけだ。なんて簡単な構造。
あとは上からひっぱるだけだ。なんて簡単な構造。
よくエレベーターマニアだと勘違いされたり、エレベーターとエスカレーターを同じくくりで語られたりするが、この対比をみれば、エレベーターなど、高度でエレガントなエスカレーターと同列で語るべくもない単純な機械だとわかっていただけるだろう。
エレベーターのことを悪く言いたいがために、こんなに雑に作っているのだろうと思われたかもしれないが、いまから作ろうとしているエスカレーターも、これと同レベルのものを目指している。要するに、動けばOK。がんばるぞ。

回転の駆動となる歯車部分は既成素材をつかうことも考えたのだが、主にどこに売っているかわからないという理由で、これもダンボールをつかうことにした。頼りにするのはやはりインターネットの先人の知恵である(こちらの小学生が作ったポップコーン製造機が特にすごかった)。
歯車1号。トイレットペーパーの芯を切って、表をはがしたダンボールをはりつける。
歯車1号。トイレットペーパーの芯を切って、表をはがしたダンボールをはりつける。
あとはこれを左右両輪つくって
あとはこれを左右両輪つくって
反対に内側をはがしたダンボールのチェーンをかませる
反対に内側をはがしたダンボールのチェーンをかませる
チェーンの穴にステップにつけた竹串をはめ込んでいく。
チェーンの穴にステップにつけた竹串をはめ込んでいく。
歯車の駆動がどの位置にあるのが正しいのかいまいちよくわからない。真ん中に1台だけでいいような気もする。しかし、チェーンに竹串をさすというアイディアが気に入ったのでこれを採用することにした。
試作1号機 トイレットペーパーの芯モデル
試作1号機 トイレットペーパーの芯モデル

工程2’ 歯車を強化する

うん、これダメだ。チェーンをかませてまわす手前で既にダメだった。
足りないのである。半径が。
足りないのである。半径が。
のっけから、左右両輪スタイルはなんか違うんじゃないかという気配が濃厚になってきたが、結局最後までこのスタイルでいくので諦めてほしい。どうしたかというと、歯車をでかくしました。
強化モデルの歯車素材は、ガムテープの芯。例によって寸法はてきとうである。
強化モデルの歯車素材は、ガムテープの芯。例によって寸法はてきとうである。
切ってるとき、カッターが折れてあわや大惨事という事態に…強度は十分そうだな…。
切ってるとき、カッターが折れてあわや大惨事という事態に…強度は十分そうだな…。
試作2号機 ガムテープ芯モデル
脱線した。それもこれも、寸法をまったく測っていない私が悪いのである。うう。
エスカレーターの脱線事故なんてあんまりきいたことがない。ホワイトバランスを変えたらホラーみたいな写真になった。。
エスカレーターの脱線事故なんてあんまりきいたことがない。ホワイトバランスを変えたらホラーみたいな写真になった。。
つぎに、寸法の誤差は無視して、芯と土台を強化したモデル。
試作3号機 ガムテープ芯強化モデル
なんとかまわるようになった。かなりがたついているが、歯車はこれでよしとする。
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工程3 前輪レール、後輪レールをつくる

このままではまださっぱりエスカレーターらしくない。階段状になっていないからだ。そしてこの、階段状にするためのギミックが、もっともわからない部分でもある。
と思っていたところで、エスカレーターファンとしてのとあるお仕事の際に、とてもいい資料をもらった。
いまだかつてなくわかりやすい図解である。
いまだかつてなくわかりやすい図解である。
エスカレーターのステップには、三角形の2つの点に、それぞれ前輪と後輪がついていて、その前輪を運ぶレールと、後輪を運ぶレールとの間隔の差で、乗るときは平らで、のぼるときは階段という構造を作り出しているのだ。ほほーう。
後輪をうしろから押し上げると、たしかに階段になるためのポテンシャルを秘めている。ほうほう。
後輪をうしろから押し上げると、たしかに階段になるためのポテンシャルを秘めている。ほうほう。
そのレールは、いったいどうやって作ろうか。
さらにインターネットの世界を彷徨っていたところ、今度は、レゴ・テクニックでエスカレーターの模型を作っている方を発見した(こちら)。レゴ・テクニックとは、レゴのブロックを使って、自動車やパワーショベルなんかが作れ、しかも作る過程でモノの動く仕組みがよくわかるという、とても優れたおもちゃである。欲しい。そういうわけなので、この方の動画をみていたら、仕組みがよくわかった。
後輪のレールに的をしぼって描いたところ。レールが途中で切れて、エスカレーターの上と下で、後輪がそれぞれ外側と内側を通る。なるほどー。
後輪のレールに的をしぼって描いたところ。レールが途中で切れて、エスカレーターの上と下で、後輪がそれぞれ外側と内側を通る。なるほどー。
なるほど。
しかし私の根気はこれを完璧に作るには少々心もとなくなってきた。あとは模型による試行錯誤で、どうしても必要なレールだけ、設置していきたい。
どう作るかというと、もちろんダンボールで作る。
どう作るかというと、もちろんダンボールで作る。
内側のレールはどこで止めたらいいのか最後までよくわからなかった。よって、途中で宙ぶらりんの変なレールになっている。
内側のレールはどこで止めたらいいのか最後までよくわからなかった。よって、途中で宙ぶらりんの変なレールになっている。
どうしても必要だったレールは計3本。どうです、最初に描いてた図に比べたら、だいぶ構造を理解できるようになってきたじゃないですか。
どうしても必要だったレールは計3本。どうです、最初に描いてた図に比べたら、だいぶ構造を理解できるようになってきたじゃないですか。
作業も佳境に入ってきた。
このあと、ステップの数が足りなくて増やしたり、チェーンを継ぎ足したり、レールの強度が足りなくてホットボンドを買ってきて強化したりの地味な作業がつづく。
焼き鳥を食べ、
焼き鳥を食べ、
ダンボールを乾かす、史上最高に地味なクリスマスである。
ダンボールを乾かす、史上最高に地味なクリスマスである。
正月は実家に帰って、富山の新湊大橋を観に行った。
正月は実家に帰って、富山の新湊大橋を観に行った。
1月14日、この日は東京が富山みたいなすごい天気になっていた。絶好の工作日和である。
1月14日、この日は東京が富山みたいなすごい天気になっていた。絶好の工作日和である。
そして相変わらず私の前にエスカレーターの模型がある。あと少しである。山みたいなすごい天気になっていた。絶好の工作日和である。
そして相変わらず私の前にエスカレーターの模型がある。あと少しである。山みたいなすごい天気になっていた。絶好の工作日和である。
いったん広告です

完成

!
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ついに完成した。
ついに完成した。
苦労したレールの部分はこんな構造に。だいぶ省略したがまぁまぁうまくいっている。
苦労したレールの部分はこんな構造に。だいぶ省略したがまぁまぁうまくいっている。
クリートにこだわったのが功を奏して、見た目上はかなりそれっぽいとおもう。
クリートにこだわったのが功を奏して、見た目上はかなりそれっぽいとおもう。
エスカレーターの見た目ファンが言うのだから間違いない。このレベルの“エスカレーターらしきもの”であっても、正面から、上から、横から…などいつものように撮影していると、いつも実物のエスカレーターの写真を撮っているときと同じ興奮があって、自分のことながら、マニアって怖いなとおもった。手すりがついていないことは今の今まで忘れていたが、手すりのないほうが美しいじゃないか。満足である。よかったよかった。

…え? 動くところはどうしたか?
あ、うん、ええっと…問題ない。ちゃんと動くぞ。
ね?(だんだん動きがおかしくなるものの)
ちなみに裏側ではこのような苦労をしている。昔の機械は「たたいたら直る」ことがあったが、それがどうしてなのか、とてもよくわかった気がする。
ひとしきり撮影に興じて、ふと振り返ったら静寂があった。今年もがんばって生きていきたい
ひとしきり撮影に興じて、ふと振り返ったら静寂があった。今年もがんばって生きていきたい

次は電動モデルを作ります

一応は動くモデルを作ることはできたが、レゴ・テクニックの前例もあることである。次は電動で、手すりもついていて、そしてきちんとのび太を運べるモデルを作りたいな(いつになることだか)。
ちなみに台座を取り払うと動く歩道モデルになる。
ちなみに台座を取り払うと動く歩道モデルになる。

おしらせ

関係のない宣伝を失礼します。
「女の子がエスカレーターをのぼっていくところで終わる短編小説」7本と、私の撮ったエスカレーターの写真48基をおさめた同人誌を出版しました。
インターネットから冊子版、PDF版ともに通販できます。サンプルもありますので、よければこちらのサイトをみてください。

なかなかいい本だとおもいます。
なかなかいい本だとおもいます。
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