特集 2011年11月8日

深刻な若者の車離れ、それにスキップ離れ

車が選択肢として現れた!

いきなり個人的な話で申し訳ないが、30代に入った私は所帯を持ち、子供が生まれて生活が一変した。若者でなくなったのだ。

すると途端に車が便利なものに思えてきた。「高くても、あればいいかもしれない」と思えてきたのだ。
これが車である。よくできた工業製品の美しさがある。
これが車である。よくできた工業製品の美しさがある。

スキップは一向に選択肢にならない

かたやスキップである。こちらは一向に選択肢として現れる気配がない。

これまでも、そしてこれからもその気配はない。
そしてこれがスキップである
そしてこれがスキップである
これはスキップを横から見た図である
これはスキップを横から見た図である
♪~
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ディーラーに行ってみよう

車を所持する可能性について、車を売っている人に相談してみてはどうだろう。ディーラーに行くことにした。

車を売る店は、自動車店といわずにディーラーというカタカナ語があるようだ。

この時点ですでにちょっとした贅沢であり、自動車税なんてものがあるのも当然だと思える。
まさかこういう店に自分が入るとは想像してなかった
まさかこういう店に自分が入るとは想像してなかった

ディーラーで話を聞いてみよう

お店に入るなり、さわやかなスーツ姿の男性が迎えてくれた。

「こんにちは、今日はいかがなされましたか?」

家族ができて生活が変わり、車を持つことについて相談しにきたことを告げると、こころよく窓際の席に通された。

「何か飲まれますか?」

と聞かれ、いやいやけっこうです、と断ったときに、私は一抹のやましさを感じていることを知った。

ちらっと見た男性のプロフィールには、「特技:ひよこの鳴きまね」と書いてあった。してほしかったが、どうしても言い出せなかった。

やはり私は車を買わないだろうし、買えないのだろう、とその時はっきりとわかった。
ドリンクメニューはカプチーノからはじまっている。ワキに冷たい汗を感じた私は即座に内ポケットの財布に手をやった。
ドリンクメニューはカプチーノからはじまっている。ワキに冷たい汗を感じた私は即座に内ポケットの財布に手をやった。

私にぴったりの車が決まっていた

「これは155cm内ですし、あとこのグレードを選べばスライドドアなんです」

知らぬ間に私の乗るべき車が決まろうとしていた。ルークスというらしい。

「アクティブ家族の"賢い選択"」

カタログにはそんなコピーが躍る。賢い選択とは何か?それは155cmとスライドドアだ。

155cmというのは立体駐車場におさまる車高のことで、スライドドアというのはドアがスライド式で開くのだ。なんだその小さな話は!
これがスライドドア。スライドドアだと横にスペースがなくても大きくドアが開くという。なんだか全てにそれなりの理由があるようだ。
これがスライドドア。スライドドアだと横にスペースがなくても大きくドアが開くという。なんだか全てにそれなりの理由があるようだ。

小さな選択の積み重ねで大きな買い物

「あー、すいません、これは156cmなんですけどね」と、車高が1cmオーバーしてることを謝られた。

これが車を買うということなのか。あんなに大きな買い物なのに、なんてせせこましいことをやってるのだろう。

しかしドアがスライド式に開くとか、運転席の後ろにポケットがあるとか、そういう小さなオプションの積み重ねで値段はけっこう開く。
「このシリーズの違いは‥‥運転席の後ろにポケットがあることですね」ここはなんて細かく刻む世界なんだ!
「このシリーズの違いは‥‥運転席の後ろにポケットがあることですね」ここはなんて細かく刻む世界なんだ!

とてもいいものだが150万か

はじめてのディーラー入店は濃い体験で舞い上がってしまった。車高が1cm違うことを謝られたり、さらっと電気自動車が売られていたり。(もうそんな時代なのか!)

そして肝心の「車がある生活のメリット」もいくつか挙げてもらった。実際それを聞くと、車があるといいなと強く思った。

デメリットである費用についても伺った。軽自動車でも最初に150万くらいは用意しておかないといけないようだ。

「ガソリン代や保険のグレードにもよるんですけどね~」

営業マンの声が次第に遠くなり、私はスキップのことを考えていた。
スキップ。それはタダ。とんだりはねたりこれだけしてやってタダなのだ。
スキップ。それはタダ。とんだりはねたりこれだけしてやってタダなのだ。

スキップが選択肢として見えてきた

軽自動車でさえ150万かかるのに、スキップはタダ。

例えば屋台で売られている、あの厚みも、味も、色さえもぺらっぺらのソースせんべいがあるだろう。スキップはあれより安いのだ。

さあ、にわかに立ち上がってきましたスキップという選択肢。

「アクティブ家族の賢い選択」実はそれこそがスキップなのかもしれない。

アクティブには「元気な」という意味もある。元気なのはルークスよりスキップの方だろう。(もちろん後に「アクティブ家族の愚鈍な選択」であることが判明する)

今後は車の代わりとしてスキップを検討していくことにする。
たとえば家族でIKEAにスキップで行けるのだろうか? (写真は記事『手近なお店で海外旅行、そしてIKEAはすごかった』より)
たとえば家族でIKEAにスキップで行けるのだろうか? (写真は記事『手近なお店で海外旅行、そしてIKEAはすごかった』より)

車の強み

それでは実際に車の代わりにスキップで行こう。

車で行きたい場所としてパッと思いついたのはIKEA。郊外の家具屋に行ってみたいと思う。

なぜIKEAなのか?ここで聞き出した車のメリットをざっくり箇条書きにしてみよう。

・行動範囲がひろがること
遠くに行ける。雨が気にならない。

・行動目的が増えること
物を運べる。人も運べる。

・プライベートスペースが持てる
子供が騒いでもいいし、 授乳もできる

・こだわりとして
車はかっこいい

・趣味として
ドライブは楽しい

やはり大きいのは車の行動力なのである。
IKEAはどこにある?という妻に、駅前の地図でいうならこの左下くらい、徒歩4~50分の距離だ、と。
IKEAはどこにある?という妻に、駅前の地図でいうならこの左下くらい、徒歩4~50分の距離だ、と。

スキップでIKEAまで行く家族

IKEA港北店は新横浜駅からシャトルバスが出ている。帰りのバスではみんな大きな荷物を抱え「車があればなあ」というCO2の高そうな空気を鼻から噴き出している。車内には車欲しいガスが充満し、小鳥などはすぐ死ぬ。

このIKEA行きがスキップで達成されれば「遠くにいける」「物を運べる」 という大事なニ点でほぼ車に肩を並べたと言ってもいいだろう。
徒歩40分には妻もガクッときたようだ。わかるぞ、その気持ち。
徒歩40分には妻もガクッときたようだ。わかる、でも誰も悪くないんだよ。

スキップでIKEAまで行く

さすがに最寄り駅までは電車で移動した。

バスの出てない小机駅まで来た。ここからだと徒歩40分くらいだろうか。IKEAに行きそうな人はだれもいない。

40分と聞いた妻の顔に黒い雲がたちこめる。おや、これは一雨きそうだ。
雨はご心配なく。この上着はナイロン製だし、荷物もベビーカーにたくさん入ります。
雨はご心配なく。この上着はナイロン製だし、荷物もベビーカーにたくさん入ります。

一気に3つ肩を並べた

しかし大丈夫、雨といえば私の着ている上着はナイロン製なので雨に強い。これで車メリットの「雨が気にならない」 を達成できたのではないだろうか。

1才半の娘はベビーカーに乗せて、ある程度の荷物もこのベビーカーに積んだ。「物を運べる」「人を運べる」 もこれで達成。

達成したのはナイロンの上着とベビーカーの力も大きいが、全部込みでのスキップ行、さあ出発だ。
ともあれ出発したときには楽しげな空気になるこのスキップ力
ともあれ出発したときには楽しげな空気になるこのスキップ力

スキップの楽しさについて!

スキップを国語辞典でひくと「交互の足で軽くとびはねること」とある。

これだけでなんだか楽しくなってきやしないだろうか?

この交互にとびはねることの楽しそうな感じはなんなのだろう。

例えばこれを見てもらいたい。
!
どうだろうか?もちろん普通の足あとである。

それではこちら↓をごらんいただきたい。
!

足あとだけで楽しげだ

なんて楽しそうなんだろう。そう、スキップである。

普通の足あととスキップの足あと、それだけでもこんなにちがうのだ。
「あ、ライフルで肩を撃ちぬかれている‥‥」そんな血痕があったとしても、それでも楽しそうに見える。それがスキップである。
「あ、ライフルで肩を撃ちぬかれている‥‥」そんな血痕があったとしても、それでも楽しそうに見える。それがスキップである。

足あとだけで楽しげだ

足あとだけでいいならこれはどうだろう?

タッタッタッタッタッタッタッタッ
タタッタタッタタッタタッタタッタ


ここでもやはりスキップである。

この「ッ」を一つ飛ばしたときに生まれる高揚感や推進力、それがスキップ力である。

「べっぴんさん、べっぴんさん、一つ飛ばして、べっぴんさん」

これもスキップ力が漫才のつかみとして社会に役だっている例である。

以前テレビ番組を見てたら「怒ってるときに、スキップのような体が楽しいと記憶してる行動をとると、怒りが静まる」 という学説を紹介してる方がいて、思わずほんまでっかと叫んだことがある。

してる方も見てる方も半ば暴力的なまでに「楽しい」 のがスキップなのだ。
本当に口角が上がっていくこのアッパー感
本当に口角が上がっていくこのアッパー感
子供はそのリズムだけでゲタゲタ笑う
子供はそのリズムだけでゲタゲタ笑う

走行性能はどうだろう?

車の代わりとしてのスキップであるから、その移動力ははいかほどなのだろうか?

スキップで100mのコースを走ってみたところ、22秒42でゴールをした。記録自体は凡庸な結果であったものの、特筆すべきはその見た目である。

この写真をご覧いただきたい。これは100m何秒だろう?
インプレッサ!ランサーエボリューション!いや車じゃない、これはスキップなのだ
インプレッサ!ランサーエボリューション!いや車じゃない、これはスキップなのだ
そう、3秒を切ってくる。そのタイムはもう車じゃないか、と言われてもおかしくはない見た目になるのだ。

→見た目の速さは車と変らない(実速は大きく劣る)

パワーはどうだ?

「軽自動車だとパワーが物足りなく感じる、という方がけっこういらっしゃるんですよね」

先ほどのディーラーでの会話だが、移動力というなら坂道などでのパワーはたしかに重要かもしれない。

これをご覧いただきたい。スキップ開始後10分してからの坂道の写真である。
スキップ開始後10分ほどしたあとの坂道がこれ。惨敗である。
スキップ開始後10分ほどしたあとの坂道がこれ。惨敗である。
惨敗である。一気に20年はふけこんだ。スキップの馬力はないに等しい。馬力のことはいっそ忘れてしまおう、次はかっこよさをがんばりたい。

→パワーは著しく劣る
しかし下りの楽しさといったらない
しかし下りの楽しさといったらない
この車のかっこよさを基準にしたいのでよく覚えていてほしい
この車のかっこよさを基準にしたいのでよく覚えていてほしい

こだわりとして、かっこよさはどうだ?

車のパンフレットを色々見せてもらっていると、内装がどうだ顔つきがどうだ、とどれも見た目について言及されていた。

そうだ、車はかっこよさを求められるものであり、かっこいいものなのだ。

さてスキップはどうか?スキップのかっこよさとは?
どうだろうか?車に対抗してかっこよさを追求した結果、ひじを先行させるスタイルを開発した。ひじファンに受けることだろう。
どうだろうか?車に対抗してかっこよさを追求した結果、ひじを先行させるスタイルを開発した。ひじファンに受けることだろう。
こちらはどうだろうか?車高を低くし、空気抵抗をへらした機能美で勝負しようとしている。おそろしく腰が痛くなるスタイルだ。
こちらはどうだろうか?車高を低くし、空気抵抗をへらした機能美で勝負しようとしている。おそろしく腰が痛くなるスタイルだ。
4年前に奇しくも同じ撮影場所でF1になろうとしていた(記事『F1になりたい』より)
4年前に奇しくも同じ撮影場所でF1になろうとしていた(記事『F1になりたい』より)

人より車の方がかっこいい

限界がある。かっこよさで人間は車に勝てない。黒木メイサとフェラーリのどちらがかっこいいだろうか?

それはどっちもかっこいいんだけど(例えがわるかった)さて、どうしたものか。

公園で目に入ったのはスケボーやBMXなどのエクストリーム系スポーツ。これだ、このかっこよさを取り入れてみたい。
スケートボードのトリックを集めたようなスキップビデオを作成してみた
まさかこれがスキップだとはだれも思うまい
まさかこれがスキップだとはだれも思うまい
よし、「かっこいい」 は達成できた。これで「趣味はスキップです」と答えても、ああ、スケートボードとかBMXのあれね♪と好印象を与えることだろう。

移動力に戻ろう。肝心のIKEAにはいけたのか?
わー、楽しい♪とはしゃいでは‥‥
わー、楽しい♪とはしゃいでは‥‥
へばるサイクルが段々と短くなり
へばるサイクルが段々と短くなり
ここをIKEAだと思うことにした(日産スタジアム)
ここをIKEAだと思うことにした(日産スタジアム)

IKEAにはたどりつけなかった

すねに張り付いている筋肉がひきつり、次第に足が上がらなくなった。

省エネスキップだといって、頭の中でスキップのリズムをつけたただの歩行もしていた。これもある意味ではスキップではないか?そんなスキップのポストモダン状況が次第に歩みを鈍らせていった。

そして日産スタジアムの前でスキップを止めた。

スキップは圧倒的に燃費が悪い。移動力という点で車に大きく引き離される。車どころか歩きにも劣る。ダントツで遠くに行けないのがスキップなのである。

IKEAには行けなかったわれわれだが、それに代わるレジャーを見つけた。

そう、スキップである。
午後は家族でスキップ大会をして帰った
午後は家族でスキップ大会をして帰った

これからも若者は離れつづける

若者の車離れ、たしかにこれは本当なのかもしれない。しかし景気の悪化によるところも大きいだろうし、本当に離れたとは一概には言えない。

対して若者のスキップ離れ、これこそ本当である。

たしかにスキップは楽しい。半ばむりやりな楽しさがあるし、スキップは麻薬といってもいいだろう。

若者よ、どうか口うるさいおっさんの戯言だと思って聞いてほしい。

スキップをするとやせるよとか、頭がシャッキリするよとか甘い言葉に誘われるかもしれない。そしたら一度IKEAにスキップで行ってごらんなさい。ファンタを二本飲むことになる。

移動手段としてスキップを選択する若者はこれまでも、そしてこれからも現れないだろう。スキップは若者離れして当然。みなさん安心してスキップから離れてください。
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