特集 2011年9月19日

おとなの算数ゲーム「つり銭たくさんもらい競争」

小銭を積み上げろ!
小銭を積み上げろ!
俺はおつりを減らすために小銭をチマチマ出していくような、小さな男である。男ならもっと、コンビニであんパンひとつ買うにも万札バーンと出して、「つりはこれに詰めてくれ、ガッハッハ」と言いながら小銭のどっさり入ったズダ袋を投げ、店員がつり銭を詰めている間にその場で今買ったあんパンを丸呑みする。そんなふうにありたいものだ。

…バンカラな感じをイメージして描写してみたが、そんなシーンはマンガでも見たことがない。想像力が暴走しすぎた。行き過ぎたたとえ話は一旦忘れていただくとして、とにかく、たまにはおつりをたくさんもらってみてはどうかと思ったのだ。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

前の記事:エキスポ報告~ワラ人形作って墓場でビンゴ~

> 個人サイト nomoonwalk

釣り銭あつめてタワーを建てよう

釣り銭をたくさんもらうジャラジャラ感は、メダルゲームで大当たりになったときに似ている。しかも全部現金なのだ。メダルゲームのメダルが現金だったらそれは違法賭博だが、おつりは合法だ。

このすばらしい「おつり」をさらに楽しむために、ゲームを考えた。題して、「おつりタワー建造ゲーム」だ。
タワー(イメージ)
タワー(イメージ・こちらの記事より)
ルールはこうだ。

・ひとりにつき、1000円札1枚ずつを用意

・店に入り、一人ひとつずつ何かを買う。このときできるだけおつりの硬貨の数が多くなるようにする。

・同じように4軒の店をまわる。

・最後に釣り銭を積み上げてタワーを作り、一番高かった人が勝ち
金額ではなく、おつり硬貨の数と厚みで勝敗が決まるのがポイント。

もちろん、両替をしたり、店員に言ってわざと細かい小銭でおつりをもらうのは反則。タワーの材料にはあくまで天然のつり銭だけを使用しなければならない。
ゲームの参加者は3人。左から、石川(筆者)、工藤さん、安藤さん
ゲームの参加者は3人。左から、石川(筆者)、工藤さん、安藤さん
3人とも当サイトの編集部員であり、おつりをこよなく愛するおつり愛好家でもある。(僕以外の二人には確認してないがきっとそうだろう)
最初の軍資金、千円札を配布
最初の軍資金、千円札を配布
この一枚のお札が全ての始まりだ。誰よりも高いタワーを建てて、自分のおつりを天まで届かせたい。

1軒目・まずはコンビニで肩慣らし

最初のお店は会社の最寄りのコンビニ。
いつもお世話になっております。
いつもお世話になっております。
おつりを少なくする計算は普段からやりなれているけど、多くする計算はあまりしたことがない。勘所がまったくわからないまま、手探り状態の1店目だ。
一番手の工藤さん。お菓子コーナーのあたりを見に行ったかと思えば、あっさりレジを済ませて出てきた。なにか小物を買ったようす。
一番手の工藤さん。お菓子コーナーのあたりを見に行ったかと思えば、あっさりレジを済ませて出てきた。なにか小物を買ったようす。
つづく安藤さんは熟考派。店内をさんざんうろうろしたのち、同じくなにかちいさい物を買って出てきた。
つづく安藤さんは熟考派。店内をさんざんうろうろしたのち、同じくなにかちいさい物を買って出てきた。
ひとりだけ荷物がでかい筆者。
ひとりだけ荷物がでかい筆者。
僕は103円のお茶を買った。値段がそこそこ安いことと、3円の端数がたくさんのおつりを作ってくれそうだったからだ。

レジで千円札を出すと、渡されたおつりはずっしりと重い。あの一枚の紙切れがこんなに大量のコインに化けたのだ。日本の貨幣制度、こんなに太っ腹で大丈夫なのか、と心配になる。
3人が買ったのはこれ
3人が買ったのはこれ
工藤さんと安藤さんがかぶった。ブラックサンダー32円。二人とも口をそろえて「これ以外には考えられない」という。いっぽう僕が買った103円のお茶。どっちがおつりが多いか、パッと判断できますか?
やった!一枚多い!
やった!一枚多い!
タワーを撮りたかったのにピントを奪い去るほどの笑顔
タワーを撮りたかったのにピントを奪い去るほどの笑顔
どうだ!

…と結果に対しては単純に嬉しいんだけど、正直わからん。なんでおつりが多くなったのかピンとこないのだ。
もちろん引き算でおつりの代金を出して、それを払うには何円が何枚…っていうのを考えればわかるけど、ほら、おつりを少なく払うときってそんな風に考えずに、もっと直感的に計算してるじゃないですか。そういう勘が働かないのだ。

全員で首をかしげながらも、それぞれ今後の方針を立てる。
安藤:一円玉を増やす。値段の一の位が1や2のものを狙う。

工藤:10円以下の物を買って十円玉の獲得を狙う。ただし9円だと一円玉が減るので、よく考えねば。

石川:一円玉と十円玉をバランスよくふやす。
「一円玉がキモ」と主張する安藤さん
「一円玉がキモ」と主張する安藤さん
ちなみに工藤さん、「よく考えないと…」のあとに小声で「でもよくわかんないから自分が欲しい物を買おう」って言った。本音だ。

安藤さんはといえば「こういうのうまくやらないとtwitterにバカとか書かれるんだよな…」と、早くもノイローゼに突入していた。

西友・ビニール袋が勝敗を握る

次にやってきたのは西友。

西友には裏技がある。レジでビニール袋を断ると、会計から2円割引になるのだ。これをうまく使えば、お釣りを増やすこともできるだろう。
ということを目の前の二人についついペラペラしゃべってしまった
ということを目の前の二人についついペラペラしゃべってしまった
隠しておけば有利に持ち込めたはずの裏技を、うっかり教えてしまった。2店目にこういう応用問題を持ってくるゲーム設計の巧妙さ、それをひけらかしたくなってしまったのだ。かくして条件はみな同じに。

なお、ここから制限時間をつけた。西友は時間制限10分。集合時刻を確認すると、3人一斉に店に潜る。

魅惑の末尾「1」

8分ほどが経過した時点で、なんとも魅惑的なコーナーにたどり着いた。
末尾「1」の数々。最安は21円!
末尾「1」の数々。最安は21円!
その後105円の商品も見つけて迷ったのだけど、もうこんがらがってきて判断つかなかったのでとりあえず21円のラムネをつかんでお会計。
まもなく浮かない顔で工藤さんがでてきて
まもなく浮かない顔で工藤さんがでてきて
つづいて自信ありげな安藤さん
つづいて自信ありげな安藤さん
そして買ったもの、ドン
そして買ったもの、ドン
まず工藤さんが、115円のゼリー飲料を、ノーバッグの裏技使用で113円。実は値段を見誤って買ってしまったそうで、さっき浮かない顔をしてたのはそのためだ。

そして安藤さんがキクラゲ102円。僕がクッピーラムネ21円。2人は裏技を使わず。例によってつり銭の量がピンとこないので図で表すと…。
またもリード(図にあるコインは今回のおつりで、持ち越しぶんは含まない)
またもリード(図にあるコインは今回のおつりで、持ち越しぶんは含まない)


今回のおつりは安藤さんと僕が互角だが、さっきのコンビニの1枚差を持ち越し僕がトップ。工藤さんは痛恨の値段間違いにより、僕とは3枚差という結果に。

ところでこのゲーム、僕が思いつきで作ったルールなので、「2回戦くらいで必勝法が見つかってゲーム成立しなくなるのでは」と危惧していたのだが、いまのところコツなんてぜんぜんつかめない。ただ2つわかったことがあって、

・100円はらうとき、60円と20円はおつりの数が同じ(60円なら十円玉×4、20円なら十円玉×3&五十円玉×1)

・でもコインには厚みがあるため、20円のほうが有利(十円玉より五十円玉のほうが厚い)


こういう細かいテクニックが発見されるごとにゲームは戦略性を増し、面白くなってくる。
この回での痛恨の失敗をバネに、次は工藤さんが羽ばたく
この回での痛恨の失敗をバネに、次は工藤さんが羽ばたく
いったん広告です

限られた選択肢・マクドナルド

3店目はマクドナルド。西友やコンビニと比べると圧倒的に商品が少なく、かつ値段はすべて10円単位。選択肢が限られているだけに、作戦が問われる。

たとえばバリューセットで百円玉を数枚使うかわりに大量の十円玉をゲット、といったような、「安い=おつりが多い」の先入観を覆す選択肢もあるかもしれない。
ここでおもむろに携帯を取り出す工藤さん
ここでおもむろに携帯を取り出す工藤さん
上の写真の満面の笑みを見てもらえればわかると思うが、彼には作戦があったのだ。

それが、クーポンの存在。価格ラインナップの少ないマクドナルドも、割引クーポンを使えば、値段のバリエーションがぐっと広がる!
これ以上ない、という笑みでコーヒーを買ってきた
これ以上ない、という笑みでコーヒーを買ってきた
安藤さんは紙袋。もしかして高めのバーガーを攻めたか
安藤さんは紙袋。もしかして高めのバーガーを攻めたか
そしてここでとんだ番狂わせが。
首位を走っていたはずの僕が
首位を走っていたはずの僕が
レジ前で長考することのプレッシャーに耐えかね
レジ前で長考することのプレッシャーに耐えかね
まさかの100円ドリンク!
まさかの100円ドリンク!
精神面での弱さが出た。レジでメニューとにらめっこすること数十秒、「店員さんを待たせている」というプレッシャーに耐えかねて、おつりのない100円メニューを選んでしまったのだ!
慌てるにしてももっとマシな選択肢はあったと思うのだが、このときは本当に動転していた!
というわけで買ったのはこれだけ
というわけで買ったのはこれだけ
工藤さんの渾身の一撃、アイスコーヒーは120円だった。いやしかし、僕も工藤さんの動きを見て、マクドナルドのサイトでクーポンをチェックしたのだ。でもコーヒーなんてなかった。なぜ…、と思っていたら、どうもドコモのサイトのクーポンをつかったそうだ。盲点…!

しかも安藤さんは店頭メニュー上で目ざとく120円の商品を発見。アイコンチキンだった。そしてそのどちらも見つけられなかった僕は100円…。
逆転
逆転
安藤さんがトップに躍り出て、僕と工藤さんが並んだ。最後の店で再逆転にかけるしか…。

といいたいところなのだが、僕のゲーム設計のまずさにより、このときすでに逆転の芽は摘み取られていたのである。

よりによってラストの100均

そう、最後は100均なのだ。値段はすべて105円。ここで差はつかない。

実は、全員同じ値段にすることによって「どの硬貨で払うか」の面で戦略性を持たせようとしたのだが、この時点で全員、一番効率のよい100円玉2枚を持っていたため、意味がなかった。(誰かが500円玉もってたらまた違ったんだけど)

あきらめ半分で入店、制限時間は10分。
そして目の前に現れた1枚の案内
そして目の前に現れた1枚の案内
安藤さんが「2個105円のお菓子をひとつだけ売ってくれ」と店員に交渉しているのを聞き流しながら店内をうろついていると、上の写真の案内が目に入った。157円。200円出せば43円=7枚のおつり!!

と思って必死で店内を探したのだが、このシールが張られた商品は見つからず、結局全員105円の商品を購入。
4店目いらなかったんじゃないか疑惑(正解)
4店目いらなかったんじゃないか疑惑(正解)
もうみんな自由に自分がほしいものを買っている
もうみんな自由に自分がほしいものを買っている
勝負あり。もう優勝者は歴然だが、いちおう最終結果をごらんいただこう。
安藤さん優勝
安藤さん優勝
4度の買い物を経て、1000円札から最終的に28枚の小銭を作り出した安藤さんが優勝。

楽しかったけど、壮絶に頭を使う戦いであった。
こうして3つの塔が建造された
こうして3つの塔が建造された
ちなみに、写真ではわかりにくいが石川タワーと工藤タワーを比べると石川タワーのほうが微妙に高い。これは枚数が同じでも硬貨の内訳が違うからで、工藤タワーのほうが薄い一円玉が多くなっているのだ。

そういうわけでこのゲーム、頭は使うがものすごく面白い。

ざっとあげただけで

・おつりの金額
・5円、50円の存在
・500円玉を使うタイミング
・硬貨の種類ごとに違う厚み
・クーポンやマイバッグによる値段調整
・制限時間との戦い


これだけ多くの戦略要素のあるこのゲーム。終了後は、全員が「もう1回やりたい」と言っていた。ただし、まだ一度もこのゲームをやったことがない人を相手に…。

ところでずっと気になっていたと思いますが

なぜ3人ともおそろいのTシャツを着ているのか。それはチャリティ企画でYahoo!オークションに出品していた「記事で名前入りTシャツ着ます」権を「うなぎ屋 譽兵衛(よへい)」様に落札していただいたためである。

同じ落札者の方が「デイリーポータルZのロゴ変更権」も落札されたため、この記事の掲載時点(2011/9/15)ではサイトロゴもうなぎ、Tシャツもうなぎ、とサブリミナルにもほどがある状態になっている。

今日の夕方ごろに「今日はなんだか無性にうなぎが食べたいなあ」と思われる方がたくさんいると思うが、その節はぜひうなぎ屋 譽兵衛(よへい)にアクセスしていただきたい。
偶然だがズボンも全員にたような色のをはいており、全身ペアルックのようで恥ずかしかった
偶然だがズボンも全員にたような色のをはいており、全身ペアルックのようで恥ずかしかった
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ